第23話 研究者たち(5)

 Side:三上

 第一屋内射撃訓練場を出た所で若桜会った。

 この後、被験者を連れて風呂に行くそうだ。

 歪遺伝子の解析は、完了しているとの事、相変わらず優秀だな。


 太和を連れて環境試験室の観測室に行き、太和の評価と実技の測定値で、被験者の能力を判定を行った。全員が同じ評価だったので、問題は無いだろう。


 そこで一旦解散することにした。

 私は、家に戻り夕飯を作り家族と過ごしてから、戻ってきた。

 仕事に戻る私に対して、娘が寂しそうにしていたので、週末は一緒にいようと思った。


 戻ってくると、深山・水無月が再性転換方法の手順を検討していた。

 羽佐田・伊島達が、若桜が解析した歪遺伝子情報を元に魔力誘導パルスのプログラムを作成していた。

 私は、今のうちに溜まってしまった雑務の処理を行うことにした。


 雑務を終えて、観測室に戻ると全員寝落ちしていた。

 こちらの仕事も完了しているようなので、全員に毛布を掛けて私も寝る事にした。


 翌朝、再性転換実験の当日。

 普段よりかなり早めに目が覚めた私が身支度をしてから観測室へ行くと、既に全員起きていて、最終チェックしていた。

 しかし、全員ヨレヨレ姿にため息が出る。

 特に、水無月、嫁入り前の娘がその姿はダメだろう。

 他の女性スタッフもヨレヨレ姿だが、水無月よりマシだ。


 確認作業が終わった時点で朝7時だ、放っておくと飯も食わずに実験の予測を立て始めるのが予想出来たので、風呂に入って朝飯を食えを追い出しだ。

 私もその流れで、朝食を食べる為に食堂に移動する。


 私と入れ違いに食堂に入ってくる面々、風呂に入ってだいぶマシになっていた。

 私は、雑務を熟すため事務所に向かった。


 試験開始10分前に環境試験室に行き、手順の最終確認をする。

 確認が終わったところで、被験者が来た。

 被験者に敢えてぶっきらぼうに最終確認をする。

 ここに来て、正直迷いが出ると思わなかった。

 なにせ見た目年齢は、私の娘と大差なのだから。

 まあ、被験者の了承を受けたのだから、葉山と水無月に後を任す。



 実験は、一応成功した。

 しかし、被験者は衰弱していた。

 若桜が実験の中止を叫び、葉山と水無月が魔力の喪失に驚き、羽佐田と伊島達が機器の確認を始めた。


「実験を一旦中止、被験者の容態確認をする」

 そう言って、若桜を連れて環境試験室の扉を開いた。

 そこには、意識を失い衰弱した少年が居た。


 私は、無意識に下唇を噛み締めていた。

 若桜が近づき、様態確認ようたいかくにんを行っていた。

 程なく意識を取り戻した。


 若菜は、身体の状態を素早く確認を始めた。

 身体に問題は無い事を報告してきた。

 私は、若菜と入れ替わり状態を確認した。


 二言三言言葉を交わしながら、能力鑑定と魔力視で状態を確認していく。

 まさか魔力塊マナ・コアが、直径5mm程度まで縮小していた。

 能力は、何も見えなくなっていた。


 これは、今までにない異常事態だ。

 原因解明しないと命に係る可能性がある。

 そう判断した私は、魔力測定をこのまま行う事を告げる。


 若桜ににらまれたが、被験者に水を飲ませようとしている彼女の耳元で、「異常事態だ直ぐに精密検査が必要だ」と告げて、外に出た。


 外は外でパニックになっていた。何がどうなったのか分かっていないようで、お互い「ああでもないこうでもない」と言い合っていたので

「非常事態だ。

 被験者の衰弱すいじゃくが激しい。

 即最短で魔力検査を行い生理検査を行う準備を」

 その言葉で、一斉に動き出す。


 若桜が出てきた所で、即魔力測定を行う。

 その間に私が鑑定した内容を全員に周知する。

 そして、被験者の異常状態が分かり全員に緊張が走る。

 葉山と伊島達が魔力測定と並行して、解析を開始する。

