第19話 お風呂で、Side:若桜・霜月

 Side:若桜・霜月

 優ちゃんが他の隊員達に連れて行かれた後、私と霜月先輩は体を洗っていたら

「若桜」

 と呼ばれた。


「なんですか先輩」

 と返すと

「あの子、性転換者って言っていたわよね。

 ということは、無能力になってしまったの?」

 と聞かれた。


 霜月先輩も一応性転換者の事情って知っているのね。

「いいえ、優ちゃんは特別ですね」

 と返すと、驚いた様子で

「特別?能力があるの?」

 と聞いてきた。


「ええ、先輩が言った通り、過去の性転換者は魔力喪失まりょくそうしつにより能力を失っていますが、優ちゃんは魔力を失っていません」

 と時耐えると

「魔力があるのね。

 それで彼女の能力は?

 貴方の言える範囲でいいから教えてくれる?」

 と質問してきたので

「いいですよ」

 と返すと

「ありがとう」

 と礼を言われた。



「優ちゃんの能力は、三系統 身体強化系と放出系と特殊系です」

 と教えると

発露はつろ直後で3つも持っているなんて、将来有望なのね。

 それぞれの詳細は分かる?」

 と更に質問された。


「わかりますよ。

 身体強化系は、部位指定なしの身体能力向上

 放出系は、風

 特殊系は、耐日光ですね」

 と教える。


 霜月先輩は、少し考えた後

「耐日光って能力聞いたこと無いけど、言葉的にはUVカット機能?」

 と聞かれたので

「正解~」

 と明るく答える。


 霜月先輩は

「女性にとって羨ましい能力ね」

 と羨ましそうに言う。


 私も

「そうですね。

 でも、優ちゃんの場合、自身を守るために必要な能力ですよ」

 と答えると

「そうね、アルビノって日光に弱いらしいから、必要な能力なのね」

 と納得した様子だ。


「ところで、彼女のランクなんかも知ってる?」

 と聞くので

「暫定で良ければ」

 と答えると

「お願い」

 と頼まれた。


「身体強化がS

 放出系:風が、最低でもD

 耐日光がC

 魔力がSです」

 と教えると

「え、Sが2つ!!

 最低能力でもDランク!!

 とんでもない逸材じゃあないの」

 霜月先輩が驚愕して声を多少大きくしたが、叫ばないのはさすがです。


 私の事ではないが、少し誇らしくなり

「そうなんですよ。

 優ちゃんが、魔力纏身まりょくてんしんを全開にしたら魔力発光現象まで起こっちゃって、生で見たかったな~」

 と言うと、霜月先輩は驚いた様子だが、声を潜めて

「魔力発光現象って、一部の魔物が攻撃の際に爪とかが光ってるやつよね?」

 と言う。


「それです。

 私は、映像でしか見れなかったんですが、全身が白銀光に包まれて神々しい姿になっていましたよ」

 私はその光景を思い出し、うっとりと答えた。


 霜月先輩は、大きなため息を付きながら

「はあ、とんでもないわね」

 と言った。

 呆れとも羨望せんぼうとも言えない様子が窺える。


「その状態では、検査出来ないって事で、出力を1/4まで落として検査してました。

 その結果が身体能力がAランク相当、放出系がDランク相当という結果です。

 今頃、三上主任と太和教導官達がランク判定会議を行っているはずですよ。

 耐日光は、常時発動能力パッシブ・アビリティーなのでバイタルメーターからの算出です」

 と教えると

「とんでもない子ね。

 真っ直ぐ成長してくれれば良いのだけど」

 と言った霜月先輩の顔は、母親のものになっていた。


 確かに見てると本当に心配になる娘よね。

「大丈夫だと思いますよ。

 ああ見えて、優ちゃん15歳ですから」

 と教えると、霜月先輩は

「ん! え! 15歳!? 10歳位だと思ってたわよ

 外見は間違いなく10歳位、受け答え方や態度は10歳にしては大人びているが、そういう年頃だからだと思っていた」

 とまくしたてる。


「男の時の評価ですが、性格は温厚で人当たりも良い、成績は中の上、友好関係も良好、周囲の評価は悪くなかった様です」

 と言うと、霜月先輩は複雑な顔をして

「今の様子を見ると、人見知りしがちな内気な少女にしか見えないわね。

 しかも、仕草が母性本能を刺激するのよね」

 と微苦笑をしながら言った。


「そこは同感です。だから、ついついお節介を焼きたくなってしまう。

 あの仕草も素でやっているから、なんとも保護欲が湧いてきますよね」

 と言って浴槽を見ると、女性陣に囲まれて目を白黒させている優ちゃんが見えた。


「隊員達と仲良くやっているな」

 と霜月先輩が言うが、優ちゃんを見ると。


「あれ、遊ばれてませんか?」

 と微苦笑しながら答えると

「そうともいう」

 と返され、二人して一頻り笑った。


「ふと思ったのだけど、あの子、外見年齢に精神年齢が引っ張られているんじゃない?」

 と言われ

「どういうことでしょうか?」

 と返すと

「私は門外漢もんがいかんだから、感じたことしか言えないけど。

 あの子は、自分の意志で女になったのではなく、能力の発露で性転換が起こったのよね?」

 と言われ

「そうです」

 と返すと

「本人からすると、事故で性転換したようなものでしょ。

 突然体が変わってしまった。

 さらに、検査の為とはいえ親族からも切り離されてしまった。

 検査そのものも、必要不可欠だと頭ではわかっていても、無意識下で得体の知れないと感じているかもしれない。

 相当なストレスを溜め込んでいると思うの。

 うまく言葉に出来なくてごめんね」

 と言われた。


 この観察力と着眼点の鋭さ、さすが霜月先輩。

 是非とも見習いたいものだ。


「身体変化に伴うストレス

 環境変化に伴うストレス

 検査によるストレス

 それらが悪影響を与えている可能性は否定できませんね。

 確かにまだ2日とはいえ、本人には大きなストレスになってそうですね」

 と呟くと

「あと、あれだ。

 後ろの連中もそうだが、我々もつい10歳児相当として扱っているのも影響してるのかも」

 と言われ

「あー、たしかに。

 身体変化・環境変化・検査のストレスが、自己同一性アイデンティティ崩壊ほうかいに繋がり、再構築中の可能性がありますね。

 優ちゃんの場合、思考加速が発露寸前なんですよ。

 だから、再構築済の可能性もあるな。

 ご家族の元に戻しても、しばらく経過観察が必要ですね」

 と言うと、霜月先輩がマジマジと私の顔を覗き込みながら

「研究者と医者の顔をしている」

 と言った。


「ん!どういう意味ですか」

 と問うと、真顔で

「そのまんまの意味」

 と返された。


「普段は、別の顔だって聞こえるんですけど」

 と聞き返すと

「そう言ってる」

 返された。


 ちょっと不貞腐れ気味に

「普段は、どんな風に見えているんですか?」

 と聞くと、ニヤリと笑い

「いたずら好きの看護師」

 と言った。


「ひどい」

 と憤慨すると

「医師免許持ちの研究者のくせに、研究所内を看護師の格好してうろついている方が悪い」

 と返された。


「私は、白衣姿より看護師の制服の方が好きなんです。

 それに、一般病棟へ応援に行くときは白衣姿ですよ」

 と言うと

「まあ、それもどうなんだか」

 と呆れられた。


「まあ良い。そろそろ我々も湯舟に浸かろうか?」

 と言われので

「そうですね」

 と答え、二人して浴槽に向かうのだった。

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