第218話 休日のお出かけ(2)
私達は、駅前のバス停で下車した。
ここからは、若林さんが先頭に立って道案内をしている。
今向かっている所は、
このお店は、退役隊員の人が経営しているお店で、駐屯地に装備品を卸しているそうだ。
ここで、田中さん達の訓練用の戦闘服と靴を買う事になっている。
道中に喫茶店があり、そこから50m位離れた場所に
お店は、靴や鞄や小物の雑貨を扱っている様だ。
お店の奥のカウンターに体格の良い、初老の男性が座っていた。
「店長、お久しぶりです」
と若林さんが声を掛けると
「良く来た。
後ろに居る小娘達用の訓練用戦闘服と
と言って、鋭い眼光と魔力を高めて私達を見ている。
田中さん達が、ビクっと体を震わして数歩後ろに下がった。
同じタイミングで、奥から出てきた女性が、店長の背中を思い切り平手打ちし、バンといい音がした。
店長は
「いたっ。何をするんだ」
と女性に向かって怒鳴ると、女性は腰に手を当て、前のめりになって
「お父さんこそ何をやっているのよ。
お客さんを威圧するなんて、ましてや女性訓練生相手に何をしてるのよ」
と怒っている。
店主は、娘に怒られてタジタジになっている。
そこに若林さんが
「
と声を掛けると
「
と軽い感じの声で返事が返ってきた。
なんでも二人は、訓練校時代からの親友だそうだ。
それで若林さんが、若菜さんに今日来店する事を昨夜の内に連絡していれていた。
だから、若菜さんが対応するから下がる様に言うが、店主は色々と言い訳をしながらも「俺が対応する」と一歩も譲らない。
口論が続く店主の後ろに、店主の奥さん?がフライパンを手に現れ、フライパンを両手で握りしめ、振り上げた。
「あなた。いい加減にしなさい」
の怒声と共に、店主の脳天目掛けて、フライパンが勢い良く振り下ろされた。
店主は、「ぐふ」と呻いて仰向けに倒れた。
「この人が、迷惑をかけてごめんなさいね。
若菜、後はお願いするわ」
と言って、店主を引きずって店の奥に消えて行った。
残されたのは、いつもの事と言わんばかりに呆れている若菜さんと、顔が引きつっている若林さんと、ドン引き中の田中さん達だった。
「お父さんがごめんね」
と若菜さんが言うと、いち早く正気に戻った土田さんが
「いえ、大丈夫です。でも、お父さんは大丈夫ですか?」
と答えると
「大丈夫、大丈夫。いつもの事だから」
と若菜さんが軽い感じで返した。
若林さんが
「おじさん、相変わらずだね」
ちょっと疲れた感じで言うと
「本当に、いい加減にして欲しいよ」
若菜さんが返している横で、田中さんが
「フライパンで頭叩かれていたけど、本当に大丈夫なのかな」
と言うので
「大丈夫ですよ。
フライパンが当たる直前に防御は出来ていました。
ただ、衝撃までは防ぎきれなかった様で、
直ぐに回復しますよ」
私が答えると
「え、お父さんの防御が見えたの?すごい」
と驚いている。
そして、私の方を向き直り
「物凄く優秀な訓練生だね。
きっと将来、杏奈と同じ機動戦略隊に入れるよ」
それを聞いた若林さんの顔が引きつっている。
我に返った若林さんは慌てて
「ちょっと、若菜待って、違うから」
と言って、私と若菜さんの間に入り込んだ。
「え、何が違うの?」
と訳が分からぬと言った様子だ。
若林さんは、私の横に移動し
「彼女は、神城准尉。
東海支局教導隊の教導官よ。
私より上だよ。上官!」
と捲し立てる様に言った。
若菜さんは、キョトンとした表情で私と若林さんの顔を交互に見ながら、若林さんの言葉を小声で復唱していた。
言葉の意味を理解出来た途端に、直立不動の姿勢になり
「失礼しました。神城教導官殿。
自分は、神奈川方面隊第2後方支援部隊に所属していた
退役時の階級は1士です」
と大きな声で自己紹介をした。
田中さん達は、突然の行動に驚き固まっている。
私は苦笑いをするしかなかったが
「既に退役されているのなら、お互いの階級は無意味です。
それに、今は
と応じる。
「それでは、失礼します」
と言って、気を抜いた様だ。
「いやー、びっくりした。
まさか、教導官とか思わなかった。
でも、堅苦しい人で無くて良かった」
と言って安堵した表情で笑っている。
田中さん達は、状況を理解出来ていない様なので
「対魔庁関係者の中には、現役、退役、組織内外に関係なく、階級相当の対応を要求する馬鹿も居るのです。
階級なんて、組織内だけで十分です」
と私が言うと、若林さんと若菜さんが激しく同意した。
田中さん達は、まだ良く理解出来ていない感じだ。
「私は、公私を混同したくないから、
しかし、人に寄っては、公私関係なく階級や役職で呼ばれる事を強要する人も居ますし、それに見合った接し方をしろと言う馬鹿も一定数いるのです。
そして、そういう人間程、めんどくさい」
と言うと、田中さん達も理解を示した。
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