第230話 1年次 6月総合試験結果(3)

「どうして、そこまでするのですか?」

 と問えば

「俺達も片親家庭で、コイツ同様苦労した」

「世間の連中が、憎くて斜に構えていた。

 だけど、ここで同じ環境の仲間を得た」

「その仲間が苦しんでいるのに何も出来なかった」

「そんな俺達が出来る事は、頭を下げる事しか出来ない」

 と二人は、頭を下げたまま言う。

 毒島君は、「お前達」と感極まわっている。


 正直、物語の中でしか見ない光景が目の前で展開されて困ってしまう。

 それに私は彼の個人情報を知らない為、この話が本当がどうかは分からない。

 だけど、私の魔力感知を用いた嘘診断によると、彼らは一切の嘘は言っていない。


 私は、教室の入口に立つ霧崎教育官を見ると大きく頷いた。

 どうやら問題は無いらしい。


 声を張り上げ

「Dクラスの担当教育官は、誰ですか?」

 と言うと

「加藤だ」

 と霧崎教育官が答えた。

 ほとんど全員が、ぎょっとした表情して振り返った。


「では、加藤教育官に毒島君の能力限界を解除する方法を伝えましょう」

 と言うと、毒島君は顔を上げ呆けた様な表情で私を見ている。


「能力限界を解除するのは物凄く大変です。

 加藤教育官の指導の元、1から頑張りなさい」

 と微笑みながら言うと、涙を流しながら

「ありがとう」

 と言って泣き崩れてしまった。

 両隣にいる沼田君と前田君が

「よかったな」

 と言って称えている。


 目の前のお涙頂戴劇場の為、私を始め美智子さん達や元凶共もどうした物かと立ち尽くしている。


「お前ら席に着け」

 霧崎教育官の号令で、全員の金縛りが解かれ全員が席に着く。

 まあ、飯島・宮園グループは、一部を除いて怒りと悔しさをまぜこぜにした汚い顔で私達を睨んでいた。


 霧崎教育官が、今日のこの後の注意事項を訓示してホームルームは終わるはずだったのだが、まあ、馬鹿をやった連中が居るからまだ続く。


「さて、優等生の4人に対して、不当な言いがかりをつけた者達の処分を下す」

 と霧崎教育官が言うと

「待って下さい。

 あからさまに不正をしている事を指摘しただけです。

 不当な言いがかり等ではありません」

 宮園が霧崎教育官の言葉を遮って発言した。


「不正とは聞き捨てならないな。言ってみろ」

 と霧崎教育官は不敵な笑みを浮かべて言うと、我に勝機ありと言わんばかりに堂々と言い始めた。


「まず、コイツラの成長速度が可怪しいです。

 過去の事例から見ても、明らかにおかしな能力値を示しています。


 過去に事例の数倍の速度で成長なんて出来るはずが無い。

 だから、そこのコネで不正をしている奴と結託して、データを不正改ざんしています」

 と美智子さん達を指さした後、私を指さしてそれこそが真実だと自信満々に言い切った。

 そして、周りを見回した。

 すると、一部を除いた飯島と宮園の取り巻き達が拍手し始めた。

 一部の取り巻きは、拍手もせずしかめっ面をして下を向いていた。


 しばらく黙っていた霧崎教育官は、腹を抱えて爆笑した。

 宮園達が呆然としている中、霧崎教育官1人が爆笑している。


 ついに切れた飯田が

「何が可笑しい。俺達を馬鹿にしているか」

 と叫ぶと

「霧崎教育官。どういうつもりですか」

 と宮園も叫ぶ。


 それを聞いた霧崎教育官は、更に大声を上げて笑いながら

「お前ら、俺を笑い殺したいのか」

 と言って笑い続けている。


 飯田達は気づいていないが、教室の外には教室担当を持っていない教育官が全員待機しており、全員が笑いを殺すのに苦労している。


 笑っている霧崎教育官に色々と反論している様だが、笑いのツボを刺激するだけだった。


 ある程度落ち着いた所で、魔力で威圧して飯田達を黙らせる。

「もう少しで、お前らに笑い殺されるところだった」

 と言って、時折忍び笑いをしながらも呼吸を整えた。


「さて、お前らが想像力豊かで、無知で、無能で、視野狭窄しやきょうさくだと言う事が良く分かった。

 お前らの処分は、ランニングコース刑か、強制収容所行きか好きな方を選べ」

 と言われ、飯田達は絶句している。


「余計な事を言った瞬間に強制収容所行きが決定だ。

 異論は許さん。

 飯田。お前はどちらを選ぶ。

 即時回答しろ。

 答えないなら強制収容所行きだ」

 霧崎教育官は、視線と声に魔力を乗せ強く威圧しながら選択を迫る。


 こうして1人ずつ名前を呼ばれ選択を迫られた結果、全員ランニングを選んだ。


「ふん、つまらん。

 ここまで愚かな事をした癖に全員保身に走ったか。

 だったら最初からするな」

 と特大の怒声が襲った。

 関係無い連中も肝を冷やした。


「貴様らの勘違いを少しだけ訂正しておこう。


 まず神城だが、訓練校に在籍しているだけで訓練生ではない。

 よって、訓練校の能力訓練を受ける事は無い。


 次に、田中、都竹、土田、鳥栖の4人だが、コイツラは正真正銘の天才だ。

 あと、1-Cの山田、1-Dの伊吹、1-Eの見石の3人もだ。


 で、お前らは何だ?

 俺達教育官から見れば、入校前に少しだけ優秀な結果を残しただけの凡人だ。

 その凡人が、天才を批判する資格があると思っているのか?

 あるわけ無いだろ。


 それに、俺達が不正を許すと思っているのか?

 そんな訳無いだろ。

 そんな奴居たら即強制収容所送りにしている。


 そして宮園の主張は、俺達教育官の目が節穴だと宣言した。

 お前達は、それに同意した。

 この事は、強制収容所行きを決定させるのに十分な理由なんだよ。


 お前達は、どう思う?」

 と教室の外に呼びかけた。

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