第172話 国家の闇(3)

 周囲に重い雰囲気が漂う中、私は説明を続ける。

「最後の国が滅んで50年を超えました。

 時代と共に魔物に対する知識と対策も進歩しましたが、能力者と非能力者の関係は変わっていません。


 これは能力者が、各国に取って重要戦力であると同時に、政府を脅かす脅威でもあるからです。


 だから各国政府は、能力者を国防に集中する様に世論と社会的仕組みを整え、政界に興味を持たない様に誘導しています。


 だから、能力者の権利を強く擁護する者は、政府によって社会的・物理的に排除されてきました。

 それが分かっているので、人権擁護団体も沈黙を保っています」


 私の説明が終わっても、4人とも沈痛な顔をして黙り込んでいる。

 今まで疑問にすら思わなかった事柄の裏側は、国家規模の闇が隠れていたなんて思っても見なかった事だろう。


 土田さんが、何度も言い掛けては言葉を飲み込むを繰り返した後

「魔物に対する知識や対抗手段が少なかった時代なら分かるよ。

 でも、今は対抗手段も増えて、能力者だけに頼らなくても良くなったのでしょう。

 それなのに、能力者は脅威なの?」


「以前、南雲さんも言ってましたが、能力者の力は脅威です。

 非能力者がどれだけ最新鋭の武装で装備しようとも、ランクE1の能力者に劣ります。

 それが例え自衛隊の普通科連隊1個師団相手であっても、ランクD1の能力者1人が勝ちます。

 また、最新鋭の武装で固めた機甲師団を加えても、ランクD5以上の能力者1人の前には手も足も出ないでしょう。


 そして、対魔庁の戦闘隊員の平均ランクがD6であると言う事も覚えていて下さい。


 それは武力だけでは無く、頭脳に置いても同じです。

 思金おもいかねの研究者が、世間の常識をひっくり返す研究成果や発明を数数かずかぞえられ無い程しています。

 この事は、海外でも同じです。


 この様に、客観的に比較すると我々能力者は、非能力者よりも非常に高い性能を有しています。


 そして、世の中の大半が非能力者です。

 同じ国に生まれ、同じ言語を話し、同じ様に成長するのに、能力アビリティを発露した者は選ばれた人間になる。


 では、選ばれなかった人間はどうなるのでしょう。


 彼らは、大きな劣等感を持つ事になると思います。

 特に地位、名誉、金を持つ者程、より大きな劣等感を抱く様です。

 だから、マイノリティである能力者への差別は格別に大きいのです。


 例を出すなら、ノーベル賞が分かりやすいですね。

 ノーベル賞受賞者に能力者は居ません。

 何故なら、候補者選定段階から能力者を排除しているからです。


 他にも、オリンピックを始めとする国内外のプロ・アマ スポーツには、選手は当然として、サポートスタッフであっても参加出来ません。


 極めつけは、我々能力者にはパスポートが発券されません。

 何処の国も能力者を国外に出さない処置をしています。

 それは、EU諸国でも同じです。

 EU諸国内でも、能力者が国境を跨ぐ行為を禁止しています。


 この様な露骨な差別行為にも関わらず反感を買わないのは、能力者を英雄もしくは英雄候補として持てはやし、世間一般から尊敬の対象にしつつ国家に隷属させているからなのです。

 そして多くの一般市民が、能力者に触れ合う機会が極端に少ないからこそ、この事実を問題として取り上げないのです。


 なので、決して軽率な行動は行わない様にして下さい」

 私の話を4人は、感情が抜け落ちた表情で聞いていた。


 私が話した内容を噛みしめる様に、ブツブツと小声で呟き出した。


 田中さんが、何か思いついた様だ。

「ねえ、神城さん。

 これだけの差別が行われていたら、能力者だけの国を作ろうって動きは無かったの?」


「いえ、有りましたし、実際に建国されましたが維持される事無く、短命に終わっています」


「え? それはどうして?」


「答えは単純ですよ。

 第1要因は人員不足です。

 能力者だけに限定すると、国家を構成する人員も少なくなります。


 第2要因は、出生問題です。

 生まれてくる子供が100%能力者になる事はありません。


 両親が共に能力者時の子供が発露する確率は、75%弱です。

 母親が能力者で父親が非能力者の時の子供が発露する確率は、40%です。

 父親が能力者で母親が非能力者の時の子供が発露する確率は、30%です。

 二等親以内に能力者が居る子供が発露する確率は、8%です。


 この事が、人員不足を更に悪化させました。

 その為、国を維持出来なかったのです。


 ちなみに、3親等以内に能力者が居ない子供が発露する確率は、0.0008%です」


 田中さん達3人は、ポカーンとした顔をしていたが、都竹さん一人だけが苦い顔をして俯いていた。


 しばらく、重い空気が場を支配した。

 そろそろ、昼休みが終わろうかという時間に

「神城さんが教えてくれた内容って、この先の授業で習うの?」

 鳥栖さんから質問が来た。


「いえ、習いませんよ。

 対魔庁に入庁しても普通は習いませんよ」


『はい?』

 きれいにハモったな。


「対魔庁や思金おもいかねの上級職に着いている一部の人間しか知らない事実ですよ」


『えーーーー』


「普通に考えてくださいよ。

 こんな特大の爆弾を無差別に教える訳無いでしょう。

 情報を開示される人間は、限定されていて当然の内容です。


 もう、お昼休みが終わります。

 教室に戻りますよ。

 あと、この内容は他言無用で願いますね」


 どう反応して良いか分からず、混乱した状態で固まっている4人に、イタズラっ子の様に微笑みならが「ほら、行きますよ」と声を掛け歩み出す。


「ちょっと、神城さん。待ってよ」

 と都竹さんが声を上げ、我に返った4人が慌てて走ってくる。

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