第61話 文化祭

 今日は文化祭当日の朝、いつも通りに目覚めて朝のルーティンをこなしてから玄関に行く。

 普段と違うのは、数日分の着替えを持っていく事ぐらいだ。

 迎えに来ていた戸神さんと一緒に寮を出て学校に向かう。

 普段通りに学校に着き、始業時間まで訓練をしてから教室に向かう。


 朝のホームルームで山並やまなみ先生から注意事項を聞いてから、一番最初に店番を担当する生徒達が着替えている間に、他の生徒達で喫茶店の開店準備を始める。

 男子生徒達が、ケーキと飲み物を保管する冷蔵庫とお店から届いたケーキの入ったコンテナや飲み物を控えの教室に運ぶ間に、女子生徒達が紙皿、紙コップ、プラスティック製ホーク、お盆等を教室で直ぐに使う分と控えの教室に分けて運び、客席のテーブルにテーブルクロスを掛けていく。

 ケーキの入ったコンテナ(30個入)は、必要に応じて控えの教室から1枚ずつ運んで来る事になっている。


 教室の準備が大体終わった頃に、着替えに行っていた生徒が戻って来る。

 その姿は、キグルミのピカ○ュウ、猿、NINJA、セーラー戦士、Mのマークの某ファーストフード店のキャラ、おヒゲの土管工、ナース、フ○ーザ様?、あと何のコスプレか全く分からないモノまで居る。

 始まる前から、混沌としている。

 これ、学校の予算だと購入出来ないだろうから、個人の持ち込み?

 一応、肌の露出が激しいものはありません。


 担当の生徒達が戻ってきたので、他の生徒達は思い思いに校内に散っていった。

 私も同じ時間帯担当の三島さん達4人と一緒に校内を周る事になっているが、その前に三島さん達を連れて待機室に戻り、護衛官の雛元さんを加えてから校内を巡る。


 流石に、外部から人が入ってくる文化祭で、私一人で行動させるのはダメだと言われ、女子生徒達の中に男性護衛官の戸神さんが居ると不自然すぎると言う事で、雛元さんが一緒に周る事になった。


 あと、今日の担当護衛官以外の6人も合流して警備に当たるそうだ。


 校内を巡っていると、やはり物珍しいのか私は注目の的になっていた。

 各教室を見て回ると、やはり準備期間が短いため壁新聞的な発表が多いが、お化け屋敷や漫才等を披露している教室も有った。

 吹奏楽部は、午前と午後に1回ずつ演奏会を行う。

 手芸部は、午前中に自作衣装のファッションショーと作品展示を行っていた。

 他の文化部は、作品展示のみだった。

 運動部は、今年の実績のパネル展示のみだった。


 こうやって見てみると、うちの学校の文化祭は地味だよね。

 その事を一緒に回っている人達に言うと、文化祭実行委員の望月さんが事情を説明してくれた。

 9月初頭に行われた文化祭実行委員の初回会合の冒頭で、担当教師から説明された内容によると、「昔は、もっと自由で生徒の自主性を重んじる文化祭を行って、出し物も各クラス、各部活で嗜好しこうを凝らしたものを出していたそうだ。

 準備期間は2週間で、午前中授業で午後は文化祭の準備時間になっていたのだが、授業を抜け出して文化祭の準備をする生徒が後を絶たず、生徒の成績が悪化したそうだ。

 他にも、クラスの出し物が重なったクラスの生徒同士が喧嘩したり、模擬店で賭事をやっていた事も有ったそうだ。

 食べ物を扱う模擬店では、大量に食材を余らせて困ったり、ボヤや火傷等の事故が続いた上、食品衛生管理がしっかり出来ていなくて食中毒事故を起こしたそうだ。

 そう言った先輩達のやらかしの為、準備期間の短縮と食品を扱う模擬店の限定及び生徒による調理が不可になった上、チケット制になった。」そうだ。

 だから、準備期間の延長も模擬店の増加も認められないと釘を刺されると、当然「自分達は、先輩と違う」と反発する生徒も出て、暴言を吐いた生徒も居たが、担当教師は「この条件で開催出来ないというなら、今年の文化祭は中止にする。」と言って出て行ってしまった。

