第219話 休日のお出かけ(3)

 若菜さんは

「じゃあ、そちらの4人が、装備品を買うのね。

 今持ってくるわ」

 と言って、田中さん達を上から下まで舐めるように見てから奥に戻っていた。


 お店の奥から、なにやら会話が聞こえる。

 そして、暫く待っていると、若菜さんがビニールに入った服を両手で抱えて戻ってきた。

 その後ろに若い男性が、戦闘靴ブーツが入った箱を抱えて持ってきた。

 二人は、カウンターに戦闘服と戦闘靴ブーツを置いて仕分けを行った。

 そして、田中さん達に装備品を渡して、カウンターの奥にある更衣室で試着して欲しいと言ったので、順番に試着室で着替える事になった。


 その前に、若菜さんと一緒に出て来た若い男性の紹介が行われた。

 男性は、井村いむら まもるさんで、若菜さんの旦那さんで非能力者だ。


「若菜。ちょっとお願いしたい事があるのだけど良いかな?」

 と若林さんが声を掛けると

「うん。なにかな?」


「神城さんのバストサポーターを見繕って欲しいの」


「彼女の?」

 と言うと、腰を折り顔を近づけてくる。

 思わず顔を引く。

 私の目の前には、私の頭よりも大きのではと思う程の豊満なバストある。


「体格的に市販品のスポーツブラでも十分だと思うけど?

 ちょっと触るね」

 と言うと、私の胸を触った。

 正直、くすぐったかったが、我慢した。


「外見より大きいわね。今使っているスポーツブラとか持っている?」

 と言われたので、ポシェットからビニール袋に入れたスポーツブラを取り出して渡す。

 このスポーツブラは、先日の訓練で使用したものだ。

 きちんと洗って乾かした物だ。


 若菜わかなさんは、ビニール袋から取り出し、広げて確認している。

 田中さん達も興味津々で見ている。


 井村さんはそっぽを向いて、ブラを見ない様に気を使ってくれている。

 と言うより、今にも逃げ出しそうな気配がする。


 真剣に私のブラを確認している若菜さんの横で、少しずつ離れて行く井村さんを捕まえ、興奮気味に

「護さん。コレをみて」

 と引き寄せる。


「ちょっと。こんな少女のブラジャーを見るなんて、良心の呵責が」

 と言って慌ててる。

「ブラジャーの布を見て、こんな摩耗は初めてよ」

 と言って、むりやり私のブラジャーを手に取らせ、問題があったと思われる場所を指しながら

「ほら見て、此処と此処とか、此処も」

 と興奮気味に捲し立てる。


 井村さんは観念した様に手に取ったブラジャーを確認すると

「この摩耗は、擦れたものでは無い。

 繊維自体が摩耗している。

 繊維自体に相当な加重が加わらないとこうはならないぞ」

 と驚いている。


 そして、真剣な表情で手に持ったブラジャーを凝視しながら、ブツブツ何か言っている。

 そのちょっと異様な状況に田中さん達がドン引きしている。


 その様子に気づいた若菜さんが

「護さんの前職は、大手の繊維会社の開発部門で色々な繊維の開発をしていたの。

 だから、神城さんのブラジャーの布の状態が気になった様ね」

 と身体を前のめりにして田中さん達に説明しているが、田中さん達の視線は、彼女の胸に釘付けだ。


 今度は、私の方に向き直り

「ところで、あのブラジャーは、いつ買った物で、どの位の期間使用した物なの?」

 と聞かれた。

 その若菜さんの後ろで、田中さん達は自分胸に手を当て小さくため息をついていた。

 貴方達だって小さくありません。

 若菜さんが大きすぎるだけです。

 と思わず心の中で突っ込んでしまった。


「そのブラジャーは、3月末に買った物です。

 使用期間は1ヶ月程度ですね。

 回数なら、5・6回位です」

 と答えると

『え!』

 と井村夫妻は、驚きの声を上げた。


「たった数回の使用で、繊維そのものにこれ程のダメージを与えるなんて」

 と井村さんが驚き、ブラジャーを食い入る様に見つめている。


「このスポーツブラは、女性隊員も愛用している人が多い実績のあるブランド品なのに」

 と若菜さんが驚いた。


「普通はどの位使えるものなんですか?」

 と鳥栖さんが質問をする。

「使用状況にもよるけど、普通は半年から1年よ」

 と答えた後、鬼気迫る表情で

「ところで、どの様な動きをしたら、この様な事態になるのか知りたいのだけど」

 と凄みのある声で迫ってきた。


「亜音速の領域で30分戦闘した結果よ」

 と若林さんが告げると、私と若林さん以外が凍りついた。


「亜音速での戦闘とは?」

 と井村さんが、ブラジャーを握り締め声を絞りだした。


「移動速度等のスピードが、亜音速まで達した動きで戦うのよ。

 離れて見ていた私達でも、見失う事が多々ある程のスピードよ。

 速度については、教導官達の自己申告だけど」

 と若林さんが、ちょっと遠い目で微苦笑していた。


「神城さんが、十全に戦える為のバストサポーターが欲しいのよ。

 若菜なら用意出来るでしょ」

 と若林さんが続けた。


 若菜さんが若林さんの方を向き

「そこまで言われからには、頑張りましょう」

 と言ってから、私の方を向き

「そういう訳だから、ちょっと測定する為に奥に行こう」

 と言って私の手を取り、奥に連れて行かれる。


 店の奥に入り掛けた所で

「皆も戦闘服と戦闘靴ブーツ試着してね。

 あと、胸回りがキツかったら言ってね。

 交換するから。


 護さん。

 いつまでブラジャーを持って固まっているの?

 彼女達の足の測定と戦闘靴ブーツの中敷きの選定、お願いね」

 と言うと、井村さんも正気を取り戻した。

 私は再び、若菜さんに手を引かれた。

 後ろを見ると、慌てて私のブラジャーをビニール袋に入れている井村さんが見えた。

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