第160話 人間関係は複雑(2)

「あの、なぜ、そこまでしてくれるのですか?」

 彼女達は、私のおまけで此処に居ると思っているから、田中さんの質問は同然だ。


 護衛役のお姉さん達は、ちょっと困った感じで

「何故って、貴方達は好敵手ライバルだからよ。

 下らない訓練生の派閥争いで失いたくないからよ」


「そうね、貴方達が入庁してくれたら、絶対頭角を現すわ。

 そうしたら、数年後には同僚戦術課隊員になる可能性が高いわね。

 そんな貴重な人材を失うわけには行かないわね」


「この件は、護衛役の女性陣で引き継ぐから、安心しなさい」


「それは構いませんが、程々でお願いしますよ」

 鼻息を荒くしている護衛役2人に、一応釘を刺しておく。


 田中さんが思わず

「そんな、私達にそんな才能有りません」

 と大きな声を上げた。


 護衛役2人は、諭すように

「私達でも大変なのに、貴方達は、神城教導官の教導に着いてきている。

 それどころか、部分的には私達を上回っている。

 十分才能がある証拠よ」

「私達は貴方達を認めているし期待している。

 だから、遠慮なく頼ってね」


 4人は、現役の戦術課隊員に褒められたので、照れている。


「褒められて嬉しいのは分かりますが、張り切りすぎないでくださいよ」


「そ、それは、分かってるわよ」

 田中さんは、あからさまに動揺している。

 その様子に全員の笑い誘った。


 ひとしきり笑いが収まった後

「でも、なんで派閥争いが起こっているのだろう?」

 土田さんの疑問に対して、護衛役の2人が

「それは、候補生制度のためね。

 普通、入庁時の階級は2士で、基本教育後3ヶ月は基礎訓練に明け暮れる事になるのだけど、在学中に候補生になり、一定以上の訓練を受けていれば、階級は1士で、基本教育後は即現場配属されるから、上を目指す子には人気なのよ。


 それに、訓練校の中で候補生というのは、エリートだからね」


「候補生に成る方法は、まず優等生になる必要がある。

 優等生は、年4回行わる総合試験で、学年・男女別成績上位10名に与えられる称号よ。そして優等生になると、個室と研修生になる資格を与えられる。

 それと勘違いしないで欲しいのだけど、 総合試験は教養学科も含む成績だから、能力アビリティ関連の成績だけで決まらないからね」


「優等生が、研修生申請を行うと研修生になれるわ。

 研修生になれば、毎週土曜日に行われる研修生訓練に参加して、教育と研修を受ける事が出来る。


 一定以上の成績を修め、候補生試験に合格すると候補生になる。

 候補生なると、候補生訓練に参加できるようになると言うわけよ。


 でもね、優等生から落ちると1からやり直しなのよ。

 だから、候補生を目指す訓練生は、同系統の能力や似たような思想を持った者達が集まって派閥を作るのよ。

 それで、派閥の内外でお互いを高め合ってくれれば良いんだけど、違う派閥の足の引っ張り合いをしているのが現状なのよ。


 そして貴方達は、現時点で最も優等生に近いのよ。

 だから、自分達の派閥に取り込めないなら、潰しに来るわ。

 正直、そんな下らない理由で、貴方達を失うつもりは無いから、必要ならいくらでも干渉するわよ」


「そんな事して大丈夫なんですか?」

 都竹さんの心配も分かる。


「それは、大丈夫。

 既にうちの司令には報告が行っていて、必要なら干渉して良いと許可を貰っているから」


 笑っている護衛役の二人に

「程々でお願いします」

 と再び釘を刺すが、中部駐屯地の女性隊員達がどの程度この件を考えてるか分からないが、軽くはない過剰干渉するだろう。



 色々と脱線したが、ゴーグルとヘッドホンを着け、高圧縮学習装置を起動する。

 既に高校卒業程度の学習は済んでいるので、医学大学の学部共通科目を選択して学習を始める。

 高圧縮学習装置によって齎される膨大な情報を、いくつも同時に処理する為、私の意識と感覚が全て情報処理に集中する。


 その為、トランス状態になってしまうので、時間経過等は全くわからない。

 なので、始めから実時間1時間で動作が終了する様に設定した。




 設定時間が過ぎ、意識と感覚が実時間に戻ってくると、軽い頭痛と目眩、強い疲労感を覚えた。

 さすが、120倍。

 まだ、私の処理能力では、処理の負荷が大きいようだ。

 ゴーグルとヘッドホンを取り外し室内を見ると、高圧縮学習装置につながる端末を満面の笑みで見つめる南雲さんと、ドン引き中の7人が居た。


 そんな周囲の様子にお構いなしに、満面の笑み南雲さんが近寄ってきて

「流石だね。

 最初から120倍を1時間も維持し続けるなんて想定外だよ。

 しかも、一度もトランス状態を切らす事無く維持し続けるなんて、凄いデータが取れたよ。

 それで、どうだった?

 120倍の高圧縮データを処理した感じはどうだった?

 やっぱり、データ圧縮率が高いから解凍処理に時間がかかった?

 それとも、展開処理の方に時間がかかったのかな?

 展開後の映像・音声データから必要な情報を抽出処理の負荷も大きいのかな?

 で、どうだった?」

 段々と早口になりながら、ズイズイと迫ってくる。


「一言毎に、顔を近づけるのは止めてもらえませんか?」

 言葉通り、私の眼の前には南雲さんの満面の笑みがある。


「ああ、ごめんなさい。つい、興奮してしまった」

 アハハと笑いながら離れた。

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