第33話 遭遇・戦闘 Side:霜月
私を先頭に、周囲を警戒しながら歩いて移動する。
最寄りの非常口まで、歩いて2・3分程度だが空間振動が観測された以上、既に魔物がこちら側に出現していてもおかしくない。
戦闘用の装備を身に着けていない為、最下級の魔物であっても不意打ちを喰らえば大怪我は免れない。
用心に越した事はない。
非常口まで後少しという処で、優ちゃんが足を止めた。
どうしたのか確認を取ると、子供の泣き声が聞こえるという。
私達も耳を澄ますが、サイレンと非常放送以外は聞こえない。
空耳だろうと断じて、脱出を図ろうとする前に優ちゃんは声の聞こえる方に走り出してしまった。
私達も慌てて後を追う、ショッピングモールの奥、色々と死角の多い場所で母娘が居た。
まさか、本当に居るとは思わなかった。
母親は、足を
母親は、子供だけでもと言うが、流石に見捨てることは出来ない。
山崎に母親を背負わせ、若桜が少女を抱き上げて、再び非常口を目指して小走りで移動する。
空間振動を観測してからの10分足らずだが、既に魔物が出現してる可能性が高い。非戦闘員を抱えた状態で、
場所も悪かった。
最寄りの非常口まで、歩いて10分弱掛かる。
小走りなら5分掛からない。
非常口が見えた。更にペースを上げて非常口に向かっている最中に優ちゃんが「止まって」と叫んだ。
我々は、先程の事もあるので停止して状況を確認する。
我々の進行方向の空間に
優ちゃんが止めなければ、我々は空間の
空間の隙間に落ちた者がどうなるかは分からないが、過去に空間の隙間に落ちた者で生死を問わず帰還したものは居ない。
まさに間一髪だった。
割れた空間を見ていると、魔物が割れた空間の隙間から現れた。
赤黒い鱗を身にまとった巨大な
優ちゃんは、その大きさと容姿からドラゴンと思ったようだが、こいつは
ある意味、最悪の魔物だ。
通常の
体高50cm程度、体長2~3m位の大きさで、火を吐く能力、強靭な
しかし、
それは、大きくなるほど鱗の強度が飛躍的に固くなり、残忍な性格になる。
小さい奴は、
大きくなると近接戦闘を好む様になり、相手の弱い所から攻める。
また、自分が圧倒的に優位だと分かると、相手を
心身共に追い込み、絶望させてから頭から
仲間が居るなら、それを見せつけながら行う。
当然、誰一人逃げることが出来ない。
背を見せれば、確実に殺しに来るからだ。
体高3mにも達するこいつは、おそらくBランク相当だろう。
このサイズになると鱗も相当固く、重火器なら戦車砲クラスを持ち込まないと鱗を破壊出来ないだろう。
後は、我々の様に肉体・武器に
その手加減された
やはり、戦闘用装備を着けてない状態だと貫けないか。
非番かつ買い物目的だったため、非常用の携帯装備も持って来なかったのが裏目にでた。
私は、両腕に氷のジャマダハルを作り、心臓の上の鱗を削り崩す為、連続で攻撃を叩き込む。壊れた氷のジャマダハルは、都度再構築して叩き込む。
私専用のジャマダハルを装備の上、超硬質氷を
内心焦りながらも、ひたすらに攻撃を叩き込む。
時折、私が邪魔に思うらしく、攻撃も来るが軽く
そのタイミングで、優ちゃんは
最初のうちは、背を見せて逃げようとしたため、強烈な一撃を貰っていたが、今では少しずつ距離を取る様にしている。
しかし、優ちゃんが恐怖や痛みの為、パニックを起こすこと無く冷静に対応してくれているので大変助かる。
優ちゃんのダメージを考えると、あまり時間が残されていない。
私自身の魔力量も残り僅かだ。
さあ、どうする?
