第229話 1年次 6月総合試験結果(2)

「無能な貴方達が、それだけの能力を得た秘密を教えなさい」

 と高圧的な態度で宮園さんが叫ぶ。


「秘密なんて無い」

 と都さんが叫び返す。


 一斉に『嘘だ』と取り巻きが叫ぶ。

 しかし、何人かはやる気なさげでポーズだけだな。


 私は、美智子さん達と対立する彼らの後ろに立つと

「秘密と言える程の秘密は無い」

 と大きな声で言う。


 私の声に気づいて彼ら一斉に振り返り、美智子さん達は私を凝視した。


 彼らは私を認識すると、鬼の様な形相となった。

 私は軽く鼻で笑うと、更に激昂して

「コネかなにかで、不正をしている奴が何を言ってやがる」

 と飯田が叫んだ。


「下らない。

 そもそも、秘密なんてものは無い。

 ただの実力差だと気付かないのか?」

 と見下す様に言い捨てた。


「人を見下すな」

 と宮園の取り巻きの一人、佐々木が叫びならが殴り掛かってきた。


 私は軽く躱すと、そのまま彼らの反対側の美智子さん達の前に移動する。

 私を殴り掛かった佐々木は、そのまま拳を空を切らせたたらを踏む。

 彼らは、私を見失い左右を見渡して探している。


「いい加減、自分の無能さを認めたらどうだ」

 と冷たく言い捨てる。


 彼らは振り返り

「な、いつのまに」

 と驚きの声を上げる。


 私は首だけを後ろに向けると

『優ちゃん』

 と感極わった声が、美智子さん達から返ってきた。


 再び、愚か者達の方に顔を向け

「傲慢だけが取り柄で、能力者ごっこ遊びしている連中が偉そうな事を言うな」

 と声に魔力を乗せ、底冷えのする低い声にして言う。


 私の声に押される様に半歩下がった。

「俺達がごっこ遊びだと」

 と飯田が、必死に睨み返して叫ぶ。


「ああ、ごっこ遊びだよ。

 だた、ちょっと人より力が強く使えただけで有頂天になっている子供だ。

 正しく訓練を積んだ人間に敵うはずが無いのは、当然のことだろ」

 と魔力を乗せた声で、呆れた口調で言いながら肩を竦めた。

 飯田達は、感情を昂らせ今にも暴発する寸前と言った感じだ。

 その飯田達の後ろで突っ立って居る奴は、苦虫を潰した顔をした。


「私達は、誰よりも真剣に取り組んでいる。決してごっこ遊びではない」

 と宮園が叫び、取り巻き共が『そうだ』と連呼している。

 一方、苦虫を潰した顔をした奴は、唇を噛みしめる様にして俯いている。


「真剣?

 どこが?

 教育官の指導を正しく理解して、真摯しんしに訓練に臨んでいれば、能力値が停滞する事なんてありえない」

 ヤレヤレという仕草をする。


 彼らは、図星を突かれ絶句して、更に顔を赤くしている。

 そろそろ、血管が切れても可怪しくないかな?

 突っ立って居る奴は納得している。

 君は、そちら側の人間だよね?


「私からしたら、向こうで伸び悩んでいる毒島ぶすじま君と髪の毛1本位の差しかありませんよ」

 と言うと、見物と決め込んでいた毒島君が、びっくりした様子が見えた。


「俺達が、あの落ちこぼれと変わらないだと」

 飯田が怒りと感情に任せた怒声を上げるが、1歩も動けない。

 彼らは、私の魔力を乗せた声の前に無意識下で畏怖を感じているのだ。


「全く同じですよ。

 彼と同じく、貴方達の能力も頭打ちしただけですからね。

 今のままでは、成長の見込みも有りません。


 私の目は誤魔化せませんよ。

 これでも上級能力鑑定師です。

 一目で貴方達の能力が、先月から微増しかしていない事位分かっています。


 自分達とは対象的に大きな成長を示した美智子さん達を見て、自尊心が傷つけられたのでしょ。

 だから、逆恨みをした。


 全く持って、理解できませんね」

 と言って、首を左右に振る。


 飯田達が顔を真赤にして怒っている中、突っ立って居る奴は真剣な顔でこちらを見ている。

 あと数人、私の言葉に頷いている。

 どうやら、彼女達は飯田達とは少し毛色が違う様だ。


 飯田が何か言おうとした時、後ろから来た毒島君が

「どけ」

 言って、飯田を横に押し除けて前に出た。


 彼らの前に出て私の正面に対峙すると、私の顔を真正面から見て

「俺の能力は、もう成長出来ないのか?」

 と何処か切羽詰まった声で聞いてきた。


「今のままでは、不可能です」

 と答えると、彼は床に土下座して

「神城さん。

 入校式での無礼を謝る。

 お願いだから、能力が成長する方法を教えてくれ」

 と大声で言った。


「ふっ。何を言っている。お前みたいな不良品が成長する訳無いだろう」

 と飯田が鼻で笑い更に言い続け様としたので、睨みつけ魔力を浴びせて黙らせる。


「取り敢えず、頭を上げなさい。

 それと、そこまでする理由があるなら話しなさい」

 と指示をする。


 それに反発する様に飯田達が何か言い始め様としたので、強めの魔力を叩き込んで黙らせた。


 頭を上げた毒島君は、意を決した様に喋り始めた。

「俺の家は、母子家庭で貧乏だ。

 正直、母ちゃんの収入だけでは、俺達3人兄弟を満足に食べる事にも苦労した。

 その為、小さい頃はよくイジメられていた。


 そんな中、俺に能力が発露し、補助金が入る様になってなんとか暮らしていける様になった。


 また、能力のお掛けでイジメられも無くなり、立場も逆転する事が出来た。

 その事もあって、俺は天狗になっていた。


 でも、ここに来て、俺の能力が一切通じない事を知り、更に能力が成長出来ない事に絶望した。


 そして、このままだと、対魔庁にも入れないと分かり、更に絶望していた。

 俺は、頭が悪いから、対魔庁に入れないとまともな仕事に着く事も出来ない。


 そうなると、これまで苦労を掛けた母ちゃんに、さらに苦労を掛けてしまう。

 それだけは避けたいんだ。

 頼む。


 能力を成長させる方法を教えてくれ。

 せめて人並みに能力が使える様になりたい。

 頼む」

 と途中声を震わせながら言い切ると、再び頭を下げた。


 飯田達をかき分け、毒島君の仲間の沼田君と前田君が前に出ると、毒島君の左右に正座すると

「俺達からも、お願いする。

 毒島の能力を成長させる方法を教えてくれ」

 と言って土下座した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る