第38話 傲慢の行く末

 若桜さんが、私の訓練で使った物と別の魔防装置まぼうそうちを起動させた。

 この魔防装置まぼうそうちは、教室全体を覆うように設定されている。


 若桜さんと二人で教室で待機すること5分、教室の扉が派手な音をたてて乱暴に開いた。扉を開けたのは、神埼だった。


 神埼「ふん、神城 優、俺の奴隷になれ。」

 教室にゆっくりと入りながら、傲慢不遜ごうまんふそんに言い放った。


 神埼「俺の様な優秀な人間の奴隷にしてやるんだ。光栄こうえいに思え。」


 もはや、怒りを通り越して呆れ果てた。

 どう思考したらこんな事を思いつくのか?


 一言ずつ区切ってハッキリと言い返した。


 神埼「なんだと、わざわざ俺が出向いて奴隷にしてやると言っているのに断るだと。お前に拒否権など無いのだ。」


 若桜さんが、私の前に出た。

 若桜「ほんと、礼儀も態度もダメダメね。

 女の子を口説くのに、奴隷にしてやるとか、頭おかしいわよ。」


 神埼「黙れ、下っ端!

 俺は、対魔庁事務次官 神埼 雄一の孫だぞ。

 それに、査察部門の長官は俺の叔父だ。

 お前の証言など、一切通用しない。

 俺に従え。」


 若桜「

 お爺さんと叔父おじさんの威光いこうを借りるが、なに言っているのよ。

 そんなんだから、女の子にモテナイのよ。

 親類の権威けんいに頼らないと何も出来ないお坊ちゃん(笑)」


 神埼「だまれ! 俺は、最強に成る男だ。」

 神崎は、叫びながらボーリングの球位の大きさの火球ファイヤーボールを若桜さんに向けて撃った。

 若桜さんは、白衣の下に装備していた警棒けいぼうを抜打ちで、火球ファイヤーボールを軽く打ち払った。

 打ち払われた火球ファイヤーボールは、若桜さんの右斜め前に飛んで魔防装置の結界に当って砕けた。


 若桜さんが使っている警棒は、3段の伸縮式警棒で全長が約60cm位の物だ。


 若桜「乱暴らんぼうね。

 そんなんだから、モテナイのよ。

 女性は、繊細で壊れやすいものよ。

 優しく紳士的に接しないとダメよ。

 最強の男さん(笑)」


 悠然ゆうぜん微笑ほほえむ若桜さんと怒気どきで鬼面と化した神埼が対面する。


 神埼「俺の火球ファイヤーボールを防ぐとは、生意気な」


 若桜「貴方に直撃する様に打ち返すつもりだったのだけど、あんなヒョロ玉から打ち損じちゃった。

 優ちゃん、念のため魔力纏身まりょくてんしんしていてね。」

 非常に軽い感じで言い放った。


 神埼「俺の火球ファイヤーボールをヒョロ玉だと!」

 怒気で顔が真っ赤になって叫んでいる。


 若桜「戦闘系能力せんとうけいアビリティを持たない私ですら余裕でさばけるもの。

 さあ、どうする、自称最強君?」


 神埼「なめるなー」

 叫びながら、先程より大きな火球ファイヤーボールを若桜さんに向けた撃ってきた。


 若桜さんは、左に一歩ずれると、テニスのラケットのように警棒を振って打ち返した。

 打ち返された火球ファイヤーボールは、一直線に神埼に向かって倍以上の速度で飛んでいく。

 這々ほうほうていで、火球ファイヤーボールかわす神埼。


 ゆっくりと歩を進める若桜さんに、神崎は長さ15cm位で直径1cm位の先の尖った棒みたいな火矢ファイヤーアローを連発する。

 若桜さんは、最適化された体捌たいさばきと動作で警棒を用いて火矢ファイヤーアローを迎撃や回避を行いつつ神埼に近づいていく。


 通り、魔力を目に集めて二人の様子をつぶさに観察すると違いがよく分かる。

 神崎が火球ファイヤーボールを撃つのに2秒、火矢ファイヤーアローでも1秒かかっており、しかも単発でしか撃ててない。

 魔力の収束が甘いのか、発動する前から火球ファイヤーボール火矢ファイヤーアローは、魔力が霧散し始めてる。魔力は、全て攻撃に注ぎ込んでいるので身体には魔力を一切まとっていない。