「優ちゃん。
若桜の叫ぶ声が聞こえた。
「若桜、何を言っている」
若桜の指示内容は、無茶だ。
どれだけ優秀な能力を持っていようとも、戦闘訓練を受けてない人間が魔物に体当たりなど出来るはずがない。
そう思った直後、背後から強烈な魔力を感じたので、反射的に横に飛んで
車が壁に衝突したような派手な衝突音がして、元いた方向に2m以上飛ばされ、転がり止まった。
その直後、
優ちゃんがぶつかった衝撃に耐えられなかったのだろう。
私は、即座に
氷の杭を成長させながら打ち込んだ為、先端が砕けるそばから再生させた。
鼓膜を突き破り、頭蓋骨を破砕しながら杭が脳にまで到達する。
脳に到達した氷の杭を樹状に成長させながら、回転させて頭蓋骨内をミキサーの様に掻き回すと、
私は、討伐を確認してから優ちゃんを探した。
優ちゃんは、
私は、優ちゃんに近づき戦闘が終わったことと礼を言うと彼女は、起き上がり周りを確認した後泣き始めた。
若桜達もこちらに向かってくる。
優ちゃんが泣き始めたのに呼応する様に、若桜が抱えている少女も泣き出した。
取り敢えずハンカチで顔についた血を出来るだけ拭き取った。
私もひっくり返りたい気持ちを抑えて気丈に振る舞った。
若桜曰く
「生死のかかった極限のストレス状態から解放されたのだから、しばらくこのまま泣かせてストレスを発散させたほうが良い」
ということなので、そのまま泣かせている。
若桜が抱えている少女は、直ぐに泣き止んで眠ってしまったが、優ちゃんは泣き止む気配が無い。
そのまま様子を見守っていると、ようやく地域防衛隊の隊員達が姿を現した。
私の所属と現状を伝え、直ぐに除染準備と母娘を病院に送る手配をさせた。
その間に、優ちゃんも泣き止んだのだが、なんだか様子がおかしい。
若桜もそれに気付いたのか、抱いていた少女を隊員に渡して診察を始めた。
どうやら、一時的な記憶の混乱で幼児化している様だ。
数時間から数日で治るらしいので、問題はないとの事。
応援の隊員達を現場に残して、少女を抱っこした隊員と共に出動してきた部隊の前線本部に向かう。
前線本部に待機していた救急車に母娘を載せて、病院に送り出す。
その際、山崎に氷室や八重花に事情の説明とここで簡易除染を受けた後、研究所へ向かう旨を伝えて欲しいと伝言した。
私達3人は、簡易除染で
魔物の血が着いた衣服は、ここで回収され処分される。
魔物の血は、他の魔物を呼ぶ効果がある他、毒だったり、腐敗だったりと厄介な追加効果があるので、早々に処分される。
簡易除染が終了後は、提携病院にて本格的な除染と身体検査が行われるのだが、我々は研究所に直行して除染と身体検査を行うことにした。
その方が、優ちゃんの情報が漏れ
今頃、提携病院前にはマスコミでいっぱいだろう。
推定5~6歳の精神年齢になってしまった優ちゃんを若桜と共に相手しながら、研究所まで移動、除染、身体検査を行った。
若桜は、優ちゃんの診断のために魔物の血塗れの優ちゃんに触れただけなので問題がなかった。
私は、
問題は、優ちゃんだった。
精神の幼児化は一過性だから問題は無いが、
幸い、内蔵・脳に損傷が見られなかった。
あの
検査と治療の後、教導隊隊舎で予備の制服に着替えてから、一旦帰宅して私服に着替えてから研究所に戻る。
私の家は、隊の官舎だから敷地内にあるので直ぐに往復できる。
下着類は、研究所内の売店で買えるので問題はないが、流石に服までは扱っていないので、家まで帰るしかなかった。
若桜は、自分の研究室に着替え一式を置いてあるので、着替えに戻っている間、優ちゃんの面倒を見てもらった。
優ちゃんを連れて食堂で3人で夕食を取る事にした。
外見以上に幼い言動と行動に、娘の小さかった頃を思い出して、懐かしさを感じながら世話を焼いていた。
若桜と一緒に優ちゃんの相手をしながら様子を見ていて判明した事は、精神年齢が5歳位に下がったことと直近10年分位の記憶が曖昧になっている事が判明したが、時間と共に少しずつだが記憶が戻っているので明日の朝には、元に戻っていると思われる。
若桜曰く
「この幼児退行状態の記憶も残るだろうが、あまり覚えていないだろう。しかし、何らかの影響は残る事と、
とのだった。そこは、記憶が戻った後に判断するしか無いな。
21時ちょっと前に、優ちゃんが船を漕ぎ始めたので検査入院していた時に使っていた部屋に寝かしつけた。
家に帰るかと思ったが、やはり優ちゃんが気になるので研究所の仮眠室を借りれないかと若桜に頼んだら、若桜も同じ考えだったらしく、それなら監視室を仮眠室として使う事になった。
ここなら、いつでも優ちゃんの様子を確認する事が出来るという。
若桜と共に、監視室で時折優ちゃんの様子を確認しながら、今日のことを振り返る。
お互いの検地とバイタルメーターのデーターを擦り合わせながら、状況を確認すると、不可解な点が出てきた。
1.空間振動が検知された数秒前から、
2.活性状態で、Dランク相当の魔力量が体を循環していたが本人に自覚なし。
3.我々が聞こえなかった少女の泣き声が聞こえていた。
4.空間が割れる前に、割れる場所に気付いた。
5.致命傷になってもおかしくないダメージを受けたのに、骨に
不可解な点は見つかったが、私は研究者では無いので、優ちゃんが大怪我をしなかったので良かった事にした。
若桜が「なんで軽く流すのよ」というから、「現場を
その後も、雑談と考察と優ちゃんの寝顔見ながら夜の時間を過ごし、日付が変わる前に眠りに着いた。
自分の未熟さを思い知らされる一日だった。
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