第37話 謝罪と本音

 「ヤメ。今日は此処までにしよう」

 と言う霜月さんの声で、魔力出力を止める。


 魔力の定常出力訓練を開始して1時間、5分維持して1分休憩を10回繰り返しただけなのに、息切れと疲労感が全身を襲う。

 結構な集中力を必要とするから、かなり疲れた。


「ありがとうございます」

 息も絶え絶えに答えた。


「今日の結果は、魔力量1/2で560±160MMPメガエムピーで安定。

 訓練初日としては、上出来だ。

 当面の目標は、560±60MMPメガエムピーに収まるように頑張ろう」

 霜月さんは、笑顔で言われた。


「ほんと、優ちゃんが優秀で凄いわ」

 若桜さんも笑顔だ。


「優秀?」

 目標値からは、まだ倍位振れ幅があるのに?


 そう思っていると霜月さんは

「初めて定常出力訓練すると、振れ幅が安定しないものだ。

 安定してきても振れ幅が、最大魔力量の20~30%が当たり前。

 最初から振り幅が、魔力最大値の15%の範囲で安定しているから優秀だと言ったのだ」

 と説明してくれた。


「ありがとうございます。

 所で、MMPメガエムピーってなんですか?」

 と問う。

 MPって魔力量だよね。


MPエムピーは、Manaマナ Powerパワーで魔力量の単位

 Mメガは、単位で10の6乗を表してる。

 それがどうかしたか?」

 と霜月さんに言われ

「えーと、私の魔力量って多いんですか?」

 と聞くと

「そりゃ、Sランクだからかなり多いぞ。

 半分でもAランクの中の上に相当する量だぞ」

 と返ってきた。


 半分でもAランク中の上?

 どれだけ私の魔力量は多いの?


「優ちゃん。魔力量のランク分けの基準って知ってる?」

 と若桜さんに聞かれ

「知りません」

 と答えると

「魔力量のランク分け基準は、魔力計の測定値を基準に判定していて。

 0~100までが、魔力欠乏が疑われる魔力量

 101~999までが、一般人の魔力量。魔力量は、300~600位の人が多い

 1,000で、Fランク。1,000を超えると多くの人が能力を発露するから、発露ポイントとも言うわ。

 ここから先は、1桁上がる毎にランクが上がっていくわ。

 10,000でE、100,000でDって感じで上がっていくの。

 優ちゃんはSランクだから、1GMPギガエムピーを超えているよ。

 だから、優ちゃんがちょっと気合を入れるだけでEランク相当の魔力が流れていたわよ」

 言われ、思わず

「え、本当ですか?」

 と言うと

 若桜さんは、手持ちのタブレットを見せながら

「これ見てくれる。

 平常時の値は、550MPエムピー前後なのに、この一瞬で27,314MPエムピーを記録しているでしょ。

 この後の魔力の動きは、脳に集まって約50分維持されている。

 同じ現象が、今日だけで3回記録されているから、気合い入れてテスト受けていたのかな。

 でも0.1秒程度とはいえ、外部に極少量の魔力を放出しているから、感知能力が高い子なら魔力の起動に気付いたかも知れないけど、誰が使ったまでは分からないはずよ」

 と言われた。

 そんなに簡単に魔力って流れるんだと思っていると、霜月さんに

「魔力制御が荒いから外部に漏れてるだけだ。

 訓練を続けていけばこういう漏れも無くなる。

 だから、気にする必要はない」

 と言われた。


「分かりました」

 と答えた直後、コンコンと教室の扉が叩かれた。


「氷室です。只今戻りました」

 と言う声が聞こえので、霜月さんが扉を開けた。


「首尾はどうだ」

 と霜月さんが氷室さんに聞くと

「上々ですよ。あとお客さんを連れてきました」

 と言って、氷室さんの後ろにいる二人を前に押し出す。


零士れいじあきら、どうして、此処に?」

 私は、首をかしげた。


 二人の顔が赤くなった。

 なんで?


