第147話 宿泊棟の大掃除(5)

「昨日、説明した治療内容をきちんと理解してませんね。

 何をどう解釈したら、弱くなるとおもったのですか?」


「体が回復したら、2つある魔力塊マナ・コアを一つに統合するために同じ大きさにするんでしょ。

 私の場合、主がC7で副がA2なんでしょ。

 だったら、主が副に合わせられないから、副を主に合わせて小さくするんだよね?」


「私は、主と副の魔力を均衡きんこうさせますと言いましたが、片方の魔力を縮小させるとは言ってません。

 それに、平田さんの魔力塊マナ・コアの総魔力量を減らすなんて一言も言ってません。

 そもそも、そんな危険な事やりません」


「へ、ど、どういう事?」


「ランクA2からC2まで魔力放出したら、どれだけ魔物が寄ってくると思っているんですか?

 魔力を放出して、魔物を集める技能スキルタウンテイングと同じ事です。

 それに、一度大きくなった魔力塊マナ・コアの魔力放出して一時的に小さく出来ても、総容量自体は減りません。

 数日で元に戻りますよ。

 現状、魔力塊マナ・コアの容量自体を小さくする方法は、存在しません」


「えーと、どういう事?」

 酷く困惑している。


「平田さん。

 貴方の治療方針をもう一度説明します。

 まず、肉体が完治するまで安静してください。

 特に魔力の使用は、絶対に行わないで下さい。

 治療期間が伸びるだけでなく、最悪能力アビリティの総封印と魔力塊マナ・コアの弱体化処理を行わないといけない事態になりかねません。

 この処置は、命の危険が伴う上、一度封印したら二度と能力アビリティが使えなくなります。


 肉体が完治したら次の処置として、主と副に別れた魔力塊マナ・コアの均衡を取ります。

 均衡の取り方は、副の魔力を主に徐々に移動させます。

 この処置なら、総魔力容量に変化が起こらないため、問題が発生しないはずです。

 最終的に主側をランクA1相当まで大きくします。

 この処置が始まった時点で、狂戦士バーサーカー能力アビリティを封印します。


 魔力塊マナ・コアの主と副の均衡が取れたら、主が副を取り込む様にして統合させます。

 魔力塊マナ・コアの統合が完了したら、狂戦士バーサーカー能力アビリティを消去します。


 この処置で、貴方の弱体化要因は何かありましたか?」


「えーと、普段使える魔力容量が増えて、狂戦士バーサーカー能力アビリティを失うって事だよね。

 狂戦士バーサーカー能力アビリティを失う分弱体化してる?」


「その通りですが、魔力が一気にランクAまで魔力が増えます。

 そこまで強くなれるのに狂戦士バーサーカー能力アビリティが必要ですか?

 むしろランクAが暴走する方が迷惑です」


「あ、言われればそうかも」

 と言って後頭部を掻きながらアハハと笑っている。


「そもそも、根本原因を勘違いしていませんか?」


「「根本原因?」」


「そうです。

 根本原因は、魔力塊マナ・コアの異形が原因です。

 魔力塊マナ・コアが2つあるのではなく、異形成長したために連星の様な形になってしまっただけです。

 そして、この連星の様な魔力塊マナ・コアを繋ぐ部分が細すぎる事と度重なる過負荷により損傷が酷い事です。

 この連結部分から魔力塊崩壊マナ・コア ブレイクダウンを起こし掛けていたのです。

 この連結部から、別れた魔力塊マナ・コア部分を取り除けば良いと思いますが、切除された魔力塊マナ・コアは、確実に魔力塊崩壊マナ・コア ブレイクダウンを起こします。

 また、別れた魔力塊マナ・コアを封印しても、主魔力塊マナ・コアが活動している以上、封印下で魔力が圧縮される可能性が高い。

 圧縮された魔力が封印を破り、魔力塊崩壊マナ・コア ブレイクダウンを起こす可能性が高い。

 なので治療方法として、分割や封印はありえません。


 治療方法は魔力塊マナ・コアの再形成の一択です」


 高月さんから「じゃあ、なんで段階を踏むの?」という疑問がでた。


「それは、平田さんの魔力塊マナ・コアの容量差が大きいからです。

 現状で統合した場合、平田さんの精神がもちません。

 実際、狂戦士バーサーカー状態の時、人格が変わっていたでしょう。

 アレは能力アビリティの影響による凶暴化と魔力酔いに依って引き起こされていたと思われます。

 細い連結部から溢れる魔力でこの状態です。

 なら、一気に大量の魔力で満たした場合、精神が保つとは思えません。

 実行したら、発狂するか壊れるかすると思います」


「なるほど」


「次の段階に移ったら、徹底的に魔力制御を鍛えてもらいます。

 なので、今は体を休めて下さい」


 平田さんは、渋々と言った感じで「わかりました」と返事を返した。


「本当なら、お茶とか出したい所なんですが、何も準備が出来ていません」


「まあ、それは仕方ないね。

 私達も、そこまで気が回ってなかったわ。

 ところで、南が入る部屋も掃除は終わっているの?」


「終わっていますよ。

 部屋だけでなく、水回りもきちんと清掃しているので大丈夫です。

 ただ、まだ家具等が無いので部屋だけです」


「家具等が無い?

 一応、ボロだけど家具が設置されていたはずだけど?」


「ええ、ボロすぎて使えませんでした。

 今、買い出しに出ています」


「ちょっと、その買い出しに副隊長が出てる?」

 平田さんがキョッとし、高月さんがかなり焦った様にして聞いてきた。


「買い出しは、久喜さんにお願いしています。

 久喜さんにお願いして、奥さんにも買い出しを手伝って貰っているので大丈夫だと思います」


「神城さん。Good Job。

 由寿ゆずさんが選ぶなら間違いない。

 副隊長が買い出しに行っていたら、絶対大惨事になってた」


「そんなに俺は信用できないか?」

 大広間の入り口に立った山本さんが憮然として言い放った。


「当然。

 あんた、南の事となると暴走するもの。

 ベットとかもダブルベットとか買ってきそうだもの」


「う、周りからの俺の評価ってそんなんなんだ」


「吾郎、そんなの今更だろう」

 山本さんに続いて大広間に入ってきた伊坂さんの言葉に頭を垂れ、落ち込む山本さん。

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