第84話 探索

 山腹の岩場に移動する。

 岩場には、大小様々な石が不自然に積み上がって出来た様に見える。


 太和「どうやら、当たりらしいな。」


 戸神「ええ、これは人為的に積み上げられていますね。」


 太和「よし、この岩場と周辺を捜索しよう。

 特に地面に細工が無いか注意してくれ。

 あと、念のため周辺の警戒も十分行う事。

 特に山頂付近を警戒すること。」


「地面に細工?」


 霜月「そうだ、これだけ目立つ物を置いたと言う事は、これが本命という可能性もあるが、むしろ敵をおびき寄せるための囮の可能性の方が高い。

 優ちゃんなら、此処に敵を誘き寄せた時は、どうやって攻撃する?」


「事前に待ち伏せするか、遠くから狙い撃つかですか?」


 霜月「その通りだ。

 これだけ周囲に何も無い状態で、何処で待ち伏せをする?」


「隠れる場所は、石の影位しか・・・だから地面!」


 霜月「その通り。

 で、狙撃に関してだが、この場は開けていて遮蔽物が無い。

 この場所で狙撃するには?」


「山頂と下の木々の間からですか?」


 霜月「その通り。

 木々の隙間から狙撃は、気付かれ難いが行うには難度が高い。

 ここより高い山頂側の方が、意識を向けられないと気付ないから、狙撃難度はかなり下がる。

 それに狙撃に拘る必要が無い。

 大きな石でも落とせば、十分な殺傷威力を誇る兵器になる。」


「なるほど」


 霜月「どうやら待ち伏せは無かった様だ。」

 霜月さんは、先行した太和さんと戸神さんが状況の確認が終わったので合図を送ってきていた。


 霜月「山奈と黒崎は、こちら側で警戒を頼む。

 私と優ちゃんが、反対側から警戒をする。」


 山奈・黒崎「了解」


 岩場を迂回して反対側に10m程離れた位置まで移動して、探知系の能力アビリティを探知距離を最大限に広げて警戒を開始する。

 言われた通り、上下空間にも注意を払い、死角を探して伏兵や何か変わった物が無いか探す。

 私の探知系能力アビリティは、広域探知、空間把握、魔力感知で、普段から起動しっぱなしだが、普段は屋外が半径20m位、屋内は部屋内だけに制限している。

 山に入ってからは、半径50m位に制限を緩和していた。

 黒崎さんの持つ広域探知は、最大探知距離が範囲300mで、高精度検知が50m位だそうで、私の最大検知距離は400m弱だ。

 高精度検知は、能力アビリティではなく技能スキルらしいので私には使えない。


 探知範囲内を精査していく。

 探知範囲を大きくすると、脳への負荷が増える為、高速思考の能力アビリティもランクD9と大きく成長した。

 能力アビリティは、基本的に使用時の秒間魔力使用量の最大値でランク着けされているので、探知系や思考系の様に常用可能な能力アビリティは、能力アビリティの最大使用魔力量の5%~20%位で、魔力回復量を超えない範囲で常用するのが普通なのだが、私の場合は魔力量が豊富なので、常時最大出力で使用しているため、成長が異常に早い。

