第90話 資源ダンジョン(1)

 翌朝、教導隊隊舎に行くと

 太和「明日から、3泊4日の予定で資源ダンジョンに潜るぞ。」


 霜月「また、急だな。」


 太和「依頼内容は、ダンジョン深部での異常調査と魔物の討伐だ。


魔物の間引きと資源取得の為に潜った駐屯地のランクDの6人パーティー2組とランクCの4人パーティーが、本来下層に居るタラテクトの大群に、手も足も出ず撤退を余儀なくされた。


 この事から、ウチに応援要請が来た。


 そういう訳で、朝の内に装備の準備をしてくれ。

 移動は、明朝からだ。


 ああ、そうそう。

 神城は、装備の準備が済んだら、研究棟に行くぞ。

 鑑定訓練を受けてもらう。


 さっさと、準備するぞ。」


 1時間程で、装備の準備は終わった。

 一昨日、装備の手入れをしたばかりだったので、携行装備と携帯食とバックパックの準備だ。

 今回装備するバックパックは、思金おもいかね特製120L大容量バックパックに補助鞄を着けた物だ。

 このバックパックは、一見容量30Lの鞄2個を繋いでいるだけに見えるが、魔力を供給すると、倍の容量60Lの鞄2個分になる。

 思金おもいかね能力アビリティの付加技術により、内部空間を広げる事に成功した物で、元の容量の倍の内部空間を有する事が出来る。

 それは、素晴らしいものだが、当然欠点もある。


 まず、元の容量が30Lまでにしか対応出来ない事。

 生物は入らない、死んでいれば可能。

 内部空間を拡張中に、元の容量を超えて物を入れている状態で、魔力供給が停止すると、内部に入れている物の強度に関係なく、容器が壊れて内の物をバラ撒く。元の容量未満だと壊れない。

 同様に、容器が破損しても、中の物をバラ撒く。

 そして、

 すなわち、入れた物の重さがそのままバックパックの重さになる。

 当然、容器そのものが重量に耐えられなければ壊れる。

 その為、このバックパックに使われている特殊繊維は、魔力供給を受ける事で、内部重量が1,000Kgまで耐えられるうえに、耐摩耗・耐刃・耐刺突性が向上する優れた物だ。

 もちろん、防刃防弾防水・撥水機能付きだ。

 魔力供給は、装備者か魔石を用いて行われる。

 ただし、燃費はあまり良くない為、普段使いされる事は無い。

 どの位消費するかと言うと、1L容量を増加するのに毎時1,000MPを消費する。

 この時点で、ランクF1の総魔力量に相当する。

 今回の120Lバックパックなら、毎時60,000MPを消費する。

 これは、ランクE6の総魔力量に相当する。

 実質、ランクC6以上で無いと装備出来ない代物だ。


 補助鞄に、携行装備と携帯食料を入れて準備完了。


 太和さんと霜月さんと一緒に研究所に移動する。

 太和さんが事前に連絡していた為、研究棟の試料室に通された。

 そこには、三上さんともう一人の女性が待っていた。


 三上「おはよう、よく来たな。

 紹介しよう、こいつは、試料室室長兼材料研究をしている松永まつながだ。」


 松永「松永 みどりです。」


「神城 優です。」


 三上「話は聞いている。能力鑑定の能力拡張を行いのだろう。

 方法は、それ程難しいことはない。

 生物・物質・魔物鑑定も、基本的な鑑定方法は同じだ。

 ただ、見方が異なる為、慣れが必要なだけだ。

 まず、それを教えよう。

 その後、試料を実際に鑑定する事で慣れてくれ。

 試料については、松永が詳しいから、彼女に聞いてくれ。」


「はい、お願いします。」


 太和「それじゃあ、明日から資源ダンジョンに潜るから、そこで必要となる物を優先的に頼む。

 あと、俺は戻って先日の報告書を仕上げてから報告しに行くから、ここは任せた。」

 そう言うと、太和さんは出て行った。


 三上「それじゃあ、実物を使いながら見方を教えよう。」

 それから、2時間かけて鑑定方法を教わった。


 能力鑑定と他の鑑定の大きな違いは、相手の魔力を見るのではなく、自分の魔力を照射して返ってくる魔力を見て判断する事だった。

 だから、この間見つけたダンジョンの特別な能力を持った武具の見分けが付いたのは、武具の放つ魔力を見る事で能力を判定出来たからだった。


 生物と魔物の違いも初めて知った。

 基本的に同じだが、魔力の在り方の違いで判別していた。

 地球の生物は、魔石・瘴気石を体内に持たない為、自分と相手の魔力干渉波で相手の状態を把握する事が出来るが、相手の能力は判定できない。

 魔物の場合、魔石・瘴気石を体内に持つ為、魔力の干渉波が2種類出るとの事。

 相手の生体状態と魔石・瘴気石の状態の2種類で、魔物の能力アビリティは、魔石・瘴気石に能力が刻まれている為、魔石・瘴気石を知る事で能力アビリティ等を判別する事が出来るそうだ。

 実際には、戦闘中に行わければならない為、容易でない。

 魔物化した地球の生物には、体内に魔石が後天的に生成される為、大抵凶暴化する。



 物質鑑定は、物質が特定の魔力波を吸収・反射する現象を元に判別する。

 その為、事前に様々な物質の魔力特性を知る必要がある。

 だから、物質鑑定の能力を持った人は、必死に物質の特性を覚えるそうだ。

 三上さん曰く、私には記憶の能力が有るため、一度経験すれば問題が無いだろうとの事。


 一通りの訓練が終わった後、

 三上「そうだ、忘れていた。

 生物鑑定を使えば、相手の弱点や怪我の状態も分かる。

 治療にも使えるから、使うと良いぞ。」


 その情報、もっと早く欲しかった。

 治癒の能力の訓練の為に、色々な人の治療を行ったけど、私にはその状態が分からず、若桜さんに教わった魔力触診まりょくしょくしんと若桜さん達の検診を聞きながら行っていたからだ。


 でもそうすると、

「魔力触診って、生物鑑定の技能スキル版?」


 三上「その通りだ。

 魔力触診は接触する必要が有るが、同じ事をしている。

 精度は、使用者の熟練度によって変わるが、基本的に接触している方が正確に鑑定出来る。」

 あっさりと肯定が返ってきた。

 その後、三上さんは、松永さんに任せて仕事に戻っていきました。


 霜月さんが、資源ダンジョンで必要な試料を松永さんに伝え、松永さんが持ってきた試料を鑑定して、正解とすり合わせを行う。


 それが終わると、松永さんが今後必要となるだろう試料を持ってきて、鑑定と正解のすり合わせで一日が終わった。

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