第226話 1年次 6月総合試験(3)

「よし、次」

 と厳島教育官が告げた。


 皆が千明さんを迎い入れると、郁代いくよさんが勢い良く手を上げ、その反動で胸が大きく揺れた。

 ほとんどの全員の目が、郁代さんの胸に集中する。


 そりゃあ、私達の中で一番大きいから注目する気持ちも分かるけど、男共の見てませんフリをしても丸分かりなんですよ。


土田つちだ 郁代いくよ 3番手行きます」

 と宣言した後、つま先立ちをする様なミニジャンプを5回繰り返す。

 男共の目線も上下しているのも丸わかりだ。

 男共に軽蔑の視線を送る女性陣。

 そんな女性陣の一部は、自分の胸に手を当て、ため息をついている。


 そんな中、零士の視線は足に向いていた。

 あの仕草の秘密に気づいたのかな?

 章と伊吹さんにも、何か言っている。


 郁代さんが5回目の着地した瞬間に、先の2人よりも圧倒的に早い速度で厳島教育官に迫り、右ハイキックを打ち込むがキックミットに阻まれしまう。

 郁代さんは、打ち込んだ右足を軸にして体をコマの様に回転させ、後ろ蹴りの要領で左足を打ち込む。

 厳島教育官は、上体を逸らして蹴りを躱す。

 後ろ蹴りの勢いを利用して、上体を天井を向けた。

 その状態で両足を伸ばし、厳島教育官の頭を挟む様に足を閉じる動作をする。

 更に体を捻り、高速で両足を交差させる動作に切り替える。

 厳島教育官は、咄嗟とっさに膝を折り、体勢を低くする事で交差蹴りを回避する。

 郁代さんは、うつ伏せの体勢で両手を床に着き、体の回転を殺しながら、両手を軸に半回転しながら両足を着地させた。


「そこまで」

 と霧崎教育官が告げた。


 郁代さんは、立ち上がり皆の元に戻って行く。

 皆が郁代さんを迎い入れている間に、霧崎教育官が厳島教育官に何か言いながら、立ち上がらせていた。

 ほとんどの訓練生が、今の動きを見失っていた様だが、零士達はしっかりと追えていた様だ。

 しかし、今の連撃に込められた技能スキルは理解出来なかったみたいだ。

 だが、高度な技能スキルが使われた事は理解出来たみたいだな。


「よし、次」

 と厳島教育官の声が響いた。


「4番手。都竹つづき みやこ 行きます」

 と都さんが宣言すると構えを取る。

 左手を軽く腕が曲がる程度で顔の高さに上げ、手の平を相手に向け。

 右手は、右胸の前で軽く拳を握り。

 右足を後ろに引き、腰を軽く落とす。

 重心は右足の踵に載っている。


 構え後、1秒の停止、そして、先程の郁代さんの速度を上回る速度で厳島教育官の間合いに入り、魔力を溜めた右拳のストレートを打ち込む。

「ドゴン」と堅い物を叩き割る様な音が響いた。

 それは、厳島教育官が左手のキックミットを右手で押さえる様にして受け止めた事により生じた音だった。

 零士達は、目を大きく見開いた状態で固まっている。


 壮絶な笑顔を浮かべる厳島教育官が

「良い一撃だ」

 と言うと、都さんは拳を引き

「ありがとうございます」

 と言って一礼をした。


「これにて、お前達の2回目の試技を終了する」

 と宣言した。


「全員集合」

 と霧崎教育官が号令を掛け、全員を集めた。

 あとは、試験の終了を宣言して解散となった。


 美智子さん達は、普段通りに訓練室を出て行く。

 零士達は渋い顔をして出て行き、他の訓練生は狐につままれた様な感じで出て行った。


 4人の2回目の試技の評価を書き込みが終わった頃に、霧崎教育官と厳島教育官が休憩室に入ってきた。


「ご苦労さまです」

 と声を掛け、試験の評価を入れたタブレットを霧崎教育官に手渡した。

「では、教室にもどります」

 と言って休憩室を出て行った。


 厳島教育官は、なんか拍子抜けみたいな顔をしていた。

 恐らく、今回の予定外の試験内容に文句の1つでも言われると思っていたのだろう。


 今回の予定外の試験内容は蛇足的な物であり、成績に影響無いので特に気にする必要が無かった事と、今の彼女達の実力の片鱗を感じ取って貰えたので、十分な成果が有ったと判断出来たから何も言わなかった。


「あ、そうだ」

 と言って足を止め、振り返る。


 霧崎教育官と厳島教育官が、私を見た。

「厳島教育官。最後の一撃で一歩も動かなかったのは流石ですね。

 それとお二方共、対戦相手の胸に視線が行かなかったのは流石でした。

 では」

 と言って、教室に戻るのだった。

 後ろで、二人は怪訝な顔をして立ち尽くしていた。


 教室に戻ると今日の能力試験についての会話が、あちらこちらから聞こえる。

 内容的には、何分何秒維持出来たとかで盛り上がっている。

 このクラスには、美智子さん達以外にA・Bランクの試験を見た者が居ないので、なんとも微笑ましい状況だと思えてしまう。


 美智子さん達と合流して、試験の感想を聞く事にする。

「今日の試験はどうでした?」

 と質問に対して、4人共

「あんなに長く続けられるとは思わなかった」

 と言う感想だった。

 普段は、私が魔力で負荷を与えた状態で訓練をしているから、無負荷の時の維持時間が伸びた事に気づいていなかった様だ。


「他の人達は、2回目の試技も終わっても私達の1回目が終わらないから、強制終了されられた」

 とちょっと不満そうだった。


「そうそう、厳島教育官がミットを持ち出して、『時間が無いから、2回目の試技は俺に一撃を入れてみせろ』と言うから、思いっきり打ち込んだけど、あっさりと止められたね」

 と美智子さんが言い。

「そうだね。誰もまともに1撃を入れられ無かったね。

 流石、教育官だよ」

 と都さんが補足した。

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