 実際、2回目、3回目の文化祭実行委員の会合は行われること無く、文化祭中止の噂も出ていた。

 その後、反発していた生徒と暴言を吐いた生徒が担当教師に謝りに行った事で、開催出来る事になったそうだ。

 あと、別口で他の先生から、今回の中止を切掛に文化祭そのものを辞めようと職員会議に掛けている最中だった言う話も聞いたそうだ。


 「それって、この条件でしか文化祭を開催出来ないという取り決めが行われているから、変更は出来ないって事なのかも」そう呟くと、釈然としないけど納得していた。

 それでも、もう少し緩和してくれてもという愚痴も多かったが、雛元さんが「そういう交渉が出来ない程、派手な事をやらかしていますからね。」という返答が帰ってきた。


 「詳細を知っているのですか?」


 雛元「ええ。この学校の文化祭形態がちょっと変わっていたので調べましたよ。

 そしたら、住民を巻き込んだ大乱闘にバカラ賭博、1,000人を超える規模での食中毒事故等々で警察沙汰になった上、全国ニュースにもなっています。

 時が経って生徒が変わっても、この地に長年住んでいる人は覚えているでしょうから警戒を解いていないでしょう。

 正直、まだ文化祭を開催できている方に驚きです。

 相当、先生方の尽力もあって開催できていると思った方が良いです。」


 私達は、言葉をなくした。

 先輩達、やらかしすぎー。


 舞のクラスに立ち寄った時、死角から抱きついてきたが事前に感知出来ていたので、避けたらそのまま床にダイブした。

 顔を床にぶつけたみたいで、顔を押さえて床を転がっている。

 暫くすると、起き上がってきて「なんで避けるのよ」と文句を言ってきたので、「寒気を感じたから思わず避けただけ」と答えると「ぐぬぬ」と唸っていた。


 舞のクラスでも、模擬店を引き当てていたので、チケットを取出して、チョコバナナと交換して、教室を出ようとすると舞に引き止められた。

 お母さんが、私の分のお弁当を作ってくれていて、それを預かっている言うので

 私の分のお母さんのお弁当を受け取った。


 その後も、各所を回ってから早めにお昼を食べて、三島さん達と別れて篠原さんと雛元さんと一緒に手芸部の部室に行くと、部員の方々が全員待機していた。

 雛元さんが見守る中、ドレスが着付けられていく。


 最後にティアラを頭に載せたら、夢の国に出てくるお姫様みたいになりました。

 教室に移動しようとすると、雛元さんに止められた。

 雛元さんは、何処かに連絡をすると植松さんと望月さんが飛んできた。


 それから軽く化粧をされ、カーテシーと挨拶や受け答えの練習をさせられた。


 控えの教室に篠原さん、雛元さんと共に戻ってきたのだが、教室に入ると私を見たクラスメイトから喝采かっさいを浴びた。

 控えの教室に居る午後担当の生徒達(フロア係)の面々の仮装は、ピンクの豚、ピクトグラム、スーパー戦隊のレッド風(章)、プ○キュア風、吸血鬼(零士)、赤い彗星の人、ウ○娘(篠原)、麦わらの海賊に出ている女帝様、相変わらず混沌としている。

 ちなみに厨房係の生徒は制服にエプロンをしている。


 当番の交代の為、全員で移動して教室に移動した。

 持ち場の教室前に立つと、お客さんだけでなくクラスメイトも私と一緒に写真を撮りたがった。

 特に小さい子供や女性陣には、大好評で終始囲まれてしまった。

 そんな中やってきた家族の様子は、父さんは呆然と眺め、母さんと舞は抱きついてきた。その後、家族揃って写真を撮った後、中に入ろうとした所で雪香さんに抱きつかれた。


 霜月「雪香、やめなさい。」

 霜月さんの声が聞こえたら、離してもらえた。


 霜月さん母娘と挨拶を交わして、記念写真を撮ってから中に入っていった。

 教室の中で、うちの両親と合流してなにやら話し始めたようだ。

 私は、次々来るちびっこに捕まって、マスコットキャラクター化していた。

 ただ気になるのが、私が担当を交代してから少しして、私の感知範囲エリアギリギリに何度も現れる人が居る事だ。

 私が視線を送れば居なくなるが、暫くすると戻って来る。

 魔力の感じから同一人物だと思う。

 しかも、感知できる魔力の感じから良くない感じがする。

 どこかのタイミングで、護衛官の人と相談したいな。


 そう思っていると、氷室さんが訪れた。

 私と触れ合いをしている振りをしながら耳元で、「貴方を見ている不審者は、こちらで対応しますので、気にしないでください。」と言葉を残して教室に入っていった。

 それと入れ違いに、家族と霜月さん母娘が出てきた。

 雪香さんと舞が意気投合していて、二人で文化祭を周る様だ。


 しばらくしたら、不審者は現れなくなったので対応してくれたのだろう。

 後は、女子寮の皆も来ていて、入れ替わりで喫茶店に足を運んでくれた。

 私は、文化祭の終了時間までマスコットとして、子供達との触れ合いを続ける事になったが平穏だった。

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