第59話 破壊小銃

「了解しました。訓練に追加します」

 と霜月さんが答えると

「俺や戸神ではなく?」

 太和さんが疑問を口にする。


 戸神さんが、笑いながら

「はは、私達より霜月君の方が一般兵装の扱いが上手いからね」

 と答えた。


 霜月さんが

「まだ30分程時間があるから、射撃姿勢を教えたいからその試作機を借りるぞ。優ちゃんの着ている装備はまだ仮縫だろう?

 装備を返すから脱いでくれ」

 と言うと、水嶋さんが

「試作機は、この砲身が一番短い奴を使ってください。

 自衛隊の小銃アサルトライフルとほぼ同じ大きさです」

 と言って、試作の破壊砲ブラスター・キャノンを手渡した。


 五島さんが台車を持って

「戦闘服とヘルメットは、こちらで預かります」

 と言った。

 台車の上には、私の靴も載っていた。


 戦闘服を脱いで、身軽になると試作機の1丁を手渡された。

 横で霜月さんが見本を見せて私が真似をする。

 それを修正されながら、構えるのを繰り返し行った。


 その様子を見ていた太和さんが

「神城専用の破壊砲ブラスターキャノンは、キャノンと言うより小銃ライフルだよな」

 と言うと、戸神さんも

「そうですね、破壊砲ブラスターキャノンより破壊小銃ブラスターライフルの方がしっくりきますね」

 と同意する。


「その名称いいですね。出来たら融合擲弾グレードにも良い名称を考えてください」

 と水嶋さんが言うと

「そんなにポンポン思いつかねーって」

 と太和さんが返し

「そうですよ。私のネーミングセンスなんて、妻にゴミと酷評されてる位です」

 と戸神が自虐的に返した。


 そんな会話が後ろで行われているが、気にしていられない。

 実際に射撃姿勢(伏射姿勢)からまとに向かって試作機を撃っていたからだ。


 最終試作機を撃っていた時、手で持って撃っていた為、まとに当たったのはほんの数発でしかなかった。

 今の射撃姿勢では、まとを大きく外すこと無いので、4,5発に1回はまとに当っている。


「まず、伏撃ちに慣れたら膝撃ちを覚えてもらう。

 出来たら示威作戦では、膝撃ちで対応したいな」

 と霜月さんが言った。


 時間一杯まで撃ったけど、命中率は変わらなかった。

 霜月さんが、手本として1発撃ったけどとても綺麗な姿勢でまとの中央に当っていました。


「水嶋、優ちゃんの破壊砲ブラスターキャノンは、プルバック方式に出来ないか?」

 と霜月さんが、水嶋さんに言うと

「出来ますが、何故でしょうか?」

 と聞き返す。


「優ちゃんが、リココン出来ると思えなくてな。

 だから、反動の少ないブルパップ方式に出来ないかと思ってな」

 と言うと、納得した様子で

「なるほど、分かりました。検討します」

 と返し

「よろしく頼む」

 と念を押す。


「あの、リココンってなんですか?」

 と問うと

「リココンとは、リコイル制御コントロールの略で、銃器でたまを撃った際に起こる反動で銃口が上を向く現象を抑制する技術の事だ。

 破壊砲ブラスターキャノンでも、実弾より少ないとはいえリコイルは発生する。

 射撃姿勢である程度抑える事が出来るのだが、最終的に筋力に頼る事になる。

 今の優ちゃんだと、身体強化に頼る事になるが制御に不安があるから、破壊砲ブラスターキャノンを破壊してしまう可能性が高い、なのでより反動の少ない物にしてくれと依頼しただけだ」

 と霜月さんが説明してくれた。


 自分の未熟さから自然と

「ごめんなさい」

 と口に出た。


 霜月さんは、微苦笑を浮かべながら

「別に謝ることはない。

 突然隊員になって、何の訓練も無しに火器を扱えと言う方がおかしい。

 扱えなくて当然だ。むしろ、扱える方がおかしい。

 サバイバルケームとかの経験が有っても扱えるものでは無いからな」

 私の頭に手を置いて、そう言った。


「確かに気にする必要はないな。

 そういう配慮は、我々周囲の大人がしなければならない事だ」

 と三上さんが、力強く言った。


 霜月さんが、顔を水嶋さんの方を向けて

「話は変わるが水嶋、これの威力を落とした物は作れないか?」

 と私の頭に乗せた手と反対側の手で、試作機を掲げながら声を掛けた。


「たぶん、出来ると思いますが何に使うのですか?」

 と水嶋さんが、首をかしげながら問う。


「こいつは、アサルトライフル位で使いやすいサイズだから、威力をE1~D1位で調整出来れば、一般隊員でも使える様になると思う」

 と霜月さんが言うと、水嶋さんは難しい顔をしながら

「そこまで威力を抑えて使い物になるのですか?」

 と問う。


「むしろ、一般用途ではその位が丁度いい。

 通常対処しなければならない魔物は、Eランク以下が圧倒的に多い。

 Dランクでも滅多にでない。

 ならば、思い切って威力を下げても使い物になる。

 それに、海外製の魔導銃マナ・ガンはサイズが大きいのに威力が低く連射が出来ない」

 と霜月さんが言うと

「使う人が居るのですか?

