第231話 1年次 6月総合試験結果(4)

 教室の外に居た教育官達は、教室内に入って来て

「そうだな。3,000周は甘いな。最低10,000周にするべきだろ」

「見せしめの為にも、強制収容所に送った方が良くないか」

「まあ、初犯だから強制収容所まではね」

「なら、ランニングの刑で妥協するしか無いでしょう」

「そういう事なら仕方ないか。

 でも、1年生で10,000は多すぎるから5,000ぐらいかな」

「1年生でランニング刑にするなら、それ位が妥当だな。

 だが、周回罰則も付けるべきだ」

「周回罰則ね。通常なら3周の平均が18分以上になった周の周回取り消しだけど、どうする?」

「甘いな。反省を促す事も考慮して、5周1セットで20分の設定でしょ。

 当然、時間超過した分のセットは取り消しで」

「まあ、その辺りが妥当だと思います」

 等々、話し合いが行われた。


 飯田達の顔色が、どんどん悪くなって行く。

 今更になって、自分達のミスに気づいた様だ。

 自分達が特別だと思いこんで客観的に状況判断出来なくなり、自分達に都合の良い妄想を真実と思い込み愚者の正義を実行した結果、致命的に信用を失ったのだ。

 その結果、自分達を擁護ようごしてくれる教育官も居なくなった。


「お前達の罰は、ランニングコース5,000周を走り切るまで能力訓練への参加禁止。

 周回罰則は、5周1セットで20分の時間制限を付ける。

 制限時間を超えたセットは、カウントしない。

 止む得ない理由以外で欠席した場合、1日に付き1,000周追加。

 残周回が10,000周に達した時点で強制収容所行きとする」

 と霧崎教育官が宣言する。


 飯田達は、懲罰の項目が言われる度に、目に見えて沈んでいくのが分かった。

 大人しく聞いている所を見るに、ここで反論や言い訳をすれば、状況がより悪化する事が分かる位の理性は残っている様だ。

 むしろ、想定した事態と真逆の事態に発展して思考停止しているのかも。


「お前ら、死ぬ気で走らないと強制収容所まっしぐらだぜ」

 と教育官が発破を掛けられ、飯田達の顔が真っ青になっている。


「そうだ。コイツラにクラス委員を任せられないな。

 男子は、海江田。

 女子は、有田。

 済まないが、お前達がクラス委員をやってくれ」

 と任命した。

 二人共、イヤイヤながらも引き受けた。


「さて、これで今日のホールムームを終わる」

 と宣言すると、飯田達は教育官達に連れられて外に出て行った。


 1人残った教育官が、私の前にやって来て

「私が加藤だ。

 毒島の能力限界の解除方法をご教授願えますか?」

 と言ってきた。

 それに釣られる様に、美智子さん達と毒島君達も集まってくる。


「では、簡易魔力計と魔力制御訓練ボールはありますか?」

 と問うと、首を捻りながら

「たしか、備品室に置いてあったはず」

 と言う。


「なら、備品室に移動しましょう」

 と言って、立ち上がり周囲を見渡すと

「私達も付いて行って良いかな?」

 と美智子さんが手を上げた。

「俺も行きたい」

「俺も」

 と沼田君と前田君も手を上げた。

「では、これ以上増えない内に移動しましょう」

 と声を掛け移動を開始する。


 途中で教官室に寄り、備品室の鍵と4名の教育官が加わった。

 加藤教育官と加わった教育官達は、能力の成長に難を持った訓練生を専門に扱う教育官だそうだ。

 様々な方法を用いた訓練で、多くの訓練生を立ち直らせてきた。

 それでも毒島君の様に、早々に能力の成長限界に直面する事がある。

 そして、限界を超える事が出来ずに卒業する訓練生も一定数いる。

 中学校の時の担任の山並先生もその一人だった。


 備品室から簡易魔力計と魔力制御訓練ボール3個を持って、近くの会議室に移動する。

 毒島君、沼田君、前田君3人を並べて椅子に座らせ対面に立つ。

 脚を揃えた状態にし、太ももに広げた手の甲を着け、体の中心線で両手の中指が触れる様にする。

 自然と背筋が伸びる3人。

 その手の上に魔力制御訓練ボールを置く。


 様子を見守る面々に決して声や音をたてない様に注意する。

 1人の教育官がスマホを取り出し撮影を始めた。


 その状態で目を瞑る様に指示を出す。

 次に、自分の魔力塊マナ・コアを感知する様に指示を出す。

 30秒もしない内に、彼らの手の上にある魔力制御訓練ボールが震えだす。

 そうして形状が変わり始めた。


 十分に変形が終わったのを確認すると、教育官達に魔力制御訓練ボールの状態の写真を撮る様に伝えると、慌てつつも静かに撮影を始めた。


 教育官達の撮影が終わったのを確認してから、毒島君達に目を開けて良いと伝える。

 目を開けたが、周囲との明暗の差でチカチカしたのだろう。

 しばらく、目付きが酷く悪かったり、瞬きを何度も繰り返してから手元を見た。


 毒島君は

「なんじゃ、こりゃー」

 と言って、思わず魔力制御訓練ボールを放りだした。

 床に落ちた魔力制御訓練ボールは、直ぐに元の球形に戻った。


 沼田君、前田君は、手元を見て固まっている。


 私は、落ちた魔力制御訓練ボールを拾い上げ

「貴方達の手の上にある魔力制御訓練ボールの形が、今の貴方達の魔力塊マナ・コアの形状です」

 と言うと、全員の視線が沼田君と前田君の魔力制御訓練ボールに集中した。


「沼田君と前田君は、軽度の魔力塊マナ・コア変形症です。

 一方、毒島君は、重度の魔力塊マナ・コア変形症です」

 と言って、手に持った魔力制御訓練ボールを毒島君の魔力塊マナ・コアの形に整形した。

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