第170話 国家の闇(1)

 食堂で配膳を貰って席に着くと、私の前に都竹さんが座り、他の人が座り切る前に

「神城さん、朝言ったいた事って、どういう意味?」

 と言ってきた。


「ん? 何の事?」

 私は何を聞かれているのか分からなかった。


「ほら、例のアレと、余程の事が無い限り会うことは無いって言ったこと。

 私なんか、休憩時間の度に突撃してくるんじゃないかって思っていたんだけど」

 そう言うと、周囲をキョロキョロと見渡している。


「ん! ああ、その事ですか。

 貴方達が問題を起こさない限り、会う事は無いですよ」

 私がサラッと返すと、4人共怪訝な顔をする。


「では、その彼が今何処に居ると思います?」

 と問うと、都竹さんの回答は

「あの時、気絶していたから、保健室で寝ているのでは?」

 というものだった。


 かなり見当違いをしているので

「今頃、強制収容所に移送中ですよ」

 と答えた。

 4人共『うそ』と大声を出した。

 周囲から注目されたが、直ぐに興味を失った様に視線が霧散した。


「でも、何で?」


 都竹さんの質問に対して

「ただの喧嘩や指示違反なら、教育官等のお説教と罰位で済むでしょう。

 能力アビリティ行使違反なら、強制収監所で数日過ごす事になるでしょう。


 しかし、彼の様に危険な思想の持ち主は、即強制収容所送りです。

 強制収容所で、矯正教育が行われます。

 なので、ここに戻ってくる事は有りません」


 私の回答に対して、田中さんが

「頭がおかしいと思ったけど、危険な思想って思わなかったよ」

 と言うと

「うんうん。アレは頭がおかしかったよね」

 鳥栖さんが同意し

「ほんと、賠償にお金と身体を要求するとか、狂っているよ」

 土田さんが、うんざりした様子で言葉を紡ぐ。


 都竹さんは

「あと、能力アビリティを使って攻撃しようとしたからかな。

 でも、コレって思想では無いよね」

 と答える。


「まあ、大きく外れていません」

 と答えると

『え?』

 と、4人は意外だという顔をして私に注視している。


 私は、ため息をついてから

「非能力者なら、自己中・傲慢・暴力的な頭のおかしい人か、自己愛ナルシシストで済んだのでしょうが、能力者では許されません」


「ナルシシスト? ナルシストの事?」

 鳥栖さんが疑問を挟んだ。


「意味は同じですよ。ただ、英語とオランダ語の違いですよ」

 と答えると

「へー、そんなんだ」

 感心された。


「ところで、能力者だと何故許されないの?」

 土田さんの疑問は当然だ。


「社会性の欠如が最大の問題です」


『社会性の欠如?』

 4人の声が重なった。


「ええ、そうです。

 彼の言動には社会性、法令や規範の遵守や他者への配慮が無く、ただひたすらに自身の欲求に忠実で、欲求を満たす為なら手段を選びませんでした。

 短時間の接触でしたが、彼に社会性が無いと言わざる言えません。


 そして、彼を放置していれば、一般市民に被害を出していたでしょう。


 いや、既に出ている可能性が高いですね。


 まあ、そこは警務課が調べるでしょう」

 私は、土田さん達に説明しながら納得する事にした。


「でも、何でそんな事したんだろう?」

 鳥栖さんが大きなため息をつきながら疑問を口にした。

「頭がおかしいから?」

 首をひねりながら田中さんが答えた。


「彼の言動を見るに、良心の呵責や罪悪感というものを感じていない様でした。

 むしろ、自分の要求が認められない事に苛立ちと怒りを感じていた感じだったので、非社会性パーソナリティ障害、もしくは反社会性パーソナリティ障害と呼ばれる障害の可能性もあります。

 まあ、その辺は専門家では無いので、そういう障害があると知っている位です」


 鳥栖さんが

「それって、治るの?」

 と聞くので

「どうでしょう? 治療は難しいとか聞いていません」

 と答えた。


「じゃあ、治療が終わったら戻ってくる?」


「いえ、戻ってきません。

 非社会性が認められなくても、強制収容所に送られたら一般社会に戻ってくる事はまずありません。

 誤審、冤罪めんざいが認められた時位ですかね。

 それ以外だと、聞いた事ないです」


「ほぇー、そうなんだ」

 鳥栖さんが納得した横で、土田さんが首を捻っている。


「どうしました?」

 と私が聞くと

「いや、ちょっと気になった事があって…聞いても良いのかな?」

 と言葉を濁した。


「まあ、私の分かる範囲で良いのなら」

 私がそう答えると、多少躊躇った後

「非能力者で非社会性が認められた人は、隔離されるの?」

 と聞いて来た。


 私としては、あまり聞いて欲しく無い内容だったのだけど、知っている以上仕方がないので答える。

「いいえ、犯罪を起こさなければ、普通に生活出来ます」


 私と土田さん以外は、『え?』と驚いていた。

「それじゃあ、その人が罪を犯して捕まった場合、どうなるの?」


「検察庁が起訴すれば、裁判にかけられます。

 刑罰が結審すれば、それが履行されます。

 なので、刑務所に入る事もあります」


「そうなんだ。

 それじゃあ、その人の刑期が終わったら、やっぱり釈放されるの?」


「釈放されます」

 私は、出来るだけ淡々と言葉を紡いた。


「そうなんだ」

 事実を理解した様で、鎮痛な声が返ってきた。


「え、どういう事?」

 田中さんの言葉示す様に田中さん達3人は、まだ良く理解出来ていないのか混乱した様な様子が見て取れる。


「神城さん。

 私は、強制収容所を能力者向けの刑務所だと思っていたのだけど、実際は違うの?」


 ああ、気づいてしまったか。

「ええ、違います」

 私の言葉に、土田さん達4人の顔が強張った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る