第55話 世情に巻き込まれて(3)

 教室には、まだ残って作業をしている人も居たが、彼らと別れて待機室に戻ってきた。

 既に帰宅準備が出来ており、直ぐに車に移動して乗り込む。

 車が走り始めると、雛元さんが話し始めた。


「神城さん。これを見てください。

 今朝、9時00分に岩倉長官より国民に向けて以下の発表がありました」


 渡されたタブレットに次の映像が表示されていた。

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「我が国で、世界で8人目のSランク能力者が誕生しました。

 我々は、にこの国の守護者になる事を依頼し了承を得る事に成功しました。

 の実力の一部を公開します」

 ここで、先日行った現状確認の際に超強度コンクリートを全て粉砕して吹き飛ばした映像が流れた。

「この映像からも分かるように、超強度コンクリートを一撃で粉砕する程の実力を有しています。しかし、実力に疑問を持つ人も多いと思われるので、来週の月曜日にの実力を証明する公開演習を行います。

 ライブ映像の配信と150組300名程の観覧者を予定しています。

 観覧については以下の制限を設けます。

 事前登録制で1団体2名まで。

 こちらの指示にはしたがって行動してもらい、指定した観覧エリア以外での観覧の禁止。

 毒物・爆発物等の危険物の持ち込みの禁止となります。


 事前登録は、報道部に申請してください。

 期間は、土曜日の17時00分までとします」


「守護者の氏名、年齢は?」

 と言う記者の問に、岩倉長官は

「守護者の氏名、年齢等個人情報は一切お応えできません。

 守護者となってくれたの安全を護るためにも非公開です」

 と返す。


「何故、公開演習が来週の月曜日なのですか?」

「観覧人数が300名に限定されているのは何故ですか?」

 記者達が、更に質問をする。


「公開演習が来週の月曜日なのは、最短で準備してその日になってしまっただけです。

 観覧人数が300名なのは、安全対策上の都合です」

 と岩倉長官が答える。


「安全対策とは、守護者への安全対策ということですか?」

 と言う記者の質問に


「違います。観覧者への安全対策です。

 の力は凄まじく、十分な安全対策を施さないと観覧出来ない程です。

 その為、演習を行う場所にも大きな制限がかかるため、今回の日程になっていると理解してください。

 なお、観覧希望者に国内外を問いませんので、海外のメディアの方もふるって参加してください」

 と岩倉長官は答えた。

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「映像の通り、限定的ですが貴方の存在を公開しました。

 これにより、情勢は大きく変わると思います」

 と雛元さんが言った。


「映像では、って言ってますね」

 と問うと

「貴方の姿が露見すれば、舐められるのは目に見えていますから、貴方の存在をぼかしています。なので、学校の方にも箝口令かんこうれいを出しています」

 と答えた。


「そうですか」


「岩倉長官が、貴方に守護者契約では無く、入庁を求めた理由はわかりますか?」


「いいえ」

 霜月さんも、国防だけなら守護者契約でも問題無いって言ってたな。


「長官は、貴方を国に預ける気は無い様です。

 神城さんがクラスに移動した後、対魔物戦術課たいまものせんじゅつか研究機関思金けんきゅうきかんおもいかねに向けにネットワーク越しで長官の訓示が行われました。その際に『今回守護者になってくれた人物には、守護者契約では無く入庁をして貰い対魔物戦術課たいまものせんじゅつかに所属して貰った。この意義は、この国を食い物にした旧政権では無く我々が新たに築く日本国を護る力で有り、旧政権のシンパに彼の者の力を使わせない為でも有る。我々がこれから築く日本を、彼の者が誇りと思える様にしなければならない。

 その為にも、諸君らの力を我々に貸して欲しい。

 よろしく頼む。』そう言って、頭を下げられたのです。

 我々の様な縦割り組織では、上の立場の者が下の立場に頭を下げて協力依頼をするのは禁忌タブーです。

 その禁忌タブーを犯してでも、貴方が誇りに思える国造りをやろうとしています。

 その心意気だけは、覚えていてください」

 と状況を説明してくれた。


「分かりました。

 でも、上の立場の者が下の立場に頭を下げて協力依頼をするのは、なぜ禁忌タブーなのですか?」


 私の問いに、戸神さんが

「我々や警察、自衛隊を始めとする有事の際に活動する部隊は、有事の際に文字通り死地に入ります。その際、全ての決定権と責任を持つのが指揮官です。

 指揮官の決定が全てで有り、最善であるとしなければ、極限状態を乗り越える事は困難になります。また常に指揮官の決定には従う事を身に着けさせる事で、極限状態でも混乱する事無くスムーズに部隊運用を可能にするのです。

 だからこそ、常日頃から明確な上下関係を築く必要があります。

 弱腰な上司では、極限状態の時に頼りに出来ますか?指示に従えますか?

 余計な混乱は、全滅に繋がります。

 だからこそ、常に上司は偉く無いといけないのです。


 今回の様に『大勢の部下の前で、部下に頭を下げて協力依頼をする』と言うのは、人としてお願いしている反面、弱気な行動として捉えられる事も有る危険な行動とも言えます。


 なので、本来なら頭を下げる必要はなかったのです。

 それでも敢えて頭を下げた長官の心意気を覚えていて欲しいと雛元君は言っているのですよ」

 と答えた。


「そうなんだ。 分かりました」

 組織を運営するって大変なんだなー。


 戸神さんが

「そうそう明日の予定ですが、示威作戦で神城さんが着る服装の試着と破壊砲ブラスターキャノンの試射を行うそうです。

 丸一日それだけで潰れる覚悟をしていてください」

 と言う。


「分かりました」

 と答えると

「寮に着くまで、時間がありますから魔力制御訓練を行いましょう」


 と言う事で、訓練所に着くまで魔力制御訓練を続けました。

 結果は、朝と変わりませんでした。


 夜の自主学習は、昨日の内容にプログラミングの授業が追加されました。

 講師は、小沢おざわ 美羽みうさんです。

 彼女の父親がSEシステム・エンジニアらしく、家でも仕事をしているのを見て、幼き頃からプログラミングに慣れ親しんできたそうだ。

 初回は、プログラミング言語の種類と概要の話で30分が過ぎた。

 プログラミング言語って、200種以上あるって初めて知った。

 主要な言語だけでも15種類位あるし、WEBの画面を作るだけでも2種類以上の言語を使うとか知らなかった。

 しかも、各言語で得手不得手が存在しているから、状況に合わせた言語選択も必要とか、もう選ぶの無理~。

 というわけで美羽さんにお任せすると、どの言語でも基礎の基礎はほとんど変わらないから1言語覚えると、他の言語もある程度理解出来る様になるからあまり問題ないとのこと。なので、美羽さんが得意なC#を学ぶ事になりました。

 美羽さんは、あとデータベースとの連携とかクエリーがどうとかWEBとWebAPIはどうするかなとか言っているけど、何の事か全くわかりません。


 能力アビリティの講習は、昨日に続き記憶力の練習で30分が過ぎ、数学、英語もそれぞれ30分ずつ講義が行われました。


 寝る前に夜のルーチンとストレッチを熟してから寝ました。

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