第58話 破壊砲(3)

 戸神さんと一緒に高エネルギー試験室に戻ると、変な破壊砲ブラスターキャノンまとに向かって設置されていた。

 握り手グリップが一つで砲身が2つ有る物と、3つ有る物が並んでいた。


 私達に気づいた水嶋さんが

「戻ってきましたね。では、午後の実験を始めましょう。

 最初にそこに有る破壊砲ブラスターキャノンを試射してみましょう。

 まずは、2連装砲からお願いします」

 と言って、2連装砲に誘導する。


 2連装砲の前に移動して握り手グリップを右手で握り魔力を流すとそれぞれの砲に魔力が流るのが分かる。

 最初の数発は、普通に撃ってから擲弾グレネードを生成するとある程度の大きさになると融合した。

 水嶋さんの指示にしたかって、魔力量の違う擲弾グレネードを3発程撃った後、同様に3連装砲に移動して同様に撃った。

 なんだか、午前中に成功した擲弾グレネードより弱い。


「連装砲の試験は、これで終わりです。実際に撃ってどうでした?」

 と水嶋さんが問う。

 水嶋さんの後ろに研究員が2人寄って来てメモ用紙を持って私の言葉を待っている。


「午前中に比べて、威力が低い気がします」


「他には何か有りませんか?」


「砲身に、魔力が均等に行っていない感じがしました」


「他には?」


「ありません」


「そうですか。ありがとうございます。

 では、神城さん用の破壊砲ブラスターキャノンの試射を行いましょう」

 そう言うと、直ぐに私を奥に連れて行く。

 メモを取っていた二人の研究員が何が言いたげだった。


「あの人達は、放っといて良いんですか?」

 と問うと

「問題ありません。

 魔力の並列供給で擲弾グレネードの融合現象の確認と、砲頭数の違いによる威力上昇率のデータは取れました。

 次に取組むべきは、融合擲弾グレネードの安定と威力向上でしょう。

 連装砲の試射は、元々計画外です。

 彼らがどうしてもと言うので試射とデータ収集だけを行っただけです。


 あれは、神城さんが融合条件を満たすのに悪党苦戦している最中に、1箇所からの供給で複数に供給が出来れば問題が解決するのではという思いつきで急造されたものですし、神城さん自身が問題を解決した以上、優先順位はかなり下です。


 それに、大型で取廻しが悪くなる連装砲を今度の示威じい作戦に使うには無理があります。

 今開発しなければならないのは、小型で今までと同程度の出力を持ち、融合擲弾グレネードが撃てる短中距離砲です。

 さあ、着きましたよ」

 実験室の一番奥にある射撃場についた。

 ココには、全長1m位の6丁の破壊砲ブラスターキャノンが置かれていた。


 キャスターの着いた移動式の大型ディスプレイを研究員の人が持ってきて、破壊砲ブラスターキャノンの構造図を映した。


 水嶋さんが、ディスプレイの前に立ち

「これから、3組の破壊砲ブラスターキャノンの試射を行ってもらいます。

 簡単に破壊砲ブラスターキャノンの構造を説明します。


 まず、銃把じゅうはに組込まれた魔力吸収装置から畜魔器ちくまきに一度貯めた後、魔力変換装置を使って同一波長・位相・強度の魔力に変換して圧縮共振器に供給します。


 圧縮共振器内で高魔力エネルギーにしてから撃ち出します。


 試作機1は、魔力変換回路を無くして畜魔器ちくまきを介して圧縮共振器に魔力供給します。


 試作機2は、試作機1から畜魔器ちくまきを取り除いた物です。


 試作機3は、試作機2の圧縮共振器を魔力共鳴増幅器に変えた物です。


 魔力共鳴増幅器は、魔力経路そのものを魔力で共振させて増幅する装置で小型で連続増幅が可能なのが利点メリットなのですが、圧縮共振器と比べると増幅率が劣り、魔力使用量も多いのが欠点デメリットです。

 では、試作機1から試射をしてください」

 と言うと、研究員達が一斉に動き出す。


 研究員の人が試作機1を保持器にセットした。

 私は指示通り、普通に左右5発ずつ連射し、左右別々の擲弾グレネードを発生させ5発撃ち、融合擲弾グレネードを5発撃つ。


 試作機2,3でも同じ事を繰り返した。


「3種類撃った感想を教えて下さい」

 と水嶋さんに問われ

「試作機1は、反応が遅いと思いました。

 ワンテンポ遅れる感じです。


 試作機2と3は、融合擲弾グレードを撃つ時以外に差を感じませんでした。

 融合擲弾グレードを撃つ際、試作機2より試作機3がスムーズに魔力を送れました」

 と答えると

「そうですか。

 では試作機3をベースに調整を行いましょう。


 次の調整準備をしている間に、融合擲弾グレネードの発動条件を明確にしましょう。現状把握できている条件項目は、魔力量、波長、位相、回転方向と速度の5種類で、回転方向が同じである必要が判明しているだけです。

 各項目の値を一つずつ変えながら確認していきましょう」

 と言うと、慌ただしく研究員達が破壊砲ブラスターキャノンの設定を行う。


 何度も試射を繰り返した結果、以下の事が分かった。


 発動条件:

 左右で魔力量を変えた場合、発動条件に影響なし。

 左右で波長を変えた場合、左右差が5%を超えると発動しない。

 左右で位相を変えた場合、左右差が5%を超えると発動しない。

 左右で回転速度を変えた場合、左右差が5%を超えると発動しない。


 威力:

