第60話 訓練所女子寮(4)

 寮に帰り、夕食と風呂を済まして普段なら寝巻きを着る所を、太和さん達に見られても恥ずかしくない室内着に着替えると、周りの女性陣から『どうしたのか』と聞かれたので、『この後、太和さんが、以前やったモデル料の服を持ってくるので受け取りをする』と答えるとざわつき始めた。


『太和教導官が持ってくるって事は、アパレルショプ ヤエの服よね。』

『あそこの服って、丈夫でデザインも良いんだけど、ちょっと値段が高いのがね。』

『部隊の売店とかでも扱っているけど、種類が無いのがね。』

『そうそう、部隊の売店でも種類を増やしてくれると嬉しいのだけど。』

 そんな会話が聞こえてきたが、洗濯機を回す為、脱衣所を出た。

 

 洗濯機を回し、洗濯物を取り込んで荷物を部屋の置いたら、丁度良い時間になったので寮の玄関に向かうと既に太和さん達が居たのだが、護衛役の女性陣全員と見知らぬ女の子が1人居た。

 しかも、私が思っていたよりも沢山の荷物を抱えていた。

 一番多く持っていたのは太和さんだったが、他の人達もそれなりの量の荷物を持っていた。


 霜月さんが、女の子を私の元に連れてきた。

 娘さんかな?

 何となく、霜月さんの面影が有るし、舞より背が高くスラっとしていた。


 霜月「優ちゃん、紹介しよう。私の娘の雪香せつかだ。」

 雪香「はじめまして、霜月 雪香です。」


「はじめまして、神城 優です。」

 上がりかまちに居る私より、土間に居る雪香さんを見上げながら、挨拶を交わした。


『表情が緩んだ?』と、思ったら抱きかかえられていた。


 雪香「なにこれー。かわいいー。」


 雪香さんに抱き上げられて、頬をスリスリされている。

 腕の外側から身体を押し付けるようにして抱き上げられているので、当然手は使えないし、足も宙に浮いているので踏ん張りも効かない。

 身体を揺さぶれているので、足場も出せない。


 霜月「こら、雪香。優ちゃんを解放しなさい。」


 霜月さんが、怒鳴っているが聞こえていないみたいだ。

 しっかりと保持されているので、逃げられない。


 霜月「そろそろ、優ちゃんを離しなさい。」

 私に頬ずりするのに夢中になっている。


 霜月「いいかげんにしなさい。」

 その言葉と共に拳骨が落とされ、ゴンと鈍い音と共に解放された。


 霜月「この馬鹿娘が。優ちゃん済まなかった。」

 霜月さんが謝っている下で、雪香さんは頭を抑えて蹲っている。


 雪香「いったー。何をするのよお母さん。」


 霜月「大人しくする様に、事前に言ったろう。

 なのに、優ちゃんを前にして衝動を抑えられずに襲ってどうする。」


 雪香「だって、こんな可愛い娘を前にして可愛がらない方が可笑しいよ。」


 霜月「優ちゃんは、雪香の1つ年上の15歳だぞ。」

 

 雪香「えー、私より年上? てっきり10歳位だと思った。

 どう見ても、私より年下にしか見えない。」


 大声で叫んだのを見た霜月さんは、再び拳骨が落をおした。

 雪香さんは、再び頭を押さえてうずくまっている

 霜月「かさがさね、すまない。」


「いえ、大丈夫です。

 それに、こういう対応にも大分慣れました。」

 ちょっと、遠い目になったのは勘弁して欲しい。

 しかし、妹の舞と同い年か。


 太和「神城、ちょっと良いか?」


「何でしょう」


 太和「現品確認を行うから、確認を頼む。」

 霜月さん母娘との遣取やりとりの間に、寮の玄関ホールに荷物を置き、仕分けを終わらせていたようだ。

 太和さんと一緒に、現品票と衣装箱を一つずつ確認していく。


 太和「現品確認は、これで終わりだ。

 あと、此処に受け取りのサインを書いてくれ。」


 受領確認のサインを書くと、納品書と納品明細書を渡された。


 太和「確かに、モデル料の服は渡したからな。

 もし、不備があれば言ってくれ。

 じゃあ、俺は此処までだ。後を任せた。」

 そう言うと太和さんは帰っていった。


 玄関ホールには、衣装箱が20箱以上ある。

 さて、どうしたものか。


 氷室「さて、そこに隠れている候補生達も優ちゃんの服を運ぶのを手伝ってくれますよね。」


 氷室さんの言葉で、後ろを振り返ると候補生の皆さんがぞろぞろと出てきた。

 全く気づかなかったので、私の探知エリア外に居たのかな?


 氷室「それでは、洋服の組合せを間違えない様に気をつけて談話室に運んでください。」


 一斉に衣装箱に向い、直ぐに玄関ホールから箱の山は消えた。


 氷室「さあ、私達も移動しますよ。」

 肩を掴まれて、押ながら談話室に移動する事になった。

 なぜ談話室?


