第27話 学校は大慌て

 私のが母さんの仕業だと分かり絶句している間に、私の通っている中学校に着いた。

 車から下りて、私と氷室さんは校舎に入る。


 事前に連絡していたらしく、私達は会議室に案内された。

 椅子に座って待っていると、校長先生、教頭先生、担任、副担任、学年主任が入ってきた。先生方と氷室さんが挨拶している。その合間合間に先生方は私を横目でチラチラ見てくる。

 挨拶が終わるを、先生方は対面の席に座った。中央に校長先生が座った。


 校長「本日は、どういうご要件でしょうか。

    事前に連絡を受けた際は、当校の生徒『神城 優』君について

    重要なお話が有るとのことでしたが?」

 校長先生は、私を横目で見ながら氷室さんに話しかけた。


 氷室「はい、その事で貴校に報告と協力依頼があります」


 校長「報告と協力依頼ですか?」


 氷室「はい、そうです。

    報告から行います。

    こちらの確認をお願いします」

 そう言って、手持ちのタブレットを見せた。

 タブレットには、私の男性だった頃の写真だった。


 氷室「神城 優さんで間違いありませんね」


 担任「はい、間違いありません」


 氷室「神城 優さんは、3日前の火曜日に能力が発露しました。

    その結果、女性化しました。

    こちらが、今の神城 優さんです」

 全員が一斉に私を見た。


 担任「え、神城?」


 副担任「神城くん? うそ!」


 校長「どういうことですか?

    まさか、からかっているのですか?

    性別が変わるなんて、聞いたことありません」


 氷室「いいえ、これは事実です。

    神城 優さんは、世界で8例目、国内初事例の性転換者です」


 校長「本当に?」


 氷室「本当です。これは間違いない事実です」


 担任「本当に、神城なのか?」


 優「山並やまなみ先生。神城 優です」


 副担任「信じられない」


 氷室「こちらが、診断書です」

 そう言って、氷室さんが封筒を校長先生に渡した。


 校長先生は、封筒を開けて書類を確認する。

 読み終わると、教頭先生に渡した。

 教頭先生も書類を読む。隣の学年主任も覗き込んで読んでる。


 校長「神城君が女性になった事は、分かりました。

    これからは、女生徒として当校に通うという事ですか?」


 氷室「神城 優さんには、女生徒として、通ってもらうです。

    もう一つ報告があります。

    彼女は、Sです」

 先生方が固まってしまった。


 学年主任「FとかEではなく?」


 氷室「Sです。能力発露でランクS判定は世界初です。

    この事は公表してません。

    ここからが、協力依頼です。


    神城 優さんに対して、

    1.校外への情報の非公開

    2.サポート為、対魔庁より派遣する人員の受入

    3.バイタルメーターを着けての登校許可

    4.校内外活動のサポート

    です。


    表向き、彼女は無能力者として振る舞って貰います。

    学校に通う理由も、社会復帰訓練の一環としてます。

    性転換した事実だけでもマスコミが集ってくる案件です。


    マスコミ等の制御が不可能と判断された時点で彼女には、

    して貰います。

    残り半年の学校生活の為、ご協力をお願いします」


 この話は、ライセンス証を貰う時に聞いていた。


 校長「分かりました。可能な限り協力させてもらいます」


 教頭先生「最初から訓練校への編入は検討されなかったのですか?」


 氷室「当然、検討しました。ですが、彼女の情報はいずれ世間に知られます。

    残念ながら、彼女の事を奇異の目で見る者達も居るでしょう。

    ならば、早い内から対処法を覚えていくしかありません。

    それに、一人だけ仲間外れで卒業するのは悲しいではありませんか」


 教頭先生「そうですね、受け入れられるように頑張りましょう。

      山並先生(担任)、竹内先生(副担任)、内藤先生(学年主任)

