第22話 男の体

 誰かが、頬を触っている。

 意識が、ハッキリしてくる。

 目を開けると、目の前に若桜さんの顔が見える。


 若桜「優ちゃん 私が分かる?」


「はい、若桜さん」

 声が低くなっている。


 若桜「指が何本に見える?」

 そう言って、2本指を立て目の前に持ってくる。


「2本です。」


 若桜「気分はどう?」


「大丈夫です。」

 若桜さんは、聴診器を出して、


 若桜「ちょっとごめんね」

 そう言って、診察服の前を開き聴診器を当てる。

 若桜「うん、問題ない」

 そう言うと、診察服を元に戻した。


 若桜「バイタルメーターのデータを確認。

 心拍・血圧とも正常値

 本人の意識もハッキリしています」

 若桜さんは、後ろに居る三上さん達に報告している。


 三上さんと入れ替わった。

 三上「体の調子は、どうだ?」


「なんか怠いです。声色も下がったような」


 若桜さんが鏡とペットボトルを持って返ってきた。

 鏡の向きを調整して、顔が写るようにした、

 鏡に写った顔は、見慣れた男の顔だった。

「男に戻れた?」


 三上「取り敢えずはな。

 悪いが、このまま魔力測定に入らせてくれ」

 そう言うと、三上さんは出ていった。


 若桜さんがペットボトルを差し出し、飲ませようとする。

 若桜「水よ。少し飲みなさい。

 貴方が怠く感じるのは魔力欠乏によるものよ

 魔力測定の間、このまま椅子に身を任せて休んで」

 微笑みながら優しく説明してくれる。


 ペットボトルの水を少し飲んだ後、椅子に身を委ねた。

 それを確認した若桜さんは、出ていった。

 扉が閉められ、魔力測定が始まった。


 魔力測定中、天井を見上げながら感じたのは、男に戻った喜びではなかった。

 強烈に感じる違和感・喪失感、そして、孤独感。

 今なら分かる、自分自身の魔力が男の方が異分子なのだと訴えてくる。

「それでも、俺は男なのだと」

 そっと呟いた。


 魔力測定が終了すると、近くの診察室に移動し採血・髪の毛・口腔の粘膜の採取が行われた。

 その後、そのまま診察室のベットで横になるように言われた。

 お昼は、若桜さんが軽食を持って来てそのまま診察室で食事を取り、午後の診察まで寝ているように言われたので、寝ていた。


 午後の診察の時間になり起き上がる。

 診察は、若桜さんが行うみたいだ。

 バイタルメーターのデータと直接診断した結果を確認してから訊いてくる。


 若桜「優ちゃん 男に戻ってなにか感じている?

 些細な事でも良いからね」


「えーと、体が重く感じます」


 若桜「他に感じることはある?

 体だけでは無く、心で感じる事も教えて?」

 そう言われて、迷ったが正直に言う事にした。


「男に戻って感じたのは、違和感・喪失感・孤独感です。

 自分の魔力が男の俺を異分子だと叫んでいる感じがします」


 若桜「後悔している?」


「いいえ、自分で決めたことです。

 俺は、これまで男として生きてきたのですから男として生きたいと思ったのは間違いではないはずです」

 そう、自分に言い聞かせるように言った。


 若桜「分かったわ。

 この後、能力鑑定を受けて、生理検査を受けてもらうわ。

 三上主任お願いします」

 そう言って、若桜さんは三上さんと入れ替わった。


 三上「鑑定を始めるぞ。いいな」


「はい」

 三上さんの問に答えると、5人が入れ替わり立ち替わり鑑定していた。


 鑑定が終わると、若桜さんとは別の看護師さんが車いすを押して入ってきた。

 生理検査の移動は、車いすに乗って行くらしい。その看護師さんの車いすを押されて生理検査に向かった。


 生理検査が終わって、診察室に戻ってくると若桜さんだけが居た。

 若桜「検査お疲れ様。体調の方はどう?」


「だいぶ楽になりました」

 車いすから立ち上がり、右腕をぐるぐる回してみせた。


 それを見た若桜さんが、

 若桜「それだけ元気があれば大丈夫だね。

 思春期の男の子は、ちょっと頼み辛い依頼なんだけど大丈夫?」


「頼み辛い依頼?」


 若桜「優ちゃんの精液の検体を提供して欲しいの」


「 ん! 精液??」

 真っ赤になって絶句していると


 若桜「変な目的ではないよ。

 優ちゃんの精液を調べることで、どの様な性質の能力が遺伝するかを調べるの。

 他の遺伝子でもある程度分かるのだけど、精子を調べれば確実にわかるの。

 だから検体の提供をお願いしたいの」

 真面目な依頼でした。


「それは、俺が性転換者だからですか?」


 若桜「その通りよ。

 遺伝情報で判定できるようになれば、性転換を発症する前に対処出来れば、望まない性転換をしなくて済むでしょ」


「分かりました。精液を提供します」

 真っ赤になって承諾した。


 若桜「ありがとう助かるわ。奥に個室があるからそこを使って」

 そう言って、トレーを渡されて固まった。

 トレーの上には、コンドームが3個載っていた。


 若桜「ああ、無理に3回出さなくてもいいよ。

 予備込で渡すだけだから。

 足りないようなら、部屋の中の呼び鈴を押せば持っていくからね」

 明るく言われてしまった。


 俺が口をパクパクしていると

 若桜「一人で出来る?それとも手伝ってあげましょうか?」

 とんでもないことを言われた。


「一人で出来ます。」

 そう言って、大急ぎで奥の部屋に向かった。


 若桜「おかずが必要なら、準備するわよ」

 さらなる爆弾が落とされた。


「大丈夫です」

 真っ赤になりながら部屋に逃げ込んで扉の鍵を締めた。

 ・・・・・・・・・・

 精液は、無事提供できました。

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