第89話 休息日

 装備の手入れと片付けを終えて、太和さんと霜月さんと私で、研究所に戦利品の武具と呪われた指輪を持ち込む。

 それらを、専門の研究員に見せると、目を見開き、鼻息を荒くした。

 特に、呪われた指輪と不思議な感覚のする短剣を見た研究員は、奥に走って行き、数名の研究員を引き連れて戻って来て、それらを確認すると騒ぎ出した。

 物凄い早口で、謎の呪文の様な言葉が次々と飛び出して行く研究員達を、呆然と見ていた。

 太和さんと霜月さんを見ると、二人共呆れ顔だった。

 太和さんが、一番最初に声を掛けた研究員を揺すって正気に戻してから、鑑定の手続きを終え、持ち込んだ物を預けてから備品室に戻る。


 備品室で、今回の遠征のミーティングを行う。

 ホワイトボードに今回の遠征での出来事を書き出し、要所要所を補完しながら、時系列と事実をまとめる。

 そこに、各員の考察等を書き込んで、報告書の叩き台を作り上げた。


 太和さんは、ホワイトボードを写真に撮ってから、私に向かって笑いながら、

 太和「俺は、これを元に報告書を書く。

 俺は、他の連中の様に頭が良く無いからな、事前に必要な要点を纏めておかないと、滅茶苦茶な報告書になってしまう。

 若い頃は、それでよく怒られたものだ。

 でも、隊長に資料のまとめ方を教わってから、だいぶマシな報告書が書ける様になったんだ。

 俺でも出来る方法だから、神城も覚えた方がいいぞ。」


「わかりました。」

 確かに、報告書とかの資料の纏め方とか、学校で教わっていない。

 せいぜい、壁新聞みたいな発表用にまとめて書き出した位だ。


 太和「良い時間になったから、今日は解散だ。

 しっかり休めよ。」


 疲れたし、眠いし、お腹も空いたけど、気持ち悪いし、体臭が気になる。

 取り敢えず、寮に戻りシャワーを浴びる事にする。

 一応、訓練所内と研究所内なら、自由に出歩いても良い事になっているけど、基本的に一人で行動しない。

 だから、シャワーを浴びた後、ご飯どうしようかな。

 一応、カップ麺を何個か置いて有ったはず。

 疲れたし眠いから、食べなくても良いか。


 そんな事を考えながら、寮に戻りシャワーを浴びる。

 体と髪を3回も洗い直してから、お風呂を出て洗濯機を回す。


 そこに寮母さんがやって来て、呼ばれたので付いて行くと、寮監室にご飯が用意されており、食べなさいと言ってくれた。

 感謝して、ご飯を食べ、今回の遠征の事を話す。

 笑顔で話を聞いてくれる寮監さん夫妻と穏やかな一時を過ごした。


 食後、眠気を堪えて洗濯物を干し、寝る準備して布団に潜り込んだ所から記憶が無く、朝いつもの時間に寝覚めました。


 スッキリと目覚めたので、いつも通りの朝のルーティンを熟してから朝食をどうしようかと悩む。

 遠征に合わせて食材を使い切ったので、手元の食材はカップラーメンのみ。

 よし、研究所の食堂に行こう。


 食堂で朝食を取った後、第三体育館で魔力制御訓練を行った。



 2時間程、訓練をしてから寮に戻る途中、教導隊隊舎前で、太和さんに会った。


 太和「おはよう。自主訓練か?」


「おはようございます。魔力制御訓練をしていました。」


 太和「一応、今日は休養日なんだが。」


「日課になっています。太和さんは、どうしたんですか?」


 太和「報告書を書きに来ただけだ。

 ついでに、先日の拾得物の鑑定結果を聞きいてきた。

 詳細は調査中だが、材質だけは分かった。

 大剣、槍、盾は、ブルーメタル製

 短剣とリッチが持っていた指輪は、ミスリル製

 杖は、賢老樹製

 そして、お前が拾った短剣は、オリハルコン製だった。


 オリハルコン製の武具なんて、世界で10数点しか見つかっていないから、研究者共は馬鹿騒ぎ中だ。」


「そうなんですか。」


 太和「ああ、そうそう。

 今度、鑑定訓練を行ってくれるそうだ。」


「鑑定訓練?」


 太和「そうだ。

 上級能力鑑定は、訓練しないと生物・物質・魔物鑑定等の能力が得られないそうだ。

 俺は、そんな訓練が要るなんて知らなかった。

 そういう訳で、訓練を受けてくれ。」


「分かりました。」


 太和「俺は、報告書を書いているから、神城はゆっくり休めよ。」

 そう声を掛けて、教導隊本部に入っていった。


 寮に戻り、シャワーで汗を流した後、外出着に着替える。

 なんだか、服がきつくなっている気がする。

 この前着た時は、もっとブカブカだったはず。

 今日の外出は、霜月さんにお願いして、食材の買い出しに行く事になっている。


 約束の時間に、霜月さんが迎えに来た。

 車に向かうと、氷室さんと若桜さんも居た。

 ただの食材の買い出しのハズなんだけど。


 車に乗って連れて来られたのは、訓練所に近いショッピングモール。

 八重花さんのお店の入っているショッピングモールだ。


「なぜ、ここに?」


 氷室「八重花さんに、貴陽学園の制服の調達を依頼していたんですよ。

 3月頭には届いていたんですが、任務が有ったので、今日まで伸ばしていたんです。

 それに、入学に必要な学用品も準備しないといけませんしね。」


 制服や学用品を買うからと、お金を下ろした後に連れて来られたのは

「それで、下着売り場に連れてこられた理由は?」


 若桜「決まっているでしょ。

 優ちゃんの新しい下着を買うためよ。

 訓練等で、かなり消耗しているでしょう。

 訓練校に行ったら、更に消耗が激しくなるから多めに購入しないとね。

 それに、ブラもキツくなっているでしょ。

 私の目は誤魔化せないぞ。」


 確かに、ちょっとキツイかなって思う事は有るけど、買い替えが必要な程では無いと思うのだが、反論は許されなかった。

 そのまま、いつもの店員さんにフィッテイングを受けた結果、1カップ大きくなっていました。

 胸より、身長が欲しい。


 多めの下着と部屋着を数点購入してから、八重花さんのお店で制服(夏・冬)、訓練着、靴、上履き、鞄を購入。

 当然の様に、春・夏物のモデルをやらないかと言われたが断った。

 八重花さんも最初から断られる事が分かっていたみたいで、「お約束だから、聞いてみただけだから。」と笑っていたが、目の奥が笑っていなかった。

 きっと、何らかの形でまたモデルをやらされる気がする。


 その後、スーパーで数日分の生鮮食品と、任務後に食べられる様に保存食を数点買いってから、訓練所に戻った時には夕飯時だった。


 寮まで荷物を運んで貰い、霜月さん達と別れた。

 荷物を片付けた後、夕食を作って食べ、シャワーを浴び、洗濯機を回してから、いつもの様に勉強していた。

 この時間に勉強をするのも、すっかり習慣化してしまった。

 学びたい事はいっぱいあるし、独学の為の教材等は、氷室さん達が用意してくれたので、黙々と熟していく。

 いつもの時間に、勉強を切り上げ、寝る準備を済ましてからストレッチをして、布団に潜り込んだ。

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