      よろしいですね」


 山並「分かりました。神城、かんばろう」


 竹内「出来るだけサポートします」


 内藤「仕方ない。今の話だと、進路は訓練校で決まりと。

    何処の訓練校に進学するか決まっているか?」


 優「中部の貴陽学園きようがくえんです」


 内藤「分かった、進路は貴陽学園きようがくえんにしておく」


 教頭先生「ところで、対魔庁から派遣される人員の数は分かりますか?」


 氷室「現在調整中ですが、2~3名の予定です」


 山並「登校は、来週月曜日からですか?」


 氷室「可能なら、月曜日からお願いします。

    初日は、私が神城 優さんをこちらに連れてきます」


 内藤「分かりました。月曜日から登校してください」


 校長「神城君の事は、月曜日の職員朝礼で職員に周知します」


 こうして、私の女性としての初登校日が決定した。

 その後、細々したことを決める話合いが行われた。

 必要事項の決め事が終わった後、私と氷室さんは中学校を後にした。



 Side:中学校側

 対魔庁から校長先生宛に電話が有った。

 この事実だけで、職員室に緊張が走った。

 そして、私、山並やまなみ つよしが呼ばれた、何でも受持クラスの生徒「神城 優」の事で話があるとか来校するとのこと。


 うちの学校には、能力者の生徒が5人通っている。

 ランクF3人

 ランクE1人

 ランクD1人

 5人の内、3人が中学3年生だ。


 この5人の中で、問題が有るのがランクDの生徒だ。

 彼は、非常に傲慢ごうまんな性格の生徒なのだ。

 7歳で能力に目覚め、ランクD判定をもらい、マスコミに持てはやされてきた。

 そのため、自分の思った通りに物事が上手くいかないと直ぐに癇癪かんしゃくを起こして各所に迷惑を掛けている問題児だ。

 しかも、親族が対魔庁の重役なので、その権威で色々もみ消しを図るので余計に厄介なのだ。


 対魔庁からも、要注意人物としてマークされているし、彼の家族・学校にも彼を能力者専用の厚生施設への入所を進められている。

 現在のところ、ご家族は入所に反対している。


 そして、私のクラスの生徒でもある。

 私も能力者だが、ランクFでしかない為、彼は言うことを聞いてくれない。

 しかも、私のクラスは、彼を含めて3人の能力者が在籍している。


 学校側としては、同じ能力者同士で親睦を深めれば、彼の問題行動を抑制よくせい出来ると考えたようだが、現実は全くの正反対で対立している。


 その2人の幼馴染が「神城 優」だ。

 よく3人で居ることが多かった。

 神城が非能力者である為、彼が一方的にちょっかいを出して大事おおごとになっていた。

 そのため、職員一同、要注意人物(保護対象)として見ていた。


 その彼が今週火曜日から学校を休んだ。ご家族から入院したと連絡が入った。

 そして、対魔庁からの電話。

 彼が、神城に何かしたのではないかと言う憶測おくそくが職員一同に走っていた。


 学校側は、校長、教頭、私、副担任、学年主任の5人で対応する事になった。

 正直、胃が痛い。


 遂に、対魔庁の職員が来た。

 対応に出た職員が、会議室に案内する。

 本来なら、校長室になるのだが、学校側が5名も参加するので会議室になった。


 我々が、校長を先頭に会議室に入ると、20代後半のスーツを着た女性と少女が待っていた。

 銀髪で真っ白な肌に赤い瞳、非常に目立つ子だ、ついつい目で追ってしまう。

 対魔庁の職員と挨拶を交わし、来校の理由を聞く。


 その後は、驚愕きょうがくしかなかった。

 聞いたこともなかった女体化

 世界で10人もいないランクS能力者


 本来なら、こんな公立校なんかに受入要請するよりも、訓練校で保護すべき案件のハズなのに、「一人だけ仲間外れで卒業するのは悲しいではありませんか」この言葉が心に響いた。そうだよな、一人だけ仲間外れは嫌だよな。


