第115話 戦闘狂

 山本さんが 頭を掻きむしっている。

「あーもう。なんで、俺達なんですか?」


 篠本さんは、さも当然として

「うちの隊で、最強だからだ。それ以外に理由はない」


「え、それだけ?」


「それだけだ。

 あと、中部機動戦略隊で知っているのは、此処に居る人間と中之なかのだけだ。

 だから、他言無用だ」


「吾郎、悪いことだけでも無いぞ。

 最強と何度も手合わせ出来るのだから、強くなるチャンスだ。」

 伊坂さんは嬉しそうに言いながら、山本さんの肩をバンバン叩いている。


「お前なー。

 訓練メニューとか考えるの俺なんだぞ。

 そう言うなら、お前が考えろよ」


「俺には無理だな。

 俺だと、ひたすら模擬戦になってしまうぞ。」

 悪びれない、爽やかな笑顔で答えている。


 山本さんは、頭を抱えて

「お前はそいう奴だった」

 と呟いている。


 高橋「そんな山本に朗報だ。

 教導隊から参考用の訓練メニューを預かってきている。」


「吾郎、よかったな」

 そう言って、笑っている。


「晋、訓練メニューを用意済みとか、今までなかった事だぞ。

 どんなハードな内容か今から戦々恐々だ」


「それだけ、神城の事を本気で考えているって事だ」

 篠本さんに視線が集中する。


「神城の所属は、東海支局教導隊のままだ。

 彼女が訓練校に在学中は、中部機動戦略隊が彼女を預かる形になっている。

 だからと言って、お客様扱いには出来ん。

 うちで、きっちり経験を積ませる必要がある。

 その為のお前達だ。

 分かったな」

 と強く言った。


「了解」

「りょーかい」

 と二人が返す。


 篠本さんは、私達を一瞥すると

「訓練は、ここを使え。

 お前達にとって狭いだろうが、ランクS2の攻撃まで耐えられる様に作られている。

 それと、今の神城の能力値を見せてやれ」

 と言った。


 高橋さんが前に出て

「ほら、これが神城さんの能力よ」

 と言って、タブレットを山本さんに渡した。


 タブレットを受け取って、データを見た山本さんは固まっている。

「吾郎、どんな感じなんだ?」

 と伊坂さんがタブレットを覗き込む様に言うと

「ありえねー」

 と呟きと、山本さんはタブレットを押し付ける様に伊坂さんに渡した。


「どれどれ」

 楽しそうにタブレットを受け取ったが、データを見た瞬間に顔が引きつっている。


「追加情報だ。

 彼女が能力アビリティを発露したのは、半年前だ。

 所有している殆どの能力アビリティは、発露後に取得したものだ」

 と高橋さんが言うと、伊坂さんはタブレットに表示されている能力アビリティ一覧を見直し

「これ程の数の能力アビリティをたった半年で習得成長させた。

 しかも殆どがランクD以上、B9もあるぞ」

 と驚きの声を上げた。


 山本さんは、思い出したように

「そうなると、ランクFの能力アビリティもあったから、これは最近取得したってことか?」

 と聞いたので

「物性変化と魔力回路付加は、2週間前位に習得しました」

 と答えた。


 それを聞いた山本さんは、両手で頭を抱える様にして上を向きて絶叫している。


「吾郎が壊れた」

 と楽しいそうに伊坂さんが言い

「発狂したくなる気持ちも分かる。

 能力アビリティの希少性も取得数も成長速度も異常だからな。

 しばらく放っておけば、正気に戻るだろう」

 と高橋さんが同情した。


 伊坂さんの方に向き直り

「日常的な護衛や訓練は、他の隊員にも参加して貰うが、本来の能力を出した訓練は、お前達二人が担当する」

 と高橋さんが言うと

「護衛入ります?」

 と心底不思議そうに聞き返した。


 篠本さんは

「必要だ。

 お前達も神城を見た時、強者だと認識出来なかっただろう。

 だから、どうしてもちょっかいを出す馬鹿が出る。

 その馬鹿が、行動を起こせさせない為に護衛が必要だ」

 と言い切ると、伊坂さんは

「馬鹿共の牽制の為に、護衛をつけるということか」

 と確認する。


 篠本さんが含み笑いをしながら

「ああ、よく釣れるそうだ」

 と言うと、伊坂さんは

「それは、それで大変だ」

 と愉快そうに答えた。


 山本さんは、心底嫌そうに

