第57話 破壊砲(2)

 私が、ソフトクリームを食べ終わると、一緒に実験室に行く事になった。

 実験室に戻ると、水嶋さんと研究員達がホワイトボードに色々と書き込みながら議論していたが、私が戻った事に気づいた様だ。


「おかえりなさい。氷室さん達もいらっしゃい」

 と水嶋さんが声を掛けてきたので

「只今戻りました」

 と応じる。


 氷室さんは

「お邪魔します。進捗はどうですか?」

 と尋ねると

「進捗は、仮説を修正しているところです。

 この後、神城さんに修正した仮説に基づく実験の結果しだいですね」

 と答えた。


「そうですか」

 と氷室さんが返事をすると、水嶋さんは

「早速ですが、実験の続きを始めましょう」

 と言ったので、破壊砲ブラスターキャノンへ歩き出すが、すぐに止められた。


 水嶋さんは

「まずは、魔力弾をあちらのまとに撃ってください」

 と言いながら、水嶋さんが破壊砲ブラスターキャノンの設置してあるまととは別のまとを指定した。


 しかし、私は魔力弾を撃った事が無いので戸神さんの方を見ると、魔力弾の撃ち方教えてくれた。


 教わった通り、右手に魔力を集め珠を作り放つ。

 魔力弾は、まとに当たって砕けた。


「今度は、反対の手で撃ってください」

 と水嶋さんに言われ、左手の魔力弾を放ち、まとに当たって砕けた。


「今度は、両手で同時に撃ってください」

 言われた通り、両手に魔力弾を生成して撃ったが結果は同じ。


 水嶋さんは、研究員達の方に向かって

「測定結果は、どうですか?」

 と聞くと

「仮説通りです」

 と返答が返ってきた。


「そうですか。

 では、次に左手を生成してから右手を生成してみてください」

 と言う水嶋さんの指示通り、左手、右手の順に魔力弾を生成した。


 水嶋さんは

「観測結果を」

 と大声で研究員に尋ねると

「左手の魔力回転方向が反転しました」

 と返事が来た。


「わかりました。

 魔力弾を解除してください。


 そしたら、左手の魔力弾を作った後、魔力の回転方向が変わらないように注意しながら右手に魔力弾を生成してみてください」

 と言われ、左手に魔力弾を生成して、回転方向を気にしながら右手に魔力弾を生成しようとすると上手く生成出来なかったり、右手に意識が行き過ぎて左手がおろそかになったると魔力弾が霧散むさんしてしまったり、回転方向が代わってしまったりと上手くいかない。