 左右の魔力差が5%以内の時、左右の合算値を2乗のエネルギー量になる。

 それ以外の時は、左右の大きい方の値の2乗のエネルギー量になる。

 波長・位相・回転速度の差0.5%毎に出力が2%落ちる。


 位相や波長を変えるのは、片方の試作機に特殊な装置を着けてずらしました。


「融合擲弾グレネードの発生条件は、かなり厳しいものがあるね。

 普通なら、これだけの条件を満たすのは難しいのだけど。

 本当に、貴方の能力には驚かされる。」

 測定結果の報告を聞き、呆れとも感心とも取れるため息を吐きながら、水嶋さんは言った。


 普通なら左右で5%~30%位の差が出るので、相当な訓練が必要になる。

 なのに左右の出力差は、すべての項目で驚きの0.3%未満だったのだ。


 融合擲弾グレネードの発生条件も分かったので、一旦休憩する事になった。

 戸神さんと一緒に地上の売店のイートインスペースで、お茶を飲んで15分程休憩をしてから高エネルギー試験室に戻る。


 実験室には、大量の破壊砲ブラスターキャノンが置かれていた。

「おかえりなさい。

 砲身試験用の破壊砲ブラスターキャノンの準備が出来ましたので、始めましょう。

 この試験は、砲身長・口径が5段階に分かれた25丁の破壊砲ブラスターキャノンを5発ずつ撃ってもらいます。

 何故、この様な事をするかと言うと、砲身が長い方が射程が長くなりますが、威力が下がります。

 口径が大きほうが、威力は高くなりますが減衰が激しいので射程が短くなります。

 なので、丁度良い所を探すために行います。

 それでは、始めてください」

 出迎えた水嶋さんにそう言われ、後はひたすら破壊砲ブラスターキャノンを同容量の魔力で機械的に撃ちまくった。


 25丁の破壊砲ブラスターキャノンを撃ち終わると、水嶋さんが金属板に魔力を流して欲しいと言ってきた。

 魔力吸収装置と魔力動力線に使う導魔合金の選定用データを取りたいそうだ。

 その次に、粘土の塊を左右の手で握らされた。

 これは、銃把じゅうは用の型に使うそうだ。


 今、最終候補用試作機の作成に1時間程掛かるそうだ。

 そんなに早く作れる物なのかと聞いたら

『機能試験用だから既存品をオープンフレームに配置するだけだから早く出来るだけで、示威作戦本番用は突貫で日曜の朝までには完成させる』

 と言い、私に正規配備される物を作成するには最低6ヶ月は掛かると言われた。


 で、空き時間に何をやっているかと言うと、別の実験室で示威作戦で着る戦闘服とバイザー付きヘルメットの試着をしている。

 戦闘服は、今着ている体育服装の上に着るつなぎ状の服で、髪も戦闘服の中に入れる様にして着る。

 それに専用の手袋とブーツを履いて、ヘルメットを被って完成。

 この戦闘服、手袋、ブーツ、ヘルメットは、魔力を通しやすく、防刀防弾性に優れた素材が使われているそうだ。

 ヘルメットには、通信装置が備えられ、バイザーには偏光機能がついていて、周囲の明るさの変動に関係なくハッキリと物が見える上、外部からは顔が見えない様になっている。

 フルフェイスインナーマスクを着けてヘルメットを被っているので、顔は全く分からなくなっている。

 一通り確認が終わったので脱ごうとしたら、そのまま最終候補の試作機を撃って欲しいと言われたので、そのまま高エネルギー試験室に戻る。

 高エネルギー試験室に戻ると、試作機が運び込まれるところだった。

 試作機は3組だった。


「丁度、試作機も運び込まれたので、試射をお願いします」

 と水嶋さんに言われた直後、後ろから太和さんの

「最終候補のテストには、間に合った様だな」

 という声が聞こえたので振り返ると、太和さん、霜月さん、伊坂さん、三上さん、若桜さんが居た。


「それが、示威作戦用の戦闘服なんだ」

 と若桜さんが言うと、三上さんが

「これなら、顔も分からないし、示威作戦時は観覧者との距離もあるから身長から年齢が想定されることもないだろう」

 と感想を述べた。


 伊坂さんが、水嶋さんに

「これから、最終候補のテストなんですよね。

 私達も見学させてください。

 あと、最終候補の性能も教えてください」

 と言うと

「もちろん。構いませんよ。

 これらは、砲身長、口径が違いますが基本性能は同じです。

 計算上の有効射程距離は、点目標で700m、面目標で800mです。

 おそらく、実測ではもう少し下の値になると思います。


 融合擲弾グレードの有効射程距離については、此処での測定データから1,500m~2,000mはあると推測されます。

 サイズが異る物を用意したのは、神城さんの取廻とりまわし具合を確認する為です。

 あと試作機は、魔力変換装置も畜魔器を搭載していません。また、圧縮共振器ではなく自己誘導式の魔力共鳴増幅器を使用しています。

 では、神城さんお願いします」

 と答え、私に試射を指示する。


 太和さんが、「うげ、マジかよ」とか言って驚いているけどどうしてだろう?


 3組の破壊砲ブラスターキャノンを手で持って各組毎に、単発、連射、単独の擲弾グレネード、融合擲弾グレードを5発ずつ撃ちました。

 その様子は、複数のカメラに収められており、この映像を解析して私の身体に適した示威作戦用の破壊砲ブラスターキャノンを作成するそうです。


「霜月君、示威作戦の予行練習の時までに、射撃姿勢を教えてあげて下さい」

 とてもお疲れの様な疲労感たっぷりの声で伊坂さんが指示した。

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