「優ちゃん。貴方のその仕草は、二人には刺激が強かったようね」

 と若桜さんがため息を混じりに言うと、氷室さんも

「そうですよ。貴方は自分の容姿をもう少し理解した方が良いですよ」

 と追撃されたが、よく理解出来なかったので

「私が悪いの?」

 首を反対側にかしげて聞くと、二人共顔を真赤にしてそっぽ向いてる。


「それで、二人は何をしに此処に来たのかな?」

 苦笑いしながら、霜月さんが再度問いた。


 零士れいじあきらは、お互いに顔を見た後、私に向かって頭を下げた。

『優、ごめん』

 と声を揃えて謝罪の言葉を口にした。


「え、え、何事?」

 軽いパニックになった。


 二人は頭をあげた。

 零士が

「本来なら、俺達が同一人物だと証明しないといけなかったのに、優の変わり様が凄くて同一人物だと思えなかったんだ」

 と言うと、章が

「正直、今でも同一人物と思えない。

 でも、時折見せるくせが優だと教えてくれる。

 でも、確信が持てなかったんだ」

 と言う。


「もういいよ。別に怒ってないから」

 軽くため息をき、微笑みながら答えると、 二人共真っ赤になった。


 章が、顔を左右に数回振った後

「優も悪いんだぞ。

 何度もメッセージ送ったのに全然返信しないから、どれだけ心配したと思ってるんだ」

 悪態をつきながら言ってくる。


「それは、ごめん。

 検査とか色々あって、スマホをいじる気力も無くなってたし、私の体の状態をメッセージで相談しても信じてくれないと思った。

 あと、単純に電池バッテリー切れてた」

 と答えると零士が

「確かに、メッセージで女体化の話をされても信じられないな。

 目の前に居るのに、俺も同一人物だと認識できない」

 と感想を口にする。


 章は

「それに、言葉遣いと仕草。

 女言葉に変わってるし、仕草も女性そのものだぞ。

 正直、凄く可愛いがこれが優だと思うと頭がバグっておかしくなる」

 両手で後頭部を抱えてっている。


随分ずいぶん直球ストレートな言い方ね」

 若桜さんも苦笑いしてる。


零士れいじあきらは、いつもこんな感じです。

 昔から歯に衣も着せない言動で、周囲と衝突することも度々たびたびあり、私が仲裁に入っていました。

 零士れいじが沈着冷静で毒舌、あきらが熱血漢でリアクションが大きくて騒がしいですが、二人共表裏のない性格です。


 あと、私の女子行動おんなのこムーブは、母さんの能力による影響」

 と言うと、零士が

「おばさん、能力者だったのか」

 と驚きを表したあと

「それはともかく、優が復学する前に顔合わせ位しても良かったのではないか?」

 と疑問を口にした。


 私は

「それは…」

 と言い淀んだ。


「昨日、顔合わせを行う予定だったのよ。

 金曜日に退院して土曜日に買い物に行ったんだけど、途中で体調を崩して再入院したの。

 昨日退院したんだけど、念のために安静してもらったから顔合わせは中止にしたのよ」

 と若桜さんが説明してくれた。


 零士は

「再入院していたのか。それは仕方がないな」

 と納得した。


 章が

「買い物って、なに買ったんだよ」

 ちょっとねたように言う。


「決まっているでしょ。

 女の子になったのよ、当然お洋服とよ。

 男の子と違って女の子の下着は、きちんと自分に合った物を選ばないと形が崩れたり、肩こりが酷くなったりするのだから重要なのよ。


 貴方達もいずれ彼女とか出来るでしょうから、そういう気遣いも出来るようにならないとダメよ」

 と若桜さんが買い物の目的を教えると、二人は耳まで真っ赤にしてる。

 なにを想像しているのやら。


「当面の間、護衛の都合で君達と一緒に登下校できない。

 また、護衛官無しの外出も出来ない。

 そこは理解して欲しい」

 と霜月さんが言うと、章が

「護衛って、何から守っているんですか?」

 と訪ねた。


「彼女は、世界的に珍しい事例だし、見目麗みめうるわしい女性だ。

 愚劣ぐれつな感情を持って行動を起こす者が出るだろう。

 そういった者達から守るのが我々の役目だ」

 と霜月さんが言う。


「たしかに、見た目なら文句なしの美少女だ」

 と零士が言うと、章が

「中身を知らなかったら、れてたな」

 と返した。


「なんだか、私だと不満だと聞こえるんですが?」

 と言うと、零士と章は

「優と別人だったら、大歓迎だっただけだ」

「零士の言う通り、別人なら大歓迎だ。

 今だって、必死に『』と言い聞かせている最中だぞ」

 と真面目な顔で言ってくる。


 落胆して

「おまえら・・・」

 と声が漏れた。


「二人共、はやく慣れることね。

 13時30分を回っているから、今日はもう帰りなさい」

 と若桜さんが二人に下校を勧める。


「ほんとだ、もうこんな時間か」

 と零士が言うと章が

「そう言われると腹が減った」

 と答え、零士は

「優は、どうするんだ」

 と訪ねた。


「もう少しやることが有るから、それが終わってから」

 と私が答えると

「分かった。俺達は先に帰るからな。行くぞ、章」

「優、また明日な」

 と言って出て行く二人に

「また、明日」

 を声を掛けた。


 二人が教室から出ると、霜月さんが

「若桜、あと頼むぞ」

 と言うと、若桜さんは

「まかせて」

 と即答した。


 霜月さんと氷室さんも部屋から出て行った。

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