 一方若桜さんは、全身に薄く魔力をまとい、脚、眼、警棒に強く魔力をとどめている。当然とうぜん、魔力が霧散している様子は全く見えない。

 神崎が火矢ファイヤーアローを撃つ動作を見て、撃たれる前に次の行動を起こしている。


 能力アビリティやランク以前に、戦闘技術に差がありすぎる。


 神埼「クソ、なんで当たらないんだ。当たれ、当たれ、当たれ、クソがー」

 わめきながら、後ろに下がりつつ、火矢ファイヤーアローを撃ちまくるが当たる気配は無い。

 あせりの為か、撃ち出される火矢ファイヤーアローは、若桜さんに当たる軌道きどうで飛ぶ物は少ない。

 時折、打ち返された火矢ファイヤーアロー自分神埼に向かって飛んでくるのを必死になって避けている。


 遂に背中が壁に当たった時に、神崎は若桜さんから目を離し壁を見た。

 若桜さんは、その一瞬で間合いを一気に詰めて警棒で神埼の左肩を強打した。

 神埼が下げた顔に左フックを打ち込んで床にいつくばらせた。


 若桜「弱すぎるわね。まだ、新米隊員のFランクの方が強いわよ」

 無表情で、言い放つ。

 美人がそんな表情すると、本当に怖いです。


 神埼「く、クソ喰らえ。」

 やけくそ気味に叫びながら、私に向けて火球ファイヤーボールを撃ってきた。

 私は、予定通り

 爆炎が舞う。


 神埼「ぶははは、護衛が護衛対象を守れなくては意味がないだろう。」

 壊れたように笑っている。


 若桜「貴方の弱々よわよわ攻撃で、優ちゃんが怪我するわけないでしょう。

 精々せいぜいホコリを巻き上げるだけよ。

 ほら、よく見なさい。」


 巻き上がったホコリが収まると、無傷の私が表れた。


 神埼「馬鹿な、なぜ」

 かなり驚愕きょうがくしている。


 若桜「言ったでしょ、貴方はFランクよりも弱い。

 無抵抗な一般人相手に威張いばっていただけよ。

 お爺さんの権威けんいがなければ、この程度でしか無いのにね。

 ね。」

 無表情に言い捨ててる。


 神埼「そんな、馬鹿なあああぁぁぁぁ」


 叫びながら開けっ放しの教室の扉に向かって、這いつくばる様にして走り出し、逃走を図った。

 扉を抜けた直後、教室内に吹き飛ばされて床に転がりうめいている。


 霜月さんがゆっくりと教室内に入ってきた。


 霜月「所詮、ただの大口叩きビックマウス

 実力なんて何もないって事にも気付かない程の大馬鹿だったな。」

 こちらも無表情に言い捨ててます。


 氷室さんが、その横を素早く抜けて神埼の首に輪っかを着け、後ろ手に拘束具で固定する。


 神埼「俺が、誰だか分かっているのか。

 対魔庁事務次官 神埼 雄一の孫だぞ

 今直ぐ拘束を解いて、その女共を捕縛しろ」

 痛みのためか、涙と鼻水でグチャグチャの顔で怒鳴ってる。


 氷室「随分ずいぶんと寝ぼけたこと言ってますね」


 霜月「全くだ」


 神埼「お前らの地域防衛隊の隊員だろう。

 俺の言う事を聞け。そうしたら出世させてやる。」

 半泣きの状態で喚いている。


 氷室「大馬鹿ですね。私達の所属もわからないなんて。」


 霜月「全くだ。」


 神埼「何を言っている。さっさと言われた通りにしろ。」

 発狂状態はっきょうじょうたい怒鳴どなりらしている。

 正直、見るにえない。


 霜月「うるさい」

 霜月さんが、神埼の頭を掴むとそのまま床に叩きつけた。


 額が割れ、血が出てうめき転がり回る神埼。

 髪を掴み、顔を上げさせると、冷たい声で言い放った。


 霜月「私達は、対魔物戦術課たいまものせんじゅつか研究機関思金けんきゅうきかんおもいかね所属だ。

 事務次官殿の威光いこうは、一切通用しない独立部隊だ。

 事務次官殿の息の掛かった対魔物防衛課たいまものぼうえいかの隊員とは違うのだ。

 それに、貴様の様なクズに相手に配慮する必要など有るまい。

 殺すか。」


 霜月さんから、本気の殺気が放たれた。

 殺気をまともに受けた神崎は、あっけなく失禁して気を失った。

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