第161話 初体験(高圧縮学習装置)

 気を取り直して、真顔に戻った南雲さんは

「それでは、実際に使用した感想を教えてくれ」

 と尋ねてきた。


「そうですね、使用中の感覚は以前の60倍の物との差を感じませんでした。

 使用後は、軽い頭痛と目眩、強い疲労感を感じたので、私の処理能力を超えていたみたいです」


「なるほど、測定データでは異常は出ていなかったが、実際には過負荷状態だったと言うことか。

 これは、データを確認する必要があるな。

 他にはなにか無いか?」


「ありません」


「そうか。データの確認をする」

 そう言って、高圧縮学習装置の端末に戻り、データの検証を始めた。


 田中さん達に声を掛ける為に、向き直ると田中さんから

「神城さん。もう終わったの?」

 聞かれたので


「終わりましたよ。

 それより、どうかしましたか?」


 田中達は、お互いに顔を見合わせた後

「神城さんが、高圧縮学習装置を使い始めた後に、鳥栖さんがその装置を私達でも使えるか聞いたのだけど。

 そしたら、検査してみないと分からないと言われて、検査を受けたら2倍までなら大丈夫だからという事で、午後からやってみる事になったまでは良かったんだけど」


「南雲さんが、そこの端末に表示されるデータを見て興奮して、満面の笑みで、よく分からない言葉の独り言を呟きながら、ケタケタ笑っていたのよ。

 それに、時折、訳の分からない奇声もあげるし、近寄り難いし、不気味だったし、怖かった」


「あー、そういう事か。アレは知らないと怖いよね」

 田中さんと鳥栖さんが何を言いたいか分かった。

 アレは、耐性が無いとドン引きする。

 私は、腕を組んでウンウンと頷く。


「え、神城さんは分かるの?」


 田中さんの質問に

「分かると言うか、既に見慣れたと言った方が正確かな。

 研究者の中には、没頭すると奇声上げたり、奇行を取る人が居るからね」


 思金おもいかねにも、奇声を上げる人や奇行をする人は多かった。

 でも、皆さん優秀だから困るのだよね。

 だから、南雲さんの行動にも、特に何も感じていなかった。


「そんなのを見慣れるって、どんな環境なのよ?」


思金おもいかねの研究室に行けば、そこら中でみられるけど」


 土田さんが、唖然として

思金おもいかねの研究室に入れる環境って…」


「まあ、そんな事より、お昼に行きませんか?」


「え、もうそんな時間?」


「本当だ。食堂が混む前に行こうよ」


 土田さんが、拗ねた様に

「なんか、軽く流された」

 と呟いたが、周りから「神城さんだから」と諭され納得していた。


 なんか、釈然としない。


 全員で食堂に行く為に、南雲さんに声を掛けたが

「データの解析を優先する」

 と言ったので

「午後から、田中さん達4人に高圧縮学習装置を使用するのですよね」


「うん、ああ、そうだ」


「なら、ここで昼食を取って意識を切り替えるべきです」


「そんな事しなくても、問題無い」


 意識が、データの解析に集中しているので、簡素な回答しか返って来ない。


「彼女達は、高圧縮学習装置未経験者ですよ。

 しかも、発露直後の能力アビリティしか有していない状態です。

 さぞ、面白いデータが取れると思います。

 そのデータを見逃さない様に最善を尽くすべきではありませんか?」


「ん!

 確かに、その通りだ。

 よし、お昼に行こう」


 私達は、全員揃って食堂で昼食を取った。

 食後、宿泊棟に戻って来ると、南雲さんはすぐに田中さん達4人分の高圧縮学習装置の準備をした。


 準備が出来ると直ぐに高圧縮学習装置を使う様に迫って来たので、一旦止めた。

 まだ、食後30分程度しか立っていなく、この状態で使用すると嘔吐する可能性が高いから、もう30分は時間を置いた方が良いからだ。

 その事を伝えると、「しまった」という顔になっていた。

 完全に失念していたな。


 十分な休憩を取った後、田中さん達は高圧縮学習装置を恐る恐る使用を開始した。

 時折、「あー」とか「うー」とか唸っている。


 高圧縮学習装置には、簡易のバイタルメーター機能が付いているが、田中さん達4人には、腕輪型のバイタルメーターを着けて貰い、より詳細にモニタリングしている。

 南雲さんは、喜々として表示される4人のデータを見比べている。


 南雲さんは、4人の学習効果の比較をしたいからと言って、学習内容を同じにしている。

 その学習内容として選定されたのは、4人共苦手にしている「数学I」だ。

 私も以前は数学が苦手だったが、訓練所女子寮で都さんに教えて貰ったら、苦手意識が消えて、好きな科目になってしまった。


 その様な状態の4人を横目に、平田さんの診察を終え、自己訓練を行いながら終了を見守った。


 高圧縮学習装置を終えた4人に

「どうでした?」

 と声を掛けると


 土田さんは、頭をフラフラさせながら

「頭の中がグルグルする」


 鳥栖さんは、右手で頭を抑えながら

「頭の中で映像が、何度もリピート再生されてる」


 都竹さんは、両手の人差し指でこめかみを押さえながら

「勉強内容が頭に焼き付けれたみたい」


 各々ゴーグルとヘッドホンを外しながら答えてくれたが、田中さんだけがゴーグルとヘッドホンも着けたまま動かない。

 その事に気づいた3人が慌てて近寄り、声を掛け、触ろうとしたので止めた。

 動揺している3人を田中さんの前から退かせ、ゴーグルとヘッドホンを外して診察した。

「深いトランス状態ですが、問題有りません。

 直に目を覚まします。

 魔力塊マナ・コアも活性化してますから、このまま休ませましょう」


 私の言葉で、動揺していた3人も落ち着きを取り戻した。

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