第162話 休憩中

 南雲さんの研究室には、田中さんを横にする場所が無い為、護衛役の人達が宿泊している部屋のベットを使用する事になった。


 私が田中さんを運ぼうとすると、護衛役の2人が素早く割り込んで運んでいった。

 それを見ていた3人は、必死に笑いを堪えていた。


「どうせ、チビですよ」

 私がそう言うと、爆笑が研究室を襲った。


 その後、研究室から1階の大部屋に移動して休憩する。

 休憩と言っても、女性が7人も揃って静かに休憩となるはずも無い。

 雑談で盛り上がる。

 そのかしましい横で、置いてけぼり状態の私と平田さん。

 話題の切り替わる速さと知らない単語だらけでついていけない。

 そして、下手に突くと物凄い量のマシンガントークが襲いかかる。

 なので、そっと聞き役に徹するのだった。


 この雑談の中に南雲さんは居ない。

 南雲さんは、研究室で4人の高圧縮学習装置データを確認している。

 興味深いデータが取れたとかで、次の科目のデータにも期待を持って準備しているが、田中さんが目を覚まさないのでデータの確認作業を始めた。

 研究室に居ても仕方ないので、下に降りて来たのだ。


 南雲さんが、3人に次の科目を実施を勧めないのも

「4人の実験条件を揃えたい」

 からという理由だった。


 しばらく休憩していると、外に車が止まる音が聞こえた。

 護衛役の交代の時間になった様だ。


 大部屋には、都竹3尉を含めた4人の隊員が入ってきた。

 それを見た都竹さんが

「え、お母さん! なんで、お母さんが来るの?」

 と、驚いた声を上げた。


「久々に会ったのに、全くなんて事言うのよ。

 仕事よ。しごと。


 都竹3尉以下4名、護衛任務に着任します」


「ご苦労さまです。

 本日から4人体制になるのですか?

 寝床はどうしますか?」


「2段ベットを2台持ち込んでいます。

 今、宿直室として使っている部屋のベットと入れ替えます」


「分かりました。

 今あるベットは、1階の空き部屋に移動してください。

 今は使用しているので、設置は後でお願いします」


「分かりました。

 神城教導官

 お願いがあります」


「何でしょうか?」


 都竹3尉は、後ろに視線を送りながら

「彼女達と模擬戦をして頂けないでしょうか?」


「それは、どうしてですか?」


「神城教導官が模擬戦を行った日は、任務の為駐屯地に居ませんでした。

 なので、上位者との戦闘を経験させて欲しいのです」


「私達の実力だと、機動戦略隊隊員との模擬戦も組んで貰えません。

 お願いします」


「自分達が弱い事は、理解しています。

 でも、上位者と戦う機会を与えてください」

 都竹3尉の後ろに居る3人が懇願こんがんする。


「でも、なぜ上位者との模擬戦の機会を欲するのですか?」


「あの馬鹿共のせいで、一般隊員と機動戦略隊との模擬戦を制限していたし、伊坂君は一定以上の強さが無いと模擬戦をやらないからね」


 ああ、なるほど。

 都竹3尉の説明で理解出来た。

 以前、駐屯地で模擬戦を行った時に一般隊員が参加しなかったのは、模擬戦で上位者との対戦が制限されていた事も関係していたのか。

 だから余計に消極的だったんだ。


「分かりました。

 1人1戦なら、良いですよ」

 私がそう答えると、3人は非常に喜んでいた。


 私が、作業服を取りに一度寮に戻ると告げると、平田さんが護衛役6人を連れて地下の訓練場に連れて行った。

 私は、鳥栖さん達に

「田中さんが目覚めそうだから、ここで待っていて欲しい」

 と告げてから、作業服を取りに戻った。


 作業服を持って宿泊棟に戻り、更衣室で着替えてから1階の広間に戻る。

 広間には、田中さんと南雲さんも合流して待っていた。


 田中さんに

「体調はどうです?」

 と声を掛けると

「大丈夫、問題ないよ」

 と返答が返って来た。


「念のため」

 と断りを入れてから、鑑定を行い。

 魔力塊マナ・コアの状態も確認する。


「問題なさそうですね」

 と答えると、南雲さんが

「なら、追加でもう1科目、高圧縮学習装置を試してみよう。

 負荷を調整したから、今度は大丈夫だと思うぞ」

 と言い出した。


 なので

「それも悪くない事ですが、田中さんは目覚めたばかりなので、もう少し休憩を取った後の方が良いと思います。

 それに、これから戦術課の一般隊員との模擬戦を行います。

 後学の為にも見学させようと思います」

 そう言うと

「休憩は分かったわ。

 もう少し取りましょう。

 でも、模擬戦の観戦は意味ないと思うわ」

 と返してきた。


「それは、どういう意味ですか?」

 都竹さんが、食い掛かった。


「それはね。

 この人達の戦闘を、一般人や低能力者が見る事が出来ないからよ。

 それなりの実力を身に着けてからでないと、意味がないからよ」

 南雲さんは、至って冷静に返した。


「まあ、それを含めて体験しないと理解出来ませんよ。

 頭では分かっていても、実際に体験したものとの差は大きいですからね」


 私の意見に対して

「そう言われればそうよね。

 経験した事がなければ、私の言った意味が理解できないわよね。

 この子達のレベルと、国の上位能力者との差を身をもって知る事が出来る機会と考えれば、有意義な体験とも言えるのかもしれないわね」

 そう言って、納得していた。

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