「そっちの処理も必要という事か。

 了解しました」


「納得したな。

 後は頼んだぞ」

 と篠本さんが言うと高橋さんが

「じゃあ。

 私達は戻るから、後を頼みました」

 と言って、篠本さんと高橋さんは、タブレットを回収して出て行った。


「まだ、時間があるから模擬戦をやろう」

 伊坂さんはそう言って、私と対峙しようとした時に僅かに顔を歪めた。


「少し待って下さい」

 そう言うと、伊坂さんに近づいて、拳が当たった場所に手を当て治癒の能力アビリティを発動して治療する。


「おお、痛みが引いていく」

 なんだか、嬉々としている様に見える。


「これなら、多少怪我をしても問題なさそうだ」


 山本さんが、呆れを含んだ声で

「問題大有りだろうが、怪我前提で模擬戦をやるな」


「そう言うな、格上と戦うのに無傷とか不可能だろうが」


 山本さんは、頭が痛そうな感じで

「嬉しそうに言うな」


「なんというか、伊坂2佐と性格が違いすぎません?」


「兄貴を知っているのか?

 あ、教導隊だから会った事あるのか」

 と伊坂さんが、一人で納得していた。


 山本さんは、大きなため息をついて

「兄貴の方は沈着冷静で知的だが、晋は戦闘狂バトルジャンキーだ」

 と呆れた様に言い切った。


戦闘狂バトルジャンキーとは、ひどいな」

 と伊坂さんが言うと

「事実だろうが!

 お前がもう少しまともなら、とっくに3佐に昇進してるぞ」

 と山本さんが返す。


「そんなことないだろう?」

 と、気にもしていない様子で伊坂さんが答えると、山本さんは

「駄目だこりゃ」

 と投げやりに言った。


 伊坂さんは、私の方に顔を向けると

「まあ、いいや。

 神城さん、模擬戦をやろう」

 真新しい玩具を手に入れた子供の様な笑顔だ。


 この後、17時までの約2時間を模擬戦に費やす事になった。


「いやー、戦った。戦った」

 伊坂さんは、非常に上機嫌だ。


 山本さんは、ため息をつきながら

「戦ったじゃあない。

 なんで、ブッ通しで戦っているんだ。

 しかも、怪我を都度、神城さんに治してもらいながら連戦してるんだ」

 と呆れた感じで言うと

「格上相手に勝率3割なら上出来だろう」

 と伊坂さんが返す。


「問題はそこじゃない。

 お前が全力で楽しんでどうする。

 俺達の目的は、戦闘技術を教えて実践させる事だろうが!!」

 と頭を抱えた山本さんが苦情を言うと

「なら、余計に実践に近い方がいいだろう。

 色々な戦闘技術を間近でみられる上、即時対応技術も身に着けられる。

 うん、いい事だらけだ」

 と伊坂さんは、一人納得している。


 疲れた感じの山本さんが

「そこ違うからな。

 神城さんの対応力が異常なだけだ。

 普通ならお前が7割勝っている内容だったぞ」

 と言うと

「なら、問題ないじゃないか」

 と伊坂さんが、不思議そうに返す。


 山本さんは、私に向き直り

「はあー。

 これだから戦闘狂バトルジャンキーは困る。

 神城さん、済まない。

 後日、今日晋が使った戦闘技術の説明をするよ」

 と言ったので

「はい、分かりました」

 と答えた。


「吾郎。

 外から見ていて神城さんの戦闘はどうだった?」

 と伊坂さんが問うと

「神城さんの戦闘か。

 そうだな、良くも悪くも基本に忠実で素直だ」

 と答えた。


 伊坂さんは、頷きながら

「それは戦っていて思った。

 でも先読みも対応も出来ているのに、攻撃が躱せなったモノが幾つかあったのだが、何か分かるか?」

 と言うと

「最短最速の攻撃の時だろう。

 基本に忠実だからこそ出来る攻撃だな」

 と山本さんが答えた。


 伊坂さんは、驚いた様子で

「そんな攻撃があるのか」

 と喰い付いた。


 山本さんは、伊坂さんを無視して

「もう夕食の時間だから、今日はここまでにしよう」

 と話しと訓練を終了させた。


 この日の訓練が終わったので、地上に戻って制服に着替えてから、食堂に伊坂さん達と一緒に向かう。


 なんでも二人共宿直棟に泊まるので、ここで夕食を取るそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る