 例外の能力アビリティは、私が持っているものだと上級能力鑑定と悪意感知だ。

 上級能力鑑定は、魔力を消費しないが、上級以外は魔力を消費するらしい。

 悪意検知も悪意を向けられると分かる程度の物で、殺意・害意が高い程頭の中で警報が強く響く。

 あと、太和さんの超直感も魔力を使用しない物らしい。

 超直感は、理屈抜きに物事の本質だけを理解する事が出来るらしい。

 ただ、発動条件は不明だそうだ。

 超直感の能力アビリティは、私がコピー出来なかった能力アビリティの一つだ。

 三上さんからは、個人というか個性に強く結びついている能力アビリティにはコピー出来ない物もあるそうだ。


 検知範囲内を精査していると、狙撃に適した場所が何箇所か見つかったが、そこでは何も見つける事は出来なかった。

 ただ、妙に気になる場所は見つけたので、後で相談してみよう。


 30分程して、太和さんが全員を集めた。

 調査の結果、この岩場には何もなかった。

 正確には、ごく最近に崩れた場所が在り、大岩の下敷きになっている為調査出来なかったとの事。


 そこで、周辺を警戒していた私達に何か無かったのかを確認するために呼ばれたのだった。


 私と黒崎さんで行った広域探知での探査結果を比べたが、同じ結果だった。

 狙撃可能箇所数と位置も同じだったし、それらが全て人為的に作られたものであるという判断も同じだった。

 ただ、それだけで、怪しい所が見つからなかった。


 太和「振り出しか・・・。

 やっぱり、あの岩を退かして下を調べるか。」


「あのー、ちょっと気になる場所を見つけたので、確認してもいいですか?」


 太和「それは何処だ?」


 今の場所から50m位先の起伏部を指さす。

「あそこです。」


 太和「よし、そこに向かうぞ。」


 黒崎「ちょっと待ってください。」


 太和「どうした、黒崎?」


 黒崎「私が、精査したら何も発見できなかったんです。

 なので、何が気になったのか知りたくて。」


 太和さんは、私に向き直って

 太和「だそうだ。何が気になったんだ?」


「あの辺りの精査だけ、微妙に歪んで見えるんです。」


 太和「歪んで見える?」


「極僅かですが、空間が歪んでいる気がするんです。」


 黒崎「空間が歪んでいる? 私には分からない。」

 どことなく、落ち込んでいる様に見える。


 太和「取り敢えず、行ってみればハッキリと分かるだろう。

 先頭を俺と神城

 中衛を山奈と戸神

 後衛を黒崎と霜月

 で向かうぞ。」


 太和さんと並んで、起伏部を目指して歩く。

 残り、20mを切った当たりから、微かに臭い始めた。

 起伏部に近づく程、臭いは強くなってくる。


 残り10m位になった頃に、耐えられなく成りつい「臭い」と言葉を漏らしてしまった。

 一斉に私が注目された後、太和さんに視線が集中した。


 太和「俺は、何もしていないぞ。」

 慌てて弁明している太和さんを尻目に、女性陣の視線が険悪になっていく。


 状況が呑み込めず、取り敢えず聞いてみることにした。

「えーと、どういう状況です?」


 山奈「え? 何を言っているの?

 太和さんが、おならをしたから、臭かったのでしょ?」


「??」

 うーん、ちょっと整理してみよう。

 私は、この気持ち悪い臭いに対して臭いと漏らした。

 周りは私が臭いと言った言葉から太和さんがおならをしたと思ったと。

 でも、何で?

 私が感じている臭いを感じていないのかな?


 山奈「何か考え込んでいますね。」


 黒崎「腕を組んで、首を傾げて唸って考え込んでいる姿は、意外とかわいい。」


 山奈「たしかに」


「確認したいのですが、良いですか?」


 太和「いいぞ」


「この場所で、何か臭いますか?」


 太和「いや、何も感じないぞ。」


 戸神「私も感じません。」


 山奈さんと黒崎さんに視線を送ると、二人は首を横に振った。


 霜月「私も何も感じない。

 優ちゃんは、なにかの臭いを感じているのか?」


「はい、なんと表現して良いのか分かりませんが、空気が腐って発酵した感じというか、苦い感じの中に妙に甘ったるい感じがして、気持ち悪い臭いです。」


 霜月さんは、私の言葉を聞いて考え込んでしまった。

 オトガイに手を当て、暫く考え込んだ後に

 霜月「それって、瘴気の臭いかもしれん。」


 その言葉で、私と霜月さん以外の人達の顔が驚きに変わり、霜月さんの続きを待っている。

 霜月「半年前、ランクBの火蜥蜴サラマンダーが現れた時、私達の目の前で空間が割れたのだが、空間が割れるのを目視する直前に優ちゃんが察していたんだ。

 後で、何故空間が割れるのがわかったのか訊ねたら、空間が割れる音が聞こえた後、気持ち悪い風が吹いたと言ったんだ。

 そして今も、気持ち悪い臭いと言った。

 だから、両方に共通しそうな点は、瘴気かも知れないと思っただけだ。


 それと、何故優ちゃんだけが感知出来るのかという謎が残っているがな。」



 戸神「取り敢えず、神城さんだけが感知出来る件は置いといて、推定瘴気を感知している以上、あそこに何かがあると思って行動しましょう。」


 戸神さんの言葉に全員が頷く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る