第21話 男へ

 翌朝6時30分に目が覚めた。

 まだ、頭がボーとする。なんとなく意識がハッキリしない。

 それに、夢を見ていたはずなんだけど覚えていない。

 寝汗で気持ち悪い。


 私は、部屋に備え付けの浴室に向かう。

 シャワーで汗を流して部屋に戻ると、若桜さんが居た。


 私の状態を聞いてくるので

「特に問題ありません」

 と答えた。


 かなり大きめの診察服を貰い、今日の予定を聞く。

 1.男に戻る方法の説明

 2.方法の実行

 なので

「診察服とバイタルメーター以外は全て脱いでね」

 というお言葉を受けた。


 室内着で食堂で朝食を食べ、病室で診察服に着替えて待つ。

 下着を着けないで診察服を着ると、思った以上に心もとない。

 幸い、下半身はズボンだったのでまだマシに思える。


 待っている間に、スマホを確認するとメッセージが届いていた。

 両親からは、性別など気にするなという内容

 妹は、相変わらず私が女で居ることを希望

 親友二人は、中間考査が終わったら遊びに行こうというお誘いだった。

 普段なら二つ返事で返せたのに、今は返せなかった。

 だから、「考えておく」と返信した。


 若桜さんが迎えに来たので、付いて行く。

 場所は、魔力検査で使用した環境試験室だった。


 そこには、三上さん達5人が居た。

 三上「来たな。まず最初に確認だ。

 男に戻る施術せじゅつを実行して良いんだな?」


「はい、お願いします」


 三上さんは、少し考え込むようにしてから

 三上「そうか、わかった。

 では、今回の施術を担当する二人を紹介しよう」


 三上さんがそう言うと、男女2人が前に出てくる。

 葉山「葉山はやま さとるだ」

 中年のおじさんで、目の下にクマをつくり、無精髭ぶしょうひげを生やて、髪の毛はボサボサでヨレヨレの白衣を着ている


 水無月「水無月みなづき 翔子しょうこよ。よろしく」

 20代後半位のお姉さんで、髪は肩口で切りそろえてあり、メガネを掛けていた。


 三上「葉山は、特殊系と魔力の関係性を研究している。

 水無月は、遺伝子と魔力の関係性を研究している。

 両名ともその道の第一人者だ」


「よろしくお願いします」


 葉山「まず、俺から手順を説明しよう。

 1.君の中にある異質な魔力を見つけ出す。

 2.君の魔力で、その異質な魔力を捕らえる。

 3.その異質な魔力に君の魔力を注ぎ込む

 ここまでが第1段階だ。

 ここまでは分かるな?」 


「はい、なんとなく。ところで異質な魔力ってなんですか?」


 葉山「そうだな、俺は男性因子魔力と仮称を付けている。

 おまえの男性時代の魔力因子ではないかと考えている。

 だから、これを活性化することが出来れば、男性化への足がかりに使えるはずだ」


 水無月「ここからは、私が説明するよ。

 この活性化した男性因子魔力で、貴方の歪遺伝子ひずみいでんしに干渉する。干渉には、特殊なパルス信号で貴方の魔力を誘導するから難しく考えなくても大丈だよ。

 十分な魔力を歪遺伝子に与えることが出来れば、男性に戻ることが

 だから、頑張ってね。私達がサポートするから」


 葉山「それで、質問はあるか?」


「いいえ、ありません」


 葉山「それでは、準備にかかろう」


 そう言われて、環境試験室の中に入る。

 中央の椅子には、何本ものケーブルが出ていた。

 椅子に座ると、バイタルメーターとケーブルが接続された。

 コネクターなんて無いのにどの様につながっているだろう?とか思いながらケーブルが接続されるのを眺めていた。

 接続が終わり、スタッフの人が出ていき扉を閉められた。


 椅子の前にあるモニターに葉山さんが写る。

 葉山「観測の準備が出来たから、始めよう。

 まず、自分の魔力塊を感知しろ。

 その中に、パチンコ玉半分位の小さな魔力塊が浮遊している。

 それを一箇所に留めるようにしてみろ」


 自分の魔力塊の中にある小さな男性因子魔力塊を一生懸命探す。

 なかなか見つからないが、環境試験室の外では私の魔力をモニタリング出来ているみたいで、大体の位置を教えてくれる。


 どのぐらい時間がかかったかわからないが、ようやく見つけた。


「見つかった。これを固定する」

 見つかった男性因子魔力塊を捕まえようと意識を集中すると、するっと隙間を縫うように移動してしまう。

 四苦八苦しながら、最終的には全方位から魔力で圧力をかけるようにすることで固定することが出来た。

 その様子は、外でもわかっているので「ああ、惜しい」とか「隙間から逃げた」いう声が聞こえていた。


 葉山「そのまま、周囲から魔力の圧力を上げてみろ」

 言われた通り、圧力をかけ続けると、男性因子魔力塊が大きくなり始めた。


 葉山「よし、仮説どおりだ。そのまま活性化を続けろ」

 男性因子魔力塊は、魔力塊と同じ大きさまで大きくなった。


 葉山「そのまま、キープしろ」

 そう言うと、水無月さんと入れ替わった。


 水無月「神城さん、今から貴方の体に信号を送ります。

 その信号は、歪遺伝子に魔力を誘導します。

 その信号をなぞるように男性因子魔力塊の魔力を送ってください。

 では、始めます」


 全身にむず痒いようなチリチリするような感覚が襲ってくる。

 その感覚をなぞるように男性因子魔力塊の魔力を送る。

 ものすごく強い抵抗があるが、ある程度送る事が出来ると、何かに繋がる感覚があった。

 その後は、あっという間に魔力が行き渡ってしまった。

 心臓が強く跳ねた感覚が襲った。

 全身から汗が吹き出し、視野がぼやける。画面の向こう側で何か言っているみたいだが聞こえない。

 視界が真っ黒になった。

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