第18話 検査終了後は、

 その後、太和さんが試験の終了を告げて終了になった。

 太和さんと三上さん達研究者の方々は、一緒に何か喋りながら出ていってしまった。

 時刻も16時30分を回っていたので、病室に戻るため射撃室を出る。

 射撃室の前に若桜さんが手に紙袋を持って待っていた。

「やっと出てきたわね。それじゃあ、行くわよ」

 私の手を引き歩きだす。


「何処に行くのですか?」

 と尋ねると。


「お風呂よ。約束したでしょ。

 体の手入れ方法を教えるって」


「え、それはどういうこと?」


「体の洗い方から、髪の手入れ方法まで実践を交えながら教えてあげるのよ。

 この時間なら教導隊の研修棟の共同風呂が使えるから一緒に入りましょう。

 ちゃんと優ちゃんの分の着替えも持ってきているわ」


「ん! 私、元男ですよ。それに若桜さん仕事中では?」


「私は、全く気にしていないわ。

 それに仕事は丁度休憩時間よ。

 事情を説明したら融通してくれたわ」

 笑顔で答えられてしまった。


「私の方が、気にします。」


「そういう所が、思春期の男の子よね。

 でもこれから女性として生きていかないといけないから馴れなさい」


「でも、明日、男に戻れるかもしれないって」


「その時はその時よ。

 戻れるかもしれないし、戻れないかもしれないじゃない。

 上手く男に戻れたなら、ただ得しただけになるだけでしょ」

 そう言って、引きずられて女風呂に引き込まれた。


 脱衣所には、既に何人かの女性が居て服を脱いでいた。

 私は、思わず真っ赤になって顔を背ける。

「若桜さん 他の人が居ますよ」


「そりゃあ、居るわよ。

 今、機動戦略隊きどうせんりゃくたいの中部駐屯地の3部隊が訓練に来ているからね。

 訓練者が居ないと共同風呂なんて使えないわよ」

 さも当然とばかりの返答に唖然あぜんとしていると。


「あら、若桜じゃあない。どうしたの?」

 タオルで前だけを隠した女性が声を掛けてきた。


「霜月先輩お久しぶりです。

 この子に体の手入れ方法を教えるために来ました」

 そう言って、私を前に押し出す。


「綺麗な子ね。

 どうして手入れ方法を教えることになったの?」


「この子、性転換者なんです。

 

 能力発露のうりょくはつろ後、直ぐにここに来たから家族からも手入れ方法を教わっていないので私が教えることにしました。

 先輩も一緒にやりませんか?」

 若桜さんが嬉々として暴露ばくろして、誘ってる。


 私は、罵倒ばとうされるの思って目をつむって顔を下げた。

「ほら、そんな顔しないの。皆、問題ある?」

 私の前にしゃがんで頭を撫でながら慰めてくれる。


「「「問題ありません。こんな可愛い子なら大歓迎~」」」

 脱衣所から、一斉に返答が返ってきた。


 思っていた状況との違いにキョトンとしていると、そのまま手を引かれ脱衣棚の前に連れてこられた。

「さあ、脱いで」

 若桜さんにそう言われたが、服を脱ぐのに躊躇ちゅうちょしていると、若桜さんは、早々に服を脱いで裸になっていた。


「恥ずかしがってないで脱ぎなさい。

 それとも私が脱がしてあげようか?」

 その言葉に周りが反応した。


「なら、私が脱がしたい」「わたしも」「わたしも」・・・数人が私を脱がす役をやりたいと立候補する事態に。


「自分で脱ぎます」

 大慌てで、服を脱いでいく。


 周りではちょっと残念そうにしながら服を脱ぐ姿を見つめられる。

 かなり恥ずかしい。


 裸になると、そのまま浴室に連れ込まれ洗面台の前に座らされた。

 そして、私の周囲には、5人の女性。

 右側に若桜さん、左側に霜月さん、後ろに3人の若い女性が着いた。

 若桜さんと霜月さんに指導されながら体を洗う。


「優ちゃん、貴方の肌ってアルビノ特有の敏感で繊細な肌なのよ。

 ちょっと雑に扱うだけで直ぐに傷が着いて赤くなってしまうわ。

 きちんとスキンケアしないと、直ぐにボロボロになってしまうのよ」


「この髪も繊細だね。手入れを怠れば直ぐに枝毛になりそう」


石鹸せっけんとかどうする?

 備え付けのじゃあ合わなそうだけど」


「大丈夫、敏感肌用の石鹸せっけんとスポンジも持ってきているわよ。

 髪も合いそうなシャンプー・トリートメントも用意済」

 そう言って、ビニール製のポーチから石鹸・スポンジ・ボトル2本を取り出し並べていく。


「最初に、かけ湯でしっかり体についた細かいホコリ等を流すのよ。

 石鹸はしっかりと泡立てて、肌を撫でるように洗うの。

 広い場所や背中はスポンジを使ってもいいけど、スポンジもしっかり泡立てて撫でるように洗うのよ。

 決してゴシゴシ洗ってはダメだからね。

 この石鹸は、洗顔用としても優秀だからこれで顔を洗っても大丈夫よ」

 最初に注意事項を言われて、体を洗う様子をつぶさに観察される。

 おかしな点があれば直ぐに周囲から指導が入ってくる。


 体が終わると、次は髪の毛だった。

「事前にブラッシングして、かけ湯でホコリを落として手漉きで軽く洗う」


「シャンプーで頭を洗う時は、シャンプーを直接頭に付けないで手で軽く泡立ててから、頭の数カ所に付けて洗うのよ」


「頭皮をガシガシ洗わない。

 頭皮は指の腹でマッサージをする様に。

 髪の根元から毛先にむかって優しく揉むように洗う」


「洗い終わったら、しっかりと洗い流す。」


「トリートメントは、頭皮に付けないようにして、毛先に向かってなじませる。

 馴染んだら、しっかりと洗い流す」

 体と同じく周囲から指導を受けながら、なんとか洗い終わる。

 真後ろに居るおねーさんが、タオルで髪が落ちないように纏めてくれた。


 すると、既に体を洗い終わっていた別の女性陣に捕まって浴槽に連れて行かれる。

 浴槽に浸かるが、女性陣に囲まれているため目のやり場に困る。

 お姉さん方は、そんな私の様子を見てなにやら盛り上がっている。

「私、元男なのに、気持ち悪いとか思わないのですか?」

 そんなお姉さんたちに、思い切って聞いてみた。


「そりゃあ、中身がキモいオヤジとかセクハラオヤジだったらイヤだけど。

 それに、こんな可愛い反応する子が、キモオタとか思えないね」


「うんうん、可愛い子なら大歓迎」


「どうみても、演技しているように見えない」


「そうね、君なら別段裸を見られても問題ないわね」


 肯定的な意見が返ってきて、真っ赤になって水面に顔を向けると

「そういう反応よ。

 そういう純情な反応をする子が、悪い子のハズないでしょう」


「それに、霜月3尉が受け入れたしね」


「そうそう、それが一番大きいかな」


「あの人、悪意とか害意に敏感だからね」


「それに、将来一緒に仕事する事になるかもしれない」


「おお、後輩との触れ合い。」

 密着度が増え、色々と質問攻めに、目を白黒させのだった。

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