第148話 宿泊棟の大掃除(6)

「久喜は、まだ戻ってきて無いみたいだな」


「ええ、まだ戻ってきていません」


「そうか、取り敢えず飲み物買ってきたら休憩しよう。

 久喜達が戻って来ないと何も出来ないしな」

 伊坂さんは、缶ジュースの入った袋をこちらに見せた。


 伊坂さんに続いて、田中さんと都竹さんも入ってきた。


 高月さんが興味津々と言わんばかりに

「隊長、その子達は?」


「神城さんの友達だ。掃除を手伝ってくれたんだ」


「副隊長がナンパした訳では無いのね」


「失礼な、俺を何だと思ってる」


「チャラ男」と一言で切って捨てた。


「おい」

 そう言いながらも、ちゃっかり平田さんの横に座った。


「そう言われるのが嫌なら、普段の言動を改めなさいよ」

 平田さんの一言に酷くショックを受けた様で、山本さんは「善処します」と返していた。


 全員が思い思いの場所に座ってジュースを飲み、雑談をして休憩していると久喜さん達が帰って来た。

 一緒に行った土田さんと鳥栖さんは、5歳位の女の子と手を繋いで部屋に入り、久喜さんがジュース類の飲み物がが入ったダンボール箱を持ち込み、奥さんが某ドーナツチェーンのドーナツの箱8箱とその他お菓子を持って来た。

 一緒に着いて来た女の子は、久喜さんの娘さんでめぐみちゃんと言う。


 そのまま、おやつ休憩に突入する事となった。

 早速、オヤツの準備を始めると、由寿さんから

「気を使わせてごめんなさい」

 と謝罪が来た。


「気にしないで下さい」

 と返すと

「私も夫も、差し入れの事をすっかり失念していて、あの娘達が荷物の積み込み中に抜け出して買ってきたのよ。

 しかも、最初から貴方の指示で、私と娘の分も考慮して買ってきたって言うから、荷物の積み込みが終わったら別れて帰るつもりだったのだけど、こちらにお邪魔する事にしたの」


「そうなんですか」


「ええ、そうよ。

 それに、恵ったら、土田さんと鳥栖さんの事気に入っちゃって、なかなか離れたがらなくて、駄々をこねちゃって困っていたの。

 だから、お邪魔しちゃってごめんなさいね」


「大丈夫です。気にしていませんから」


「ところで、神城さん。

 貴方、ドーナツが好きなの?」


「はい?」


「だって、人数分以上のドーナツを買ってこさせたのだから、好きなのかなと思って」


「いえ、あの二人には、20人前位の量のオヤツと飲み物等を依頼しただけです。

 特に種類を指定していません」


「あら、そーなの」


「土田さんと鳥栖さんに聞きたいのですが、良いですか?」

 恵ちゃんの相手をしている二人に声を掛けた。


 土田「ん、なに?」

 鳥栖「どうかした?」


「オヤツが大量のドーナツになったのは何故ですか?」


 土田さんが、恵ちゃんの方に顔を向けたまま

「ああ、それは、恵ちゃんにオヤツは何が食べたいか聞いたら、ドーナツと返答がきたから」


 鳥栖さんが続ける

「実際に、ドーナツを見に行ったら、色んな種類があるでしょ、どれにしようか悩んでいたら、全種類食べたくなってね」


 土田さんが、勢いよく

「それならいっそ、ドーナツパーティにしちゃえって事で大量に買ってきました」


「そうなんだ。まあ、良いけど。

 多分、これ、食べきれないよ」


 私が、脱力して答えると田中さんが、

「え、一人5~6個は平気で食べれるよね」


「ん?そうなの?」

 周りを見回すと、私を除く女性陣は当然という顔をしており、男性陣は苦笑いをしている。


 オヤツタイムが始まると、男性陣は少し離れた所に逃げた。

 女性陣の会話に巻き込まれたく無かったのだろう。


 実際、会話の内容の殆どが分からなかった。

 話を振られても「わからない」としか回答出来ない事が多々あった。

 そして、私と同じ様な回答していたのが平田さんだった。


 それを見て、高月さんは土田さん達に

「隔離保護経験者って、隔離の反動で流行を追っかける人と、興味を完全に失う人に分かれる事が多いんだけど、あの2人は後者ね。

 しかも後者の場合、恋愛にも興味がなくなっているから、異性の好意も気づかない事が多いのよ」


 土田さんが興味津々と言わんばかりに

「じゃあ、恋愛話を振っても、本人はわからないって事なんですか?」


「少なくとも南を見ている範囲だと、異性からのアプローチだと認識していないわね。

 遠回しに告白されたら全く気づいていなかったし、直接告白されても冗談位にしか思っていなかったわ。

 そうやって、自然に振りまくっていたわね」


「玉砕した男性隊員達もかなり居たわよ。

 未だに諦めていないのは、山本君位かしら。

 南ちゃんは、山本君の本気度も理解出来てないみたいよ」


 由寿さんの追加情報に対して

「そうなんだ。神城さんも、同じ事しそう」


 そんな会話の横で平田さんに

「なんで、他人の色恋沙汰で盛り上がれるのでしょう?」

 と問えば


「さっぱり、分かりません」

 と返って来た。


「うん、私もさっぱり分かりません」

 と返し2人して頷くしかなかった。


 結局ドーナツは、私と恵ちゃんと男性陣が2個

 その他の女性陣は、一人6個は食べていた。


 オヤツが終わったら、買ってきた物を運び入れ、組立・配置を行う。

 伊坂さん達男性陣がダブルキャブトラックから荷物を下ろして2階まで運ぶ。

 女性陣で2階の1室を使って開梱・組立を行い、平田さんの部屋に運び込んで配置する。


 全員で行ったので、1時間と掛からず終わった。

 部屋は、落ち着いた色合いの家具でシンプルに纏められている。

 部屋全体に絨毯を敷いたので土足厳禁だ。

 部屋の外への移動用のサンダルやトイレ用のサンダル等も準備済みなので問題ない。


 簡単な調理が可能なようにIHコンロも用意してある。

 こちらは、1・2階の給湯室にそれぞれ設置した。


 冷蔵庫は、平田さんの部屋に90Lの物を設置し、250Lの物を1階の給湯室に設置した。


 洗濯機は、2階の水場の洗濯機置場に設置した。

 洗剤と柔軟剤も購入したので、取り敢えず洗濯は出来る様になっている。


 平田さんが持ち込んだパソコンとスマホは、訓練校のネットワークに問題無く接続出来た。


 あと、平田さんの部屋以外に、1階と2階にそれぞれベットを2台ずつ設置し、未開封の寝具も置いた。

 今のところ、護衛役の人の夜勤当直の予定は無いが、夜勤が必要になった時に備えて準備した。

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