第56話 破壊砲(1)

 朝5時20分に起きてトイレを済ませ、30分の点呼後にシャワーを浴びに行き、お風呂道具と汚れ物を部屋に片付けてから食堂で朝食後、歯磨きとトイレを済ませるまでが、寮の朝ルーティンとなっている。

 そして、今日は服装が体育服装なので会う人達に「学校は?」と聞かれるので、「追加で検査を受けなくてはいけなくなったので、今日はお休みです。」と答えると「頑張って」と返ってくる。

 6時25分に寮の玄関に行くと、戸神さんが待っていた。

 挨拶を交わして、第三射撃場に移動すると前回と違う実験室に案内された。

 実験室には、「高エネルギー試験室」と書かれている。


 中に入ると、水嶋さんとスタッフの人達が忙しく動き回っていた。

 水嶋さんに挨拶をすると


 水嶋「やあ、おはようございます。

 もう、神城さんが来る時間になってしまったのですね。」


 戸神「その様子だと、徹夜ですか?」


 水嶋「いえ、6時間は寝てますよ。ただ午前3時から作業しているだけです。」


「昨日の夜9時に寝てる?」


 水嶋「その通りですよ。

 一昨日の能力確認後、開発室では24時間4班体勢で解析及び開発を続けています。なので、気にしないでください。」


 戸神「その割には、人が多いと思うのですが。」


 水嶋「それは、最大16時間まで働ける様にしているからですね。

 先に言っておきますが、最初8時間交代の4班体勢だったのですよ。

 でも、8時間では時間が足りないって声が大きくて、実際時間も人でも足りなかったので16時間まで許可を与えました。

 ・・・それだと語弊がありますね。

 今は、最低連続8時間の休息、その内、睡眠時間を4時間以上確保を条件に作業を許可しています。

 平常稼働時は、最低連続12時間の休息と最低週1日と月6日以上の休日を取らせています。


 此処に来る途中、セキュリティゲートが2箇所有ったでしょう。

 何故だと思います。」


「・・・無断侵入しないためですか?」


 水嶋「ある意味正しいです。

 正確には、休憩・休息の為に完全に工廠こうしょうエリアから出るためです。

 でないと、寝落ちしていたから十分休憩が取れたとか、実験場・研究室で寝ていたから働いた時間にならないとか言い張る研究員が多いからです。


 あと、これを守らないと即時3週間の強制休暇を取らせますから、皆休息時間を守っていますよ。」


「休暇が、罰になるのですか?」


 水嶋「我々は、三度の飯より研究が好きな者です。

 文字通り寝食を忘れて研究に没頭できる環境が此処にはあります。

 そして、貴方が沢山の課題を置いていってくれました。

 皆、それはもう嬉々として作業に没頭しています。

 それを、取り上げられたくないので、必死で規則を守りますよ。」


仕事中毒ワークホリック?」


 水嶋「我々は、Workaholicワークホリックでは無く、Work engagementワーク・エンゲージメントだね。」


「??」


 水嶋「全く違う物だよ。

 Workaholicワークホリックは、『I have to work私は働かなければならない

 Work engagementワーク・エンゲージメントは、『I want to work私は働きたい

 気持ちの方向性が真逆なんだ。

 だから、働きたいのに休ませるのは、十分な罰になるんだよ。」


 三上さんが変態集団と呼称し、若桜さんが人間性を放棄していると言った通りかも知れない。


 水嶋「人数は少ないけど、週休2日、労働時間週40時間を守っている研究員も居ますよ。

 そろそろ、本題に戻りましょう。

 神城さんに学校を休んでもらってまで協力依頼したのは、破壊砲ブラスターキャノン榴弾グレネードの検証と示威作戦で使用する神城 優専用破壊砲ブラスターキャノンの試作・動作検証及び作戦時の装備の検証のためです。」