 隊員が直接戦闘した方が早いと思いますが」

 と水嶋さんが懐疑的な言葉を返す。


 霜月さんは

「意外と居るぞ。近接戦闘しか出来ない者とか、戦闘系能力アビリティを有していない者とかも結構居るし、突入時に援護射撃が必要な場合も多い。

 特に、実弾が効かない幽霊ゴースト系や不死者アンデット系には特に有効だ」

 と切り返す。


 少し思案した水嶋さんは

「なるほど、強大な魔物対策ばかりに注力していましたが、威力が低くても使い道は多そうですね。

 破壊砲ブラスターキャノン小銃ライフル版の制作依頼も来ていましたが、単に小型化の要望だと思っていましたが、こういう用途に対応するためのものだったのかもしれませんね。

 擲弾グレネード機能を省略オミットすれば燃費も悪くなさそうですね。

 分かりました。

 検討します」

 と快諾した。


擲弾グレネード機能は有効して欲しい。

 制限を設けるなら、擲弾グレネードこもる魔力量の制限か融合を阻害して欲しい」

 と霜月さんが注文をつける。


 少し思案した水嶋さんは

「なるほど、考慮します。

 そうなると引金トリガーは、2段階仕様にした方が良さそうだな。

 1段目で止めると魔力を貯めるチャージして、2段目で撃つと言うのが良さそうだな。2段目で引きっぱなしの時は連射にするのが良さそうですね。

 そうすると切替器セレクターは、切りセーフ単発シングル自動オート擲弾グレネイドの4種類で検討しますか。

 いいアイデアをありがとうございます」

 と言って、いい笑顔になった。


 苦笑している霜月さんが

「それは構わないが、威力も調整可能に出来ればなお良いんだが」

 と言うと

「それは可能ですよ。早速試作機を作ります」

 と水嶋さんが答えた。


 直後

「作らんでいい。

 まずは神城仕様の破壊砲ブラスターキャノンを完成させろ」

 と三上さんの怒声が響いた。


 水嶋さんは、三上さんの怒声も気にした様子無く

「神城さん専用の破壊砲ブラスターキャノンの部品の制作は、既に取り掛かっています。

 破壊小銃ブラスターライフルに必要な部品の基礎研究と設計は、既に終わっている物ばかりなので、神城さん専用の破壊砲ブラスターキャノンの制作にあぶれた者達に廉価版の開発をやらせます。

 外装と配置の設計はこれからですが、破壊小銃ブラスターライフルと共通部分が多くなりそうなので、基本設計を同じにするつもりです。

 なので、問題は何もありません」

 と答えた。


 三上さんは、苦笑いを浮かべ

「ほんと、お前、こういう時だけ手際が良いな」

 と呆れ気味に答えると、水嶋さんは

「お褒めに預かり光栄です」

 とキザったらしく返礼する。


 それを見た三上さんは

「なら、実弾も撃てる機能の追加を検討しろ」

 と追加注文する。


 少し驚いた様子で

「実弾ですか?」

 と水嶋さんが問うと

「そうすれば、一般隊員は小銃ライフル破壊小銃ブラスターライフルの2丁持ちをしなくて済むだろう。

 口径は、5.56mmで頼むぞ」

 と三上さんが設定をする。


 水嶋さんは、唸りながら

「NATO弾仕様ですか・・・かなりの難題ですがやってみましょう。

 破壊小銃ブラスターライフルの後になりますね」

 と答えると

「それで良い。

 まずは神城仕様の破壊砲ブラスターキャノンの完成を最優先させろ」

 と改めて指示する。


 水嶋さんは、安藤さんの方に顔を向けると

「安藤君、この後仕様を纏めるから人を集めていおて。

 デザインの監修は、任せた」

 と指示を出す。


「てっきり、最後まで面倒を見るのかと思った」

 とちょっと驚いた様子で、三上さんが言うと


「出来ればそうしたのですが、19時前には休憩に入らないといけないので、仕様を纏める所まではやりますよ」

 と水嶋さんが答えた。


「そうか、がんばれよ」

 と三上さんが言った。


「では、今日は解散しよう。

 神城さん、ご苦労さまです。戸神君、彼女を寮まで送ってください」

 と伊坂さんが言うと、太和さんが

「ちょっといいか。神城、19時位に時間空いているか?」

 と言った。

 周りの女性陣の視線が太和さんに注がれる。


「はい。空いています」

 と答えると

「じゃあ、19時位に寮に行くから玄関で待っていて欲しい」

 と太和さんが言うと、女性陣の視線と表情が厳しくなった。


 若桜さんが

「太和さん、優ちゃんをナンパですか?」

 と地の底から響くような声で問いかける。


 太和は

「そんな訳ないだろう」

 と即答し

八重花やえかからモデルの報酬の服を預かっているんだ。

 寮に帰って、飯と風呂を済ませた後の時間に空き時間が有るか確認しただけだ。


 秋冬コーデが6着分だ。それなりの量になるから運ぶだけでも大変なんだ。

 そうだ、霜月と若桜も手伝ってくれ。

 俺だと女子寮に入れないから玄関までしか運べない。

 お前達なら神城の部屋まで運べるだろう。

 頼むよ」

 と言った。


 霜月さんは

「良いだろう。

 そういう事なら仕方ない」

 と答え、若桜さんも

「私も手伝うわ」

 と答えた。

 もう二人共、機嫌が直ってる。


 太和さんは、何処かホッとした様子で

「おう、頼むよ。

 そういう訳だから、19時に寮の玄関で待っていてくれ」

 と言った。


 この後、解散して戸神さんに寮まで送って貰いしました。

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