 測定完了後、最低限、生理検査に必要なサンプルを手に入れると、羽佐田と水無月が解析を開始始めた。


 そこに、被験者を診察した若桜も加わり解析を加速させる。

 別室で寝ている被験者の状態をバイタルメーターで随時確認しながら、作業を続けた。昼時になり、若桜が被験者の対応のため席を外すが、誰もこの場を離れない。

 戻ってきた若桜から、午後に生理検査を受けても大丈夫そうだと報告を受けて準備をさせる。


 午後になり、我々は、被験者と対面した。

 確かに、再性転換実験直後に比べればだいぶ良くなっている。

 若桜の診断の後、我々5人で能力鑑定を行った。

 私は、既に一度見ているので驚かなかったが、他の4人は驚いていた。


 被験者を生理検査に送り出した後、若桜も含めて情報を共有する。

 まず、能力は全く見る事が出来なかった。

 魔力は、ほとんど失われていた。

 魔力塊マナ・コアは、8mm位のサイズになっていた。

 ただ魔力塊マナ・コアが、鳴動しているのだ。

 鳴動するたびに魔力が溢れてくる。


 三上「私が見た時より、魔力塊マナ・コアが大きくなっていた」


 葉山「なあ、この魔力塊マナ・コアが鳴動するたびに溢れてくる魔力って、どっちの魔力なんだろう」

 この一言で、検査データーを確認する。


 溢れてくる魔力は、女性因子の魔力だった。


 葉山「ひょっとして、男性因子の魔力は、魔力発散していないんじゃないか?」

 葉山が再び疑問を口にする。


 検査データーを再確認する。

 たしかに男性因子魔力は存在するが、魔力を発散していなかった。

 今までこの様な魔力は発見されていなかった。


 羽佐田「おい、被験者の両方の因子の魔力紋を出してくれ、あとIDに登録されている魔力紋もだ」

 羽佐田が何か思いついたのか、魔力紋を確認すると言い出した。

 比較した結果、被験者の女性因子の魔力紋とIDカードの魔力紋が一致した。


 羽佐田「俺達は、大きな勘違いをしていたかも知れない。

 

 被験者は、元々何らかの理由で性転換していた状態だった。

 おそらく、母親の胎内に居る時に性転換が行われたのだろう。


 性転換が解除された状態を見て、俺達は性転換者だと勘違いした。

 そして、俺達が人工的に性転換を誘導してしまった。


 そう考えると、女性化した直後から何の問題もなく活動していたのは、本来の姿に戻った為、自然と体が対応出来たのだろう。

 しかし、再び性転換を行った結果、本来の姿との差異の為、体がついてこれず身体機能の低下を発生していると考える事ができる。


 女性化以前は、長い年月を掛けて適応してきた結果だったという事だろう。

 仮説としては、謎が多く残るし、突拍子もないが現状最も理にかなっていると思う」


 羽佐田の言葉がおそらく正しいのだろう。


 羽佐田「問題は、鳴動する魔力塊マナ・コアだろう。

 バイタルメーターで魔力値の変化を追っているが時間とともに増加傾向にあるぞ」

 新たな問題を提起してくる。


 羽佐田「鳴動状態の魔力塊マナ・コアの解析を俺と伊島と助手で行う。

 被験者の女性化前の遺伝子と現在の生理の分析を水無月と若桜で頼む。

 被験者の魔力の詳細状態の解析を葉山・三上で頼む」

 羽佐田の指示で一斉に動く。


 被験者の生理検査が終了した連絡が入る。

 水無月が、若桜に被験者の精液を採取するように依頼する。

 今回の件が、先天性性転換病の可能性があるため、精子を調べたいという。

 遺伝病の場合、事前に分かっていれば今回の様な事態を防げるから必要な処置だろう。

 若桜も理解したようで本人の了承があればという条件付きで了承した。


 後は、被験者の問題を解決する方法を探すために全力で解析を行うだけだ。

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