 談話室に移動すると寮母さんを含めた女性陣が全員集合していた。

 若桜「さあ、優ちゃん。試着しましょう。

 不備がないかの確認と、ヤエがどの様なコーディネートをしたか気になるし。」


「え、モデルの時に着た服の一部が報酬だと思っていたのですが。」


 若桜「ヤエがそんな手抜きするはず無いよ。

 優ちゃん専用に見立て直しているはずだから、違うはずだよ。

 それに、太和さんが何も言わず、箱も開けずに預けていったのは、開封と試着を私達に任せたからよ。さあ、お着替えしましょう。」


 氷室「それでは、着付け補助の割振りはホワイトボードに書いた通りでお願いします。最初の衣装担当と神城さんは、こちらに来てください。」


 なんとなく納得がいかないけど、このメンツに口で敵うと思わないからあきらめる事にした。

 ここからは、着せ替え人形になりました。

 服を着せられて、ポーズと取ったりターンしたりして、その様子を写真に撮られてました。

 たった6着だけだったのに、たっぷり1時間掛かりました。


 室内着に着替えて、私は洗濯物を干しに、若桜さん、霜月さん母娘は、休憩用の飲み物を買いに談話室を出ました。

 洗濯かごを部屋に置いて談話室に戻ると、上映会の準備をしていた。

 問答無用で飲み物を貰い、指定された席に着くと上映会が始まった。


「え、これって?」


 氷室「この間のモデルの写真集というより、プロモーション・ビデオですね。

 今日、完成したと連絡があったので貰ってきました。

 折角なので、皆で鑑賞しましょう。」


 ワンショット写真をスライドショーの様に切り替えるだけでなく、全周囲から撮った映像を連続・断続的に切替えながら躍動感を出したり、動画を間に挟んだりしながら、軽快な音楽と共に映像が流る。

 背景は合成されていて、シーンに合った物が選ばれている。


 服も可愛く、モデルに良く似合っている。

 背景も、音楽も良い。

 モデルの表情も蠱惑的で、惹きつけられる。


 非常に良くてきていると思う。

 いや、素晴らしい出来だと思う。


 これが、自分が主演でなければ絶賛していたと思うが、恥ずかしすぎて真面まともに見れない。

 私、あんな表情していたんだ。

 酷く赤面しているのが分かる。


 最近は、自分の体に慣れてきたつもりだったけど、映像で改めて自身を見ると頭が沸騰して何も考えられなくなった。


 気づくと、映像は終わっていて皆が私を見ている。

 そう、見られている。

 そう思ったら、頭が真っ白になって固まってしまった。


 若桜「おーい、優ちゃん」

 優ちゃんの顔の前で手を振ってみるけど、反応がない。


 若桜「反応が無いね。意識飛ばしちゃったみたい。」


 陽葵「あの、ちょっと良いでしょうか?」


 若桜「えーと、水谷さんだっけ? なに?」


 陽葵「優ちゃんって、今まで客観的に自分を見た事無いんですよ。」


 若桜「あら、そうなの?」


 陽葵「ええ、普段の様子から見て、意識しない様にしてますね。

 それで、今回映像で客観的に自分を観たことで、人からどの様に見られているか分かって、恥ずかしさで頭がパンクしているのでは無いでしょうか。

 それに彼女は、男女の心理も理解出来る立場ですから余計に。」


 若桜「そっか、女性として生きる覚悟は出来ても、まだ自身の事を受け入れきれてなかったのね。ま、しばらくしたら戻ってくるでしょう。」


 しばらくして、再起動した私をまだ皆が見ていたので、思わず両手で顔を隠して

「お願い、見ないで。恥ずかしい。」


 霜月「何が恥ずかしいのかな?」


「だって、あんな表情を見せてたかと思うと、恥ずかしくて。」


 雪香「なにも恥ずかしい所なかったよ。むしろ、可愛かったし。」


「え、だって、あんな媚びるような表情してるなんて思って無くて・・・」


 雪香「故意にやって居なんでしょ、だったら気にすること無いよ。

 気にしたら負けだから、気にしない気にしない。」


「気にするよ。」


 雪香「かわいいは正義だ! 気にする必要は無い。」

 その言葉に、周りはうなずいている。


 霜月「それだと、慰めにもなっていないだろうが。

 これまでの行動が恥ずかしいのなら、これから改めれば良いだろう。

 やってしまった事をいるより、反省して次にかす方が重要だ。

 まず、優ちゃんの場合、自分が他の人からどの様に見られているかをもっと知る事から始めよう。

 正直、色々と無防備すぎて心配なんだ。」


「ごめんなさい」


 霜月「別に謝る必要は無い。これから、気をつければ良い話だ。」

 そう言って、頭を撫でてくれた。


 芽依「なんか、母娘って感じっすね。」

 周りもうなずいている。


 雪香「お母さんの対応が、私と全然違う!!」


 霜月「当たり前でしょう。優ちゃんは、言えばきちんと理解しようと努力するし、注意すれば修正もする。

 一方、雪香は、人の話も聞かずに突っ走るし、注意しても聞かない。

 止めるには、力ずくしか方法が無い。

 本当に、誰に似たのかしら。」


 雪香「そこはお父さん似だね。

 お父さん、お母さんに一目惚れして、初デートに漕ぎ着けるまでに30回以上、アタックしたとか言ってたし。」


 霜月「あの人は、娘に何を教えているのかしら。」

 静かに怒りを貯めているようだ。

 さらに雪香さんが言いつのろうとした次に瞬間、拳骨が雪香さんに落ちた。


 霜月「全く、あの人と一緒で一切空気を読まないんだから。

 思ったことを直ぐに行動に移せるのは、貴方の長所であり短所だって何度も教えているでしょう。

 自分の行動の是非を、考えてから行動なさいと口を酸っぱくして言っているのに、全く学ばいんだから。」

 あきれと共に深い溜息をついた。


「あの、大丈夫なんですか?」

 足元で、頭を抑えて転がっている。


 霜月「大丈夫よ。いつものことだから。

 それより、そろそろ良い時間だから解散しましょう。」


 時間を確認すると、21時40分を回っていた。

 今日は、このまま解散する事になり、私の服は取り敢えず、談話室で保管する事になった。

 私は、明日からの準備をしてから寝る準備をして寝ました。

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