第24話 反動
検体提供後、病室に戻っていた。
最初、歩いて帰ろうとしたがよろけて長距離歩けなかった。
男の体に戻ってから、体が重いし動かしにくい。
それに直ぐに息が切れる。
ほんの数メートルなら問題ない。
10mも歩けば、辛くなる。
見かねた若桜さんに車いすに載せられて病室に帰ってきた。
しばらく休憩してから、シャワーを浴びた。
替えの下着は、家から持ってきていたし、病室に戻った時に今の体型に合った室内着を渡された。
椅子に座ってボーとしていると、若桜さんが夕食を持ってきてくれた。
夕食を食べた後、何もやる気が起きず、ボーとしていると若桜さんが再びやって来た。
「優ちゃん、食事は食べれたようね」
「はい、美味しかったです」
若桜さんは、配膳を持ってきた台車に載せて廊下に置いた。
そして、俺の前に椅子を置いて座った。
「優ちゃん。貴方が今感じている体の状態を正直に教えて。
昼間言った違和感・喪失感・孤独感以外にも感じていたり、体感していることがあるはず。
私は、魔力視を持っているから優ちゃんの魔力が不安定になっていることは分かっています。その状態で、何も感じていないはずはありません」
こう言われては、何もないって言えない。
心配をかけたくないので当たり障りのない答えにしよう。
「体が、非常に怠いです。
筋肉痛で上手く体が動かせない感じです」
「それだけ?」
「はい、そうです」
「嘘ね」
そう言われた瞬間ビックとしてしまった。
「大方、私に心配をかけたくないってところかしら。
貴方の今の状態を見ていればバレバレよ」
返す言葉もなかった。
「男の体に戻ってから今までの状態を教えて」
再度聞かれた。
もう一度、どう誤魔化そうか考えて居るうちに、口から本音が出てしまった。
「男の体に戻った直後は、思うように体が動きませんでした。
まるで他人の体に入って動かしているみたいでした。
午後になって、ある程度自由に体が動かせるようになりましたが、他人の体に入ってる感じは残っていて、体を動かしても2テンポ遅れて動く感じで、体の感覚もかなり鈍く感じています。
魔力を感じません。自身の
なんだが、今の自分が作り物の様に感じてしまうのです」
若桜さんは、大きな溜息をついた。
「やはり、我慢していたね。
今、優ちゃん言ったことは、過去の性転換者の記録にも載っているわ。
性転換直後はまともに体が動かせなくて、動作・感覚に強い違和感を感じ、魔力の喪失感に襲われている。思考も男女混同してしまうために、情緒不安定になって
体を思うように動かせるまでに1週間位、社会復帰にはそれ相応の時間がかかっているみたい。
だから、優ちゃんが性転換を発症後に普通に活動できていた事にみんな驚いていたのよ。だから、男に戻っても何も問題ないと思われていた。
しかし、男に戻ったら過去の性転換者と同じ症状が発生した。
だから、三上主任達は貴方の検査データーを調べています。
その過程で判明した事があって、それに基づいて決定したことがあるの。
訊いてくれる?」
「はい。 お願いします」
「今、貴方の魔力は、非常に不安定な状態です。
貴方の中には2種類の魔力が有って、お互いの魔力が反発しあっています。
現状で2つの魔力が融合する確率は、1%未満
2つの魔力が共存する確率は、5%
女性因子魔力が占有する確率が70%
男性因子魔力が占有する確率が20%
その他、4%
三上主任達は、数時間中に高確率で再び女性化すると予測しています。
そのため、明日朝まで経過観察します。
男性のまま経過した場合は、1週間程度入院を延長しリハビリと検査を行います。
女性化した時は、検査を行い問題があれば延長入院になります。
問題がなければ、経過観察ということになり、バイタルメーターを着けた状態で退院する事が決定しました。
優ちゃんのご両親には、明日10時に来院して貰うように連絡をしました。
診断結果は、優ちゃんとご両親が揃った時に三上主任から報告されます。
以上です」
再び女性に戻ると言う言葉を聞いて、安堵している自分と男のままいたいと思う自分がいた。
「今は、これ以上詳細な情報が無いの。
というか、あの研究馬鹿供を放置していたら、優ちゃんが一生彼奴等のモルモットになってしまうわ。
この辺で、区切りを付けないとダメなの。
それに、この3日で集まったデーターの解析だって年単位で掛かる量なのよ。
貴重なサンプルだから、余計に欲張って周りが見えてないのよ。
三上主任と一緒に居た4人居るでしょう。
あの人達、優ちゃんの話を聞いて直ぐにここに駆けつけたのよ。
三上主任・葉山さん・
色々と暴露されて、反応に困ってしまった。
「優ちゃんが、男に拘るのは交友関係かな?
今までの交友関係が壊れることは怖いよね?
でも、進学すれば新しい交友関係を作る必要があるのよ。
だから、壊れたらまた作れば良いのよ」
笑顔で言われた。
「壊れたらまた作れば良い?」
「そうよ、みんなそうやって新しい交友関係を広げていくのよ。
だから、壊れることを恐れてはダメよ。
それに、本当の友人は距離が離れったって関係は無くならないわよ」
その言葉が、ストンと心に落ちた。
ああ、だから俺は苛立っていたんだ。
親友二人に置いて行かれるのでは無く、親友二人との関係が無くなってしまう事を、交友関係が壊れる事を怖がっていたんだ。
若桜さんとの話が終わった後、スッキリした気がした。
久々によく眠れそうだ。
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