第25話 再び

 その日は、就寝するまでに女性化する事はなかった。

 明日の朝は、男なのか?女なのか?

 俺は、どちらで居たいのだろう。


 不思議と「自分は男でなければならない」という意識が無くなっていた。


 今まで、交友関係は広げるもので、壊れたら修復は大変、もしくは不可能だと思っていた。だから、たとえ自分の心を殺してでも一生懸命維持しないといけないと思っていた。

 しかし、若桜さんは「壊れたら、新しく作ればいいよ」と言った。


 天井を見ながら

「そんな事、考えたことなかったな」

 と呟いた。

「女性化する確立が高いって言ってたけど、起こってみないと分からないんだよな。

 寝るか。」

 俺は、アッサリと考えることを放棄した。



 翌日、6時に目が覚めた。

 頭は、スッキリしている。久々に清々しく起きる。

 体を見る。ダボダボの室内着の隙間から見えるわずかな胸の谷間

 顔の横を流れ落ちる銀髪

 うん、女体化している。

 体に違和感はない。


 朝のルーティンをこなし、シャワーを浴びる。

 浴室の鏡で、自分の顔を確認する。女性の顔に戻っている。

 浴室を出ると若桜さんが居た。


 「おはよう。今日は早いね」

 挨拶しながら、診察服を渡してくる。


「うん、なんか早く目が覚めた」

 診察服を受け取り着替える。


「体の調子は良さそうね」


「はい、問題ありません」


「それは、良かった。今日は忙しいから、早めに準備してね」


「忙しい?」


「今日、親御さんが来るまでに検査結果を出さないといけないからね。

 だから、8時から検査するからそれまでに朝食を終わらせてね。

 じゃあ、また後で」

 そう言って出ていった。


 私は、朝食を食べに食堂に行った。


 8時に迎えに来た若桜さんに連れられて、環境試験室側の診察に行く。

 そこで、採血・口内粘膜・髪の毛を採取された。

 その後、環境試験室で魔力測定を行った。


 魔力測定が終了後、若桜さんは、私が研究所に来た時に入った診察室に連れて行った。

 そこには、両親と氷室さんが居た。


 両親達と挨拶をし、両親に疑問を口にする。

「父さん、仕事は大丈夫? あと舞は?」

 今日は、中間考査前の休校日だったはず、だから妹の舞も来ていると思った。


「仕事の事は、心配しなくてもいい。家族の大事だいじの方が重要だ。

 舞は、家に置いてきた。

 舞も来たがっていたが、をしていたからそちらをさせた」


「優ちゃん 貴方も色々大変だったでしょう」


「うん」


「お疲れ様」

 そう言って、母さんは私を包み込むように抱いた。

 しばらくして、開放してくれた。


 若桜さんが、私を丸椅子に誘導して、

「座って待ってください。もうすぐ三上主任が来ます」


 その言葉の30秒後、三上さんが診察室に入ってきた。

「お待たせして申し訳ない。

 今回、神城 優さんの検査を担当した三上です」


 その言葉に、会釈する両親。

 三上さんは、私と対面する椅子に腰掛けた。


「それでは、検査結果を報告します。

 今回の検査は、生理・能力・魔力の検査を行いました。

 また、本人とご家族の同意の元、再性転換処置を施術せじゅつしました。


 生理検査の結果は、身体年齢10歳位の健全な女性の体です。


 能力・魔力の検査結果は、この後発行されるライセンス証を確認してください。


 先日行った再性転換は、男性化に成功しましたが、衰弱すいじゃく等の症状が発症しました。また、約16時間後、再び女性化しました。


 今朝、再検査の結果、身体に異常はありませんでした。

 再性転換処置の影響は無いと思われますが、万が一の可能性がある為、年内は経過観察が必要と判断しました。


 そこで、バイタルメーターを装着状態での退院をしてもらうことになりました。

 優さんが着けているバイタルメーターは、24時間測定データを病院に転送している為、常時監視が可能です。

 また、異常が発生した場合、10分以内に駆けつけ対応するバックアップ体制を構築します」


 そこで、三上さんは口を閉じ、私を見ます。


「神城 優さん よく聞いて欲しい。

 残念ながら、君はもう男に戻れません」

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 ・

 そう、それから、戸籍の性別を変更し、IDカードの再発行申請を行い、ライセンス証をもらい、今、通学している中学校に向かている。


 車窓から外を見ながらこの3日の事を思い出していた。

 あまりにも濃い3日間だった。


 それで、思い出して気づいたのだが、私、普通に女の子しすぎてなかった!?

 元男なのに、女性化したからって、女の子ムーブする必要なかったのに自然とやってたよ。


「あら、優ちゃん 変な顔してどうしたの?」

 母さんが尋ねてきた。


「え、なんでも無いよ」

 ちょっと赤くなりながら、視線を車窓に向けたまま答えた。


「自然と女の子らしく振る舞っている事に気がついたんでしょう」


 思わず母さんの方に勢いよく顔を向けた。


「あら、当たりね」

 人指し指をおとがいに当ててそういった。


 私がじっと母さんの顔を見つめていると

「優ちゃんが女の子になったでしょ。

 最初、オレっ娘もいいかな~て思っていたんだけど、氷室さんとの初対面の挨拶の時になんか違うと思って、やっぱり、女の子らしくして欲しくて、、優ちゃんにを掛けちゃいました」


 今にもテヘペロしそうなノリで言われた。

「誓約って?」


「あの時、言ったでしょう。

 『』って」


 私の頭に疑問符が大量に浮いている。


「私が、誓約事項を設定して、優ちゃんが承認したから、優ちゃんのの中に女の子の時は、女の子らしい言動を行うになっただけよ。

 解除しろって言っても無理だからね。

 私の能力は、効果が強力だけどその分、発動・解除の条件も厳しいの、だから諦めてね」

 会心の笑顔で言われた。


 「私の行動原則に女の子時は、女の子らしい言動?

 それって、無意識に女の子らしい行動をするってこと?

 しかも、解除不可能?」


「その通りよ。よくできました」

 母さんは、手をパチパチと叩いている。


「えーーーーーーーーーーー」

 私の絶叫ぜっきょうが車内を木霊し、絶句ぜっくした私が残った。

 

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