第171話 国家の闇(2)

「対魔庁の警務課が、一般社会の警察に相当します。

 強制収監所は、一般社会の拘置所と刑務所に相当する場所です。

 そして強制収容所は、です。


 一般社会に適合出来ない能力者を、の一部です」

 私の説明に4人は、絶句したまま固まってしまった。


「もう気づいていると思いますが、強制収容所への収監権限は、一定以上の職位があれば可能です。

 当然、訓練校の教育官にもその権限が在ります。


 一応、検察課での審査もありますが、司法を通さず刑の実行が可能です。

 また、申し開きの場も用意されていません。

 その為、検察課での審査で不当と判定される事は、まず無いと思って下さい。

 そして、司法の場に提起される事も滅多にありません。

 なので、裁判も行われる事は滅多にありません。

 全ては、規範に則って判断されます。


 我々能力者は、常に監視されている事を理解して下さい」

 私の言葉が終わっても、固まったままの4人。

 私は、彼女達を放置してそのままご飯を食べ進める。


 しばらく、硬直していた彼女達だが

「な、な、なによ。それー」

 土田さんが絶叫を上げた。


 土田さんの隣に座っていた都竹さんが、土田さんの絶叫で我に返り、慌てて土田さんの口を塞ぎ、周りを見渡す。

 口を塞がれた土田さんは、「モガモガ」と何か言っているが、周囲の訓練生は何事も無かった様に食事を取っている。


 周りを何度も見渡していた都竹さんが

「何で誰も反応していないの?」

 と問うので

「この話は、あまり大ぴらにする話ではありませんから、私達の周囲を防音結界で包んでいます。

 なので、周囲には何も聞こえていませんよ」


「いつの間に…」

 土田さんの口を押さえたまま、呟いている。

 その土田さんは、都竹さんの手で口と鼻を押さえられている為、抜け出そうと必死にもがいている。


「ところで、そろそろ手を放してあげたらどうですか?

 口だけでなく、鼻も押さえてますよ」

 そう言うと、都竹さんは慌てて土田さんの口を塞いでいた手を放して謝っていた。

 土田さんは、呼吸を整えながら都竹さんを睨んでいるが、本気で怒っている様子は無い。


 そんな二人を温かく見守っていると、田中さんが

「神城さん、今の話って、南雲さんが言っていた能力者差別と関係しているの?」

 と聞いてきた。


「その通りです。

 今回の事例も、その一例です。


 非能力者なら許容される内容でも、能力者には許容されない事は多々在ります。

 そして、その多くが隠蔽されています。


 まあ、それがクーデターの要因の一つだったとだけ言っておきます。


 それと、今話した内容は他言無用でお願いします。

 下手に周囲に漏らすと、あなた方も強制収容所に送られかねません。

 その場合、私の権限では、どうにもならないと思って下さい」

 私が念押しをすると、4人は青い顔をして一様に頷いている。


 少し落ち着いた所で

「そろそろ、ご飯を食べた方が良いよ」

 と言うと、鳥栖さんが

「あ、うん」

 と返事したのを皮切りに、食事に手を付ける。


 食後、人気の少ない場所に移動した。

 まだ、何か聞きたそうにしていたからだ。


 近くのベンチに座りながら防音結界を張る。

「防音結界を張りました。

 何かまだ、聞きたい事があるのでしょう」

 と言うと、田中さん達もベンチに座る。


「あー、なんかイライラする。なんで、こんな事がまかり通っているのよ?」

 鳥栖さんが爆発した。


 それに続いて、田中さんが

「まあまあ、落ち着いて。

 爆発する気持ちも分かるよ。

 私だってそうだもの。

 今まで気にした事なかったけど、言われてみたら理不尽よね」

 と返すと土田さんが

「本当にそうだよね。

 普段、全く気にした事なかったけど、目の前で実例を見ると理不尽に思えるよ。

 でも、アレは自業自得」

 と言葉を続け、都竹さんが

「うん、それには激しく同意」

 と答えた。


「ところで神代さん、他の国はどうなの?

 欧米とか人権にうるさそうなイメージがあるんだけど、知ってる?」

 土田さんが新たな疑問を口にした。


「一応知っています。知りたいですか?」


 私の問に土田さんは

「なんだか聞かない方が良い感じね。

 でも、気になるから教えて」

 と返した。


 私は、覚悟を決めて話す事にした。

「世界的に見ても、ほぼ日本と変わらず、能力者の権利に制限が掛けられています。

 独裁国家や強権国家等では、国の直接管理下に置かれている所も在ります。


 ですが共通しているのは、能力者が政治の舞台に誰一人立っていない事です。

 また、各国の人権擁護団体もこの件に関しては、沈黙を保っています」


「え!どうして?」


「過去に、能力者が政権を取った国々が全て滅んだからです」


「何故そんな事に?」


「まあ、要因は色々と在ります。

 独裁、強権、腐敗、内部対立等々例を上げれば切りが有りませんが、能力者が内政に強く干渉した結果、能力者の国外流出や魔物対応能力の低下が起こり、結果的に魔物暴走モンスター・スタンピートを誘発して滅んでいます。


 その為、各国は暗黙の了解の元、能力者の権利を制限しています」


「どうして、魔物暴走モンスター・スタンピートを誘発する事と繋がるの?」


「それは、人手不足です」


『人手不足?』


「日本を例にして考えてみましょうか。

 日本の人口は1億人強です。

 その内、能力者が11万人弱です。

 現在、在庁している人は、約8万人です。

 その内、約6万人が戦闘隊員で、防衛課が約5万5千人、戦術課が約5千人です。

 防衛課は、各県の大きさや魔物の発生頻度によって多少上下しますが、1県当たり1,100人位です。

 戦術課は、全国7部隊なので1駐屯地当たり約700人です。


 それらの人員全てが常に稼働状態ではありません。

 通常時の稼働人員数は、四分の一です。

 何故なら、24時間体制を維持するために3交代勤務しています。

 その為、各方面部隊は、4交代で勤務しています。


 なので、一度に任務に着く隊員は、防衛課は約275名、戦術課は約175名です。

 この数は、決して多くは無いのです。


 この人数で、広大な土地を監視・巡回・魔物の討伐を行っているのです。

 今でさえ人手不足なのに更に人数が減れば、当然魔物の跋扈ばっこを許してしまいます。

 その結果、魔物暴走モンスター・スタンピートを誘発します。

 魔物暴走モンスター・スタンピートを処理出来なければ国は滅び、処理出来ても大きく国力を落とす事になります。

 そうなれば、次はありません。

 次の魔物暴走モンスター・スタンピートで滅ぶか他国に併合させるだけです」

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