第20話 脱衣所にて

 若桜さんと霜月さんが浴槽に入るのと入れ替るように出る。

 その際に、紙袋の中にタオルと替えの着替えが入っている事を告げられた。


 一緒に浴槽に浸かっていたお姉さん達も一緒に上がり、体の拭き方を指導された。

 髪は、ある程度きちんと出来ていたので、要所要所で修正が入った。

 誰かに教わったのか聞かれたので、若桜さんに教わったと答えた。


 お姉さんの一人が、化粧水を手に持ってやって来た。

「これは、敏感肌にも対応した化粧水ね。

 きれいな肌をしているんだから、きちんとスキンケアしないとダメよ。

 お風呂上がりとかに手にとって、肌に馴染ませるだけ良いからね」

 そう言って、手渡してきたので顔や首筋などに付けてみる。

 なんとなく。しっとりとしてる気がする。


「貴方の肌、本当に綺麗ね」


 耳元で、囁かれた直後に指が首の根元から背筋に沿って腰まで動かされた。

「ヒャン」変な声が出て、背筋が伸びた。


「背中は、私が塗ってあげるね」

「じゃあ、私がお腹やるね」

「私が右足やるから、愛理は左足ね」

「ん。いいよ」

「右手は、私がやる」

「残るは、左手だね」

 一斉に取り囲まれ、化粧水を塗り込まれる。

 もみくちゃ状態は、若桜さんと霜月さんが出てくるまで続いた。




 今、脱衣所には8人のお姉さん方がタオルを体に巻いた状態で正座している。

 その前に立つのは、同じくタオルを巻いただけの霜月さんだ。


 脱衣所に戻ってきた霜月さんは、私の状態を見るやいなやお姉さんたちに拳骨を落とし、全員を引き離した。

 全員を正座させるとお説教を始めた。


 私は、若桜さんに抱きついて号泣していた。

 若桜さんは、「もう大丈夫よ」と声をかけ、私を優しく抱きしめ、頭を撫でて落ち着かせようとしていた。


 正直、私は自分がなんで泣いているかよく分からなかった。

 取り囲まれた恐怖感

 全身を触られる嫌悪感

 鋭敏に反応する体

 逃げようとする意思とは関係なく動かない体

 自分の中の何かが上げる悲鳴

 それらが混ぜこぜになって泣いていた。


 しばらく泣いて落ち着いて来ると、霜月さんが濡れたタオルも持ってきて、

「冷たいタオルだ。目元に当てていれば赤みも引く。

 それと、彼女等が馬鹿をやって済まなかった」

 そう言って頭を下げた。


「う、う、」上手く言葉が出てこないでいると、

「「「「「「「「ごめんなさい」」」」」」」」

 お姉さんたちが一斉に土下座して謝ってくる。


 その光景に恐怖を感じていると、霜月さんが助け舟を出してくれた。

「貴方達、もう頭を上げなさい。

 優ちゃんが逆に怯えているわよ。


 この子達は、貴方を構いたくてしょうがなかったみないなの。

 ただね、大勢で一斉に可愛がろうとしたから、この事態になってしまって。

 怖い思いさせてごめんなさいね。

 後で、しっかり教育しておくから」


「もう、謝ってもらったからいいです。でも、本当に怖かった」

 目元にタオルを当てながら、涙目ながらにそう答えた。

 視界の橋で、悶えるお姉さんが居たが見なかったことにした。


 5分程、目元をタオルで冷やした後、室内着に着替えた。

 その間に、お姉さんたちも着替えて帰っていった。

 帰り際に個別に謝罪の言葉も貰った。

 悪意が無いのは分かったけど怖かった。


 最後に、霜月さんと分かれる時

 霜月「若桜 彼女のアフターケアを頼む。」


 若桜「わかってます。任せてください。」


 霜月「優ちゃんも済まなかった。また、なにかの機会に会うこともあるだろう。その時はよろしく頼む」微笑みながら話しかけられた。


「えーと、よろしくお願いします。」

 良く分からないがそう答えていた。


 その後、食堂の前で若桜さんとは分かれた。

 分かれる直前には

「不安なことやおかしなところが有ったら直ぐナースコールを押して。

 必ずよ」

 と念を押された。


 夕飯を食べ、病室に戻るとベットに倒れ込んだ。

 仰向けに姿勢を替え、天井を見つめる。


 ここに来てまだ2日のはずなのに、もう何年もここに居る感覚が襲ってくる。

 右手を天井に伸ばして呟く。

「明日、上手く行けば男に戻れる。

 そうすれば元の生活に戻れるはず」

 2日前まで、男だったことが遠い過去に思えて仕方がなかった。


 手を下ろし、寝返りをうつ。その視線の先に自分のスマホが見えた。

「そういえば、全然触っていなかったな」

 そう言って、スマホを手に取る。


 男の時は、片手で楽に持てたのに、今ではかなり大きいくて片手で持つのもやっとだった。

 確認すると、に家族と親友二人からのメッセージが着ていた。

 両親と親友からは、私の事を気遣う内容で、妹の舞のものは、男に戻ることに断固反対すると書かれていた。

 理由が

「折角、お姉ちゃんが出来たのに堪能する前に居なくなるのは嫌だ」

 という内容だった。


 家族には、問題ない事と男に戻れるかは明日の検査次第だから分からないと返信した。


 親友二人には、能力の発露の事を言っていないし、メッセージで自分の体の事を言っても信じて貰えないと思うから、相談できない。

「ただの検査入院だから何も問題ない」

 と返信しておいた。


 その後、就寝準備をしてベットに横になった。

 天井を見ていると、漠然と感じる不安襲ってきた。

「私は、どうなるんだろう」

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