「グレネード?」


 水嶋「先日の破壊砲ブラスターキャノン2丁持ちの際に発現した銃口にエネルギー球を擲弾グレネードと我々は呼んでいます。

 特に2丁の擲弾グレネードが融合したものは、銃口に集積させたエネルギー量に対して、着弾時のエネルギー量が格段に大きく計測されていましたので、是が非でも解明したい現象ですが、まずは再現出来るかを検証がしたいです。もちろん1丁ずつの擲弾グレネードから再現検証です。

 こちらに来てください。」


 水嶋さんについて移動すると、2砲の破壊砲ブラスターキャノンが並んで設置されていた。破壊砲ブラスターキャノンには、沢山のケーブルが着いていて計測機と思われるものに繋がっている。


 水嶋「これは、先日の状態を再現しました。

 使っている破壊砲ブラスターキャノンは、先日使ったものです。

 まずは、これで再現実験を行いましょう。」


 何度か条件を変えての試射で、1丁での擲弾グレネードの発動条件が分かった。

 擲弾グレネードの発動条件は、入力と出力が等しく、圧縮・増幅器の許容値一杯の時に発生が確認出来た。

 1丁での擲弾グレネードの威力は、溜めた量に比例する事も分かった。

 そこから、2丁で同時に擲弾グレネードを発生させる事までは出来たけど、融合はせずむしろ反発する様な現象を見せた。

 さらに、条件を調べる為試行錯誤を繰り返して3時間たったが状況は変わらず。


 水嶋「一旦休憩にしましょう。」

 その言葉を聞いて脱力したら、擲弾グレネードの反応に変化が現れた。

 それまで、反発する反応を示した物が引合い始めたのだ。

 そのまま見ていると、融合し一気に強くなった。


 戸神「トリガーを離してー」

 戸神さんの叫び声で我に返り、トリガーを離すと擲弾グレネードが撃ち出された。

 撃ち出された擲弾グレネードは、まとに着弾後爆発してまとの周囲に張ってある結界を幾つも破壊した。


 水嶋「戸神さん、ありがとうございます。

 もう少しで、多重結界全て破壊されるところでした。

 S3の攻撃にも耐えられる高出力結界が10枚中8枚も壊れました。

 これは、我々の想定を大幅に上回る破壊力です。」

 何故か嬉しそうに話している。


「あの、ごめんなさい。もっと早く離していれば・・・」


 水嶋「何を謝っているのですか?

 被害は一切出ていないでしょう。

 むしろ、謝るなら私の方ですよ。

 擲弾グレネードの融合現象に見惚れて開放時期リリース・タイミングを見失っていました。

 戸神さんが気づいてくれたので難を逃れたのですから、お礼を言うなら彼にでしょう。」


「戸神さん、ありがとうございます。」


 戸神「ああ、気にしないで。

 私もあの現象に見入っていたから、反応が遅れたので同罪ですよ。

 次は、お互いに気をつけましょう。」


「はい」


 水嶋「神城さん、折角なので休憩してください。

 私達は、今の現象と他との違いを探しておきます。

 戸神さん、付き添いお願いします。」


 戸神「では、休憩に行きましょう」

 戸神さんの先導で、地上まで戻ってきた。

 直ぐには、解析も終わらないだろうから長めに休憩を取る事になり、戸神さんが売店のソフトクリームが絶品とオススメしてくれたので地上に戻ってきた。


 売店の前で、氷室さん、雛元さん、山下さんの3人に会った。


 氷室「休憩ですか?」


「はい、そうです。」


 氷室「丁度良かった。休憩しながら書類の確認と記載をお願いします。」


 氷室さん達も加わり、売店の奥のイートインスペースで雛本さんと山下さんに説明されながら、書類を書いています。

 何でも入庁するに当って、必要な書類なんだそうです。

 1時間位掛かって、氷室さん達が持ってきた書類の記入が全て終わると、氷室さんからソフトクリームを貰った。

 私が、ソフトクリームを食べている間に氷室さんが書類のチェックをしていた。

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