第83話 死霊術師

 日が昇り辺りが明るくなってきたので、ゾンビが来た方角を探索する。

 森に入り、ゾンビが通った痕跡を探して辿って行くと、木々が無い広場に出た。広場でゾンビが通った痕跡が3方向に分かれていたので、2人1組で分岐先を1本ずつ担当して痕跡を辿る。


 私は、霜月さんと一緒に痕跡と辿ると、再び3方向に別れていた。

 私達は、左から順番に辿る事にした。

 1本目の分岐先を辿ると、縦横3m位の岩が在り岩陰に半地下の洞が発見された。

 洞の入り口は、扉と思われる石の板が横にずらされている、足元は少し盛り上がっていて、雨水が入り込まない様になっている。

 洞の中は、2m四方以上の広さが有ってゾンビの物と思われる遺留品が数点と大量の足跡のみだった。

 現場の写真を撮って、遺留品を回収して周辺を調べるが何も無かった。


 しかし、私はこの岩から嫌な感じがして気になって仕方なかったので、色々な場所を調べていると、変な模様を見つけた。

 子供の落書きの様な模様で、何を指すのか分からないが、明らかに人工物だったので、霜月さんにも見て貰ったが何を指しているのかは分からなかった。

 写真を撮ってから、岩と洞に浄化を行った。

 すると、岩の模様と嫌な感じも消えた。


 地図に洞の場所を書き込んでから、分岐ポイントまで戻り、隣の痕跡を辿ると同じ様な岩が在り、洞の中には遺留品と足跡のみだった。

 岩を調べると、一箇所目と違う模様が描かれていた。

 この模様も浄化を使うと消えた。


 3箇所目も全く同じだった。


 ちなみに、浄化に洗浄効果は無い。

 以前、洗い物に浄化を掛けたらどうなるかを実験した事があるが、汚れが落ちやすくなるだけだった。

 衣類のシミに浄化を掛けてから、手で揉み洗いするとシミが薄くなった程度位の効果しか無い。

 能力が上がれば、また違った結果になるのかもしれない。


 12時に昨日野営を行った広場に集合する事になっているので広場に戻る。

 広場に戻ると、私達が最後だった。


 状況確認すると、他の人達も痕跡を辿ると岩と洞があって、岩に謎の模様が有ったそうだ。


 ただ、太和さん達の所は、2度目の分岐は2つしか無かったそうだ。


 太和さんと戸神さんは、痕跡を辿った最後の岩と洞から直接集合場所を目指して最短ルートで移動している途中で、2箇所の岩と洞を発見したが、集合場所に近い方の岩には謎の模様は無かったそうだ。

 あと、この場所に居たゾンビは、集合場所の裏側に周る様に動いていたようで、途中に遺留品が落ちていたそうだ。


 私達は、集合場所と反対側になるので、特に何かを見つけていない。


 地図に岩と洞が在った場所を書き込むと、円形で均等な間隔にならんだ12個の点になった。


 太和「これは、恐らく魔法陣なんだろうな」


 戸神「そのようですね?」


 霜月「黒崎、これは何の魔法陣か分かるか?」


 黒崎「12芒星を表していると思うのですが、全く思い当たる物がありません。」


 山奈「複合魔法陣の可能性は?」


 黒崎「その可能性は在りますが、刻まれていた模様の意味が不明なので分かりません」


 戸神「しかし、我々が突入しても何も反応しませんでしたね」


 黒崎「可能性としては、魔法陣が不完全だったのか発動条件を満たさなかったのではないでしょうか?」


 霜月「機能不全になった可能性が高いな」


 黒崎「機能不全?」


 霜月「ああ、この模様は浄化の能力アビリティで消える。

 昨夜の襲撃の際に、優ちゃんが浄化を広範囲にバラ撒いていたから、この場所に近かった岩の模様が消えた為に作動出来なくなったと思う。

 あと、私達が調べた対岸の岩3箇所にも浄化を掛けて模様を消しているから、他の条件が必要でも動かないと思われる」


 山奈「他の岩の模様も消しますか?」


 太和「いや、先に死霊術師ネクロマンサーを討伐する方が良いだろう。

 時間をかけると、逃げるか別の手を打ってくる」


 山奈「死霊術師ネクロマンサーは、どこに居るのでしょう?

 魔法陣の中心付近には、何もありませんでし、手掛かりも謎の魔法陣だけですし」


 太和「それは、俺にも分からん。

 そもそも、どこから指示したのかが分からん」


「指示した場所が重要なんですか?」


 戸神「死霊術師ネクロマンサーが、ゾンビ等を使役する場合は、ゾンビに臨機応変な対応を望むのは不可能なので、術者が何らかの方法で適時指示をだす必要があるんですよ。

 だから、どこからか見ていたはずなんですよ」


「現場が見えていれば、遠くても大丈夫なの?」


 戸神「呪術核による使役なので、術者の能力次第ですが、ある程度距離が離れていても可能です」


「例えば、あの辺の山腹当たりからでも?

 山腹の岩場当たりからは?」

 私が、集合場所から見渡せる山腹にある岩場を指さした。


 戸神「距離は、かなり離れていますが、謎の魔法陣をとあれだけのゾンビを使役した実力を考えれば可能です」


 頭を掻きながら、

 太和「じゃあ、取り敢えず飯を食ってから、あの岩場に行くか」


 霜月「手掛かりがない以上、行ってみるしかないな」


「え?、なんで?」

 思いつきで言ったことなのに?


 太和「ん? あそこが気になるんだろ。

 だったら確認するだけだ」


 山奈「太和さん、それだと分かりませんよ。

 霜月さんが言った通り、現状手掛かりがありません。

 死霊術師ネクロマンサーが何らかの方法で、こちらを監視しているのは間違いないのですが、方法は分かっていません。

 近くに、監視している使い魔や能力アビリティの痕跡もありません。


 神城さんが言った山腹の岩場からなら、視力強化を使えば十分監視できます。

 黒崎さんや神城さんの探知範囲外からの監視の可能性も考慮すると、調査するには十分な理由です。

 例え何も発見できなくても、山腹の岩場からは監視していないという結果を得るだけです。


 それに、一般的な死霊術師ネクロマンサーのゾンビ使役は、10体前後で制御可能距離も十数メートルが良いところです。

 その為、我々は無意識に遠距離監視の可能性を切り捨てていました。

 神城さんの指摘で、遠距離監視を考慮すると、あの岩場の位置が最適です。


 以上の事により、調査しない理由は無いのですよ」


 太和「そう言うこった。まずは飯にしよう」

 それぞれが携帯食を取り出し、ご飯を食べるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る