第225話 1年次 6月総合試験(2)

 下の階で訓練生がガヤガヤとしている。


 霧崎教育官の

「お前ら並べ」

 号令が聞こえた。

 ドタバタと移動する音が止み、霧崎教育官が試験方法と注意事項を与えている。


 まあ、試験内容は、Aクラスが魔力纏身まりょくてんしんを行い。

 Bクラスが魔力の最大出力の維持だ。


 Aランクは、魔力纏身まりょくてんしんの魔力量が、魔力最大量の70%以上を15分維持が合格基準だ。

 Bランクは、最大出力の80%以上を15分維持が合格基準になる。


 霧崎教育官の合図で試験が始まった。


 開始5分、Bクラスの下位の者達の中に安定に欠け始めた者が出始めた。

 開始8分、Bクラスの1人が試験官の目を盗んで息継ぎをした。

 その本人は、知らん顔で試験を継続している。

 直ぐに、手元に置いてあったタブレットを操作して、該当の訓練生の1回目の試技を失格にする。


 下の階の鏡状のディスプレイに、対象の訓練生の出席番号と継続時間と終了が表示される。

 当然、もう1人の試験官の厳島教育官が肩を叩き、床に座られた。

 いくら下の階の試験官が2人だからと言って、誤魔化される事は無いし、壁のディスプレイに表示されているのは自動計測なので、誤魔化しようが無い。

 事実、私が気づくと同時に厳島教育官も動いていたからだ。


 時間経過と共に脱落者は出て、15分経過時にはAクラス全員、Bクラスは5人だけになった。

 このメンバーが、合格点を超えた事になる。


 16分たった所で、Aクラスから1人脱落した。

 その後、18分時点で、Aクラス7人を残して次々と脱落した。

 残っている美智子さん達以外の3人は、伊吹さんと章と零士だ。


 ここまでの章は、非常に安定している。

 この安定がいつまで続くのかな。


 39分を超えたあたりから、章の魔力が安定しなくなり始めた。

 そろそろ限界かなと思って見守る。


 44分、ついに魔力制御が途切れた。

 章はここで脱落した。


 56分、伊吹さんが脱落。

 こちらも集中力が切れた事によるものだ。


 1時間11分、零士も脱落。

 零士も集中力が切れた事によるものだ。


 そして、残った4人は、魔力調律状態を維持し続けている。

 霧崎教育官は、美智子さん達4人を除く人達に、トイレ休憩に行かせる。

 彼らが戻ってきて、彼らの2回目の試技を始めた。


 2回目の試技も零士が1時間15分と健闘したが、美智子さん達4人は、まだ1回目を継続中だった。


 時間は、11時45分。

 この調子では終わらないと判断したのだろう。

 霧崎教育官が、4人に終了を告げた。


 時間的に2回目の試技を行う時間は無いが、1回目に試技の結果だけでもトップ4は確定している。


「このまま、お前達だけ2回目の試技が無いのは不公平だ。

 2回目の試技は、俺に1撃を入れてみせろ」

 と厳島教育官の声が聞こえた。


 厳島教育官の方を見ると、両手にキックミットを持って立っている。

 霧崎教育官は、苦笑いをしながら

「お前ら下がれ」

 と指示をして、訓練生を後ろに下がらせて訓練室の半分を空けさせた。


 その間に美智子さん達は、各々軽くストレッチをしたり、軽くジャンプをしたりして体を軽くほぐしている。


 今の美智子さん達の姿は、訓練校の訓練着だ。

 上着は、半袖で白。

 ズボンは、長ズボンで紺


 上着をズボンの中に入れているので、胸が強調されている。

 特に郁代さんは、大きめの訓練着を着ているので、胸の下側で訓練着がダブついていた。

 胸の下に訓練着を巻き込む様にして背中引っ張り、タブつきを取っている。


 そして、今日の試験では魔力纏身まりょくてんしんを行う事が分かっていたので、スポーツブラ等は着けず、普段使いの物を着用している。


 その状態で準備運動を始めた結果、男共の目線が釘付けになっているのである。

 それに気づいた女性訓練生達が、ゴミを見る様な目でその様子を見ている。


 まあ、一部の女性訓練生の目線も釘付けになっている様だが…。


 そんな中、零士と章と伊吹さんが、厳島教育官と何やら話をしている。

 美智子さん達から完全に背を向けた形になっているので、他の男共の様に見ていない事に気づいた。


「準備出来ました」

 と美智子さんが右手を上げて宣言した。


 それを聞いた零士達も厳島教育官から離れ、見やすい位置に陣取った。

 厳島教育官がミットを構え、「来い」と告げる。


田中たなか 美智子みちこ 行きます」 

 と言った美智子さんは、両手をだらりと下ろした状態から、技能スキル身体強化を用いて距離を縮め、左拳・右拳・左ハイキックの連撃を打ち込む。

「ドス」という重い音が3連続で響いた。

 それは、厳島教育官が左右の手に持ったキックミットで受けたからだ。


 零士達3人以外の訓練生が、呆然としている中

「そこまで、次」

 と厳島教育官が告げた。


 千明さん達の所に美智子さんが戻ると、千明さんが手を上げ

鳥栖とす 千明ちあき 2番手行きます」

 と宣言を上げた直後、技能スキル身体強化で距離を縮め、右正拳を放つが、厳島教育官の左手のキックミットで受け止めた。

 千明さんは、そのまま右腕を畳む様にし、左手で右手首を押す様な感じで、右肘を下から上に体ごと押し出す様してキックミットに打ち込む。

 厳島教育官の左手のキックミットが、上方に持ち上がる。


 体ごと右肘を打ち出す反動を利用して、左肘を引き絞った左拳が、跳ね上げてキックミットが無くなった厳島教育官の腹部目掛けて高速で打ち出される。

 厳島教育官は、右手のキックミットで受け止め、「ドス」という重い音が響いた。

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