 隣で戸神さんも挑戦しているが、あまり上手くいってない様で

「これは、中々難しいですね」

 と言っている。


 二人で試行錯誤していると、三上さんと若桜さんが実験室に入ってきていた。

「水嶋、状況はどうなっている?」

 と三上さんが尋ねると

「主任、偶然1発だけ出ただけで、まだ再現は出来ていません。

 今、再現条件の検証を行っているところです」

 と水嶋さんが返す。


 三上さんは、ニヤリと笑いながら

「ということは、仮説は構築済みという事か」

 と尋ねると、水嶋さんも悪い顔をして

「ええ、その通りです。

 ですが、本人が意図的に再現するのに苦労しています」

 と答える。


「ちなみに何に苦労しているのだ?」

 と三上さんが尋ねると

「回転方向を合わせる様にして両手に魔力弾を生成する事です」

 と水嶋さんが答えた。


 それを聞いた三上さんは

「あー、魔力の回転方向が反転するやつか」

 と言うと、水嶋さんは驚いた様子で

「主任、何が知っているのですか?」

 と尋ねる。


 三上さんは

「ちょっと思い当たる事があるだけだ」

 と軽く答えると、悪戦苦闘している私達に近づいて来る。


 三上「よ、苦戦しているな」


「はい、上手く行きません。」


 三上「横で見ていたから知っている。ちょっと顔を見せてみろ。」

 そう言って、顔を覗き込まれた。


 三上「記憶系の能力訓練をしているな。」


「はい、しています。」


 三上「発動してみてくれ。」


「はい」

 海馬と大脳皮質に魔力を流す。


 三上「ふむ、全体的に悪くないが脳梁のうりょうへの魔力の流れが悪いな。

 若桜、画像を出せるか?」


 若桜「はい、この映像を見て。

 脳の中央にベルト状の物が、脳梁のうりょうで左右の脳を繋いでいるの。

 此処で左右の脳の情報交換が行われているわ。」


 三上「今の状態で、脳梁のうりょうにも魔力を流してみろ。」


 若桜さんが持つタブレットの映像を見ながら、自分の脳の脳梁のうりょうに魔力が流れる様に意識して流すと、急に回りへの知覚が良くなった。

 まるで、霧が晴れたかのように全く別の世界の様に感じる。


 肩をポンと叩かれた

 三上「おめでとう。記憶と魔力感知が発露はつろした。

 さあ、もう一度魔力弾を生成してみなさい。」


「はい」

 今度は、左手の魔力が反転することもなく、スムーズに魔力弾が生成できた。


 水嶋「両手の魔力弾を近づけてください。」


 両手の魔力弾を近づけていくと、お互いに引合い始め一つに融合した。


 水嶋「まとに撃ってください。」


 融合した魔力弾は、まとを破壊することは出来なかったが、今までと比較にならない程の衝撃が生じた。


 三上「出来たな。」


「はい、でもなんで?」


 三上「左右の手を別々に動かす訓練をしたこと無いだろう。

 その為、無理に動かそうとして脳がパニックになっていただけだ。

 だから、脳の情報量が多く流れる様にする事で制御しやすくなっただけさ。

 能力アビリティを覚えたのは、脳の情報量が多くなった事がきっかけだろう。」


 戸神「なるほど、私もやってみますか。」

 戸神さんもあっさりと成功させた。


 水嶋「これで、再現に必要な条件を満たしたはずです。破壊砲ブラスターキャノンで試してください。」


 破壊砲ブラスターキャノンの元に行き、左右の魔力量と回転方向が同じになるようにして引金を絞り、擲弾グレネードを発生させる。

 2つの擲弾グレネードは、反発すること無く融合した。

 水嶋さんの指示で撃ち出した擲弾グレネードは、まとに当たり大爆発した。


 水嶋「再現出来ました。これから、最適な条件の調査と神城さん専用破壊砲ブラスターキャノンの試作機で擲弾グレネードの再現実験を行いましょう。」


 三上「興奮している所悪いが、まず先にやる事がある。」


 水嶋「先にやる事ですか?」


 三上「そうだ、時間を確認しろ。

 もうお昼だ。

 神城の休憩が先だ。」


 水嶋「ああ、もうそんな時間なんですね。お昼にしましょう。」

 何故か物凄く落ち込んでいる。


 三上さんと若桜さんが実験場に来たのは、私の様子見とお昼を誘う為で、水嶋さん達に任せにしておくと昼食抜きに成りかねないからだそうだ。

 氷室さん達も時間には気づいていた様で、切がいいところで止めるつもりだったらしい。


 水嶋「午後の実験の段取りを指示してきますから、先にお昼に行ってください。」

 そう言うと、研究員達の方に歩いて行った。


 食堂に移動して、お昼ごはんを選んで席に着くと霜月さん達も食堂に入ってきた。

 なんやかんやで、それなりに賑やかな昼食に成りました。

 気づいたら、水嶋さんも居ました。


 食べ終わると、霜月さん達は、午後も教導があるので夕方様子を見に来ると言って帰って行き、氷室さん達も書類の処理があるからと言って帰っていきました。

 今は、三上さんと若桜さんに能力アビリティの使い方の講義レクチャーを受けています。

 能力アビリティは、単体だけでなく他の能力アビリティと連携を取る事で、多様な機能や派生能力アビリティが発生するらしい。

 私の場合、記憶+探知系でオートマップになるそうで、探知系に当たるのが広域探知と空間把握なので広域探知の範囲エリア内と空間把握の範囲エリア内は、精度が良い物になっている。

 なので、脳内でストリートビューの様な真似事が出来るのだが、色彩が有るのは自分が直接見た範囲内のみになっていて、それ以外は線だけの表示になっている。他の探知系の能力アビリティを習得したり、能力アビリティが成長すればまた変わるそうだ。

 お昼休み中は、オートマップの発動と使い方だけで終わった。

 他の使い方は、次の機会にとなり、三上さんと若桜さんも仕事に戻った。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る