 対魔庁の職員と神城が帰った後、私達と他の主要な教職員は、校長の指示で会議室に集まった。


「今回の件は、お互いに齟齬そごがあると大事おおごとに発展します。

 今、ここにいる人間だけでも共通認識を持たないといけません。


 ○神城 優さんの状態

 1.能力に目覚めた事により、女性化

 2.ランクS能力者


 ○学区側への要求

 1.女生徒として登校

 2.バイタルメーターの常時着用の許可

 3.対魔庁のサポート要員の受け入れ

 4.校外への情報の非公開

 5.学校生活のサポート


 ○学校生活

 1.女性化したための社会復帰の一環

 2.無能力者として振る舞う


 ここまでは、よろしいですね」

 校長が、ホワイトボードに対魔庁の職員と対話の内容を書き出して、確認する。


「対魔庁の方は、彼女が当校での学校生活が不可能であると判断した時点でを使って、訓練校に編入するといっていました」

 そう言って、とホワイトボードに書き込んだ。


「校長、そのとは何ですか?」見慣れない言葉に教頭先生が質問した。

 私も含め校長以外「」だと思っていた。


とは、という法律の事です。

 この法律は、希少な能力や特殊な能力を持つ者、社会的影響力が大きい能力を持つ者を、管理・保護するための法律です。

 神城さんは、この法律の保護対象に指定されています。

 提出された診断書に記載がありましたので、間違いありません。


 現状、彼女は一般保護の段階です。

 一般保護とは、これまでの生活環境に保護官が付く状態です。

 しかし、一般保護で生活が不可であると判断されると、隔離保護になります。

 この状態になると、戸籍こせきを含めされます。


 本人は、新しい戸籍こせきと名前で生きていくことになります。

 当然、旧戸籍に縁のある人や場所との接触も厳しく制限されます。


 なので、我々は彼女が隔離保護にならないようにサポートしなければなりません。 一人の人間が様にしなければなりません」

 校長の話に、驚きが隠せずに居た。

 対魔庁の職員との話では、そこまで重要な感じで話していなかったからだ。


「ずいぶんと詳しいのですね」学年主任の内藤先生が訊いた。


「私が、まだ新人教師だった頃、受け持ったクラスの子が特令の隔離保護になりましたからね。

 その子は、内気な女生徒で、13歳の誕生日の直前に能力に目覚めました。

 目覚めた能力は、強力な治癒能力で部位欠損すら復元できる程でした。

 彼女は、最初、特令の保護監督状態だったのです。


 この状態は、保護官が週1で、本人、学校、ご家族に状態確認を行う程度でした。しかし、どこからか彼女の情報が拡散したのか、大勢の人々が彼女の能力を求めてやってきました。そして、誘拐未遂事件が発生した為、一般保護になり常時保護官が護衛する状態になりました。


 状況の改善の見込みは無く、彼女、彼女の両親、私や共に対応に当たった同僚達も疲弊しました。そのため、隔離保護を受け入れました。

 彼女は訓練校へ編入し、ご家族は引越ました。

 当時の私は、同僚達と共に安堵あんどしたのをよく覚えていますよ。


 数年後、別の学校に赴任した際、街で偶然その子の親御さんと再会しまして事の顛末てんまつを聞くことが出来たのです。


 それが、先程言った内容なのです。

 その話を聞いて、私は後悔しかありませんでした。


 てっきり、全く誰にも知られていない場所で、家族と共に普通に生活出来ているものだと思っていましたから。

 それが、戸籍を奪われ、生きた証を奪われ、家族と別れる事になるなんて思っても見ませんでした。

 全くの別人として生きるという点では、最善だと言えるかもしれませんが、あの時もっと力になっていれば違う未来が有ったのではと思うと、自分の無力さを今でも痛感します。


 今回の件も、当校が断っていれば、即隔離保護に切り替わっていたはずです。

 一人の人間を消さない為にも、我々で出来ることはやっていきましょう」


 共通認識のすり合わせを終えた我々は、夜遅くまで対策の検討を行った。

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