第188話 ゴールデンウィーク(16)

 平田さんの訓練後、私は寮の部屋に戻った。

 他の人達は、厚生棟にシャワーを浴びに行った。

 訓練生だけでなく、宿泊棟に寝泊まりする面々も厚生棟に行くのは、宿泊棟にあるシャワーが1台だけだからだ。

 交代で入るには時間がかかり過ぎるので、厚生棟のシャワーを使う事になった。


 部屋に戻った私は、シャワーを浴びてから三上さんと若桜さんに、昨日の考察に基づいた実験の結果を書き、意見を求めた。

 あと、田中さんが魔力耐性を取得した旨も書いてから、送信した。

 三上さん、羽佐田さん、葉山さんに、平田さんの治療進捗の報告のメールを書いて送信した。

 平田さんの件は、定期的に報告しないと催促が来る位だから仕方ない。


 この後は、普段通り勉強と室内で出来る能力アビリティの訓練を行い、プラモデルの続きを少ししてから寝た。



 次の日もいつも通りに起き、部屋で簡単な朝食を作って食べた後、普段通りに魔力制御訓練棟で魔力制御訓練を行う。

 7時に建屋の入り口で田中さん達を待っていると、やる気に満ちた都竹さん、土田さん、鳥栖さんが元気よく歩いて来る。

 その後ろで、半苦笑いをした田中さん、南雲さん、平田さんが続き、隊員4人が着いてくる。


 彼女達を迎い入れ、いつもの訓練室に移動しながら

「今日は、随分と気合が入ってますね」

 と言うと

「田中さんが、URウルトラレア能力アビリティをゲットしたんだよ。

 私達だって、頑張れば凄い能力アビリティをゲット出来るかも知れないと思うと気合が入るわよ」

 と土田さんが鼻息荒く答える。

 その後ろで田中さんの苦笑いが深くなった。


「なんですかそれ?

 ガチャみたいに能力アビリティは、手に入りませんよ」

 ちょっと呆れ気味に言うと

「それは分かっているわよ。

 でも、凄い能力アビリティをゲットして、宮園さん達や飯田君達を見返してやりたいじゃあない」

 と鼻息を荒くしている。


 まあ、確かに、私達はクラスの中でも特に浮いている。

 私は能力訓練を免除され、田中さん達4人は、魔力制御訓練棟の使用が許可されているという優遇を受けているし、戦術課隊員達にも目を掛けて貰っている。

 その事をねたましく思っている事も知っている。


 そして、私達の中で鳥栖さんと土田さんの能力アビリティだけが、戦闘系で無い。

 現状、その事で直接突っ掛かって来る馬鹿はいない。

 何故なら、それをネタに絡んだ結果、戦術課隊員が直接鎮圧するという事件を知っているからだ。

 だから、その事について陰口を叩いているのも知っている。

 当然、その筆頭があの二人のグループだ。

 だから、良い感情を持っていないのも分かる。


「まあ、気持ちは分かりますが、希少な能力アビリティより、各人に合った能力アビリティを習得目指しましょう」

 と言うと、鳥栖さんは

「神城さんまで、そんな事言うんだ」

 ちょっと拗ねた感じで言った。


「希少な能力アビリティうらやましく思うのは、悪い事ではありませんが、希少な能力アビリティ程、使い熟すのが大変なんです。

 なので、使い熟せない能力アビリティなんて宝の持ち腐れです。


 それに、能力アビリティの取得条件というのは、まだまだ研究中で、ほとんど分かっていません。

 なので、どの様な能力アビリティがいつ発露するかはわかりません。

 分かるのは、発露直前の能力アビリティ位です。

 なので、鳥栖さんや土田さんや都竹さんにも希少な能力アビリティが発露する可能性はありますが、それよりも、一般的な能力アビリティを使い熟し、より上位に進化させる事の方が凄いですよ。

 特に、4段階目まで進化させた人は、ほとんどいませんから、成長可能な能力アビリティを習得した際には、ぜひ挑戦してみてください」

 と私が言うと

「私と鳥栖さんは、成長する能力アビリティの習得からじゃない」

 と言って、土田さんはうなだれた。


「鑑定も探知も進化しますよ。

 ただ、どちらも、範囲と種類が増える方向ですけどね」

 と言うと

「それって、どんなに頑張っても神城さんを超えられなさそう」

 と土田さんが小声で零した。


 すると、鳥栖さんが

「うん、超えるのは無理だし、同じ位に成れる自信も無い」

 と落ち込み、田中さんと都竹さんも頷いている。


「それに、そんな事言えるのは、神城さんだからだよ。

 他の同級生に言われたら、絶対、嫌味にしか感じないもの」

 と田中さんが零し

「ほんと、実力の差が開きすぎて、嫉妬する事自体が馬鹿らしいと思えるもの」

 と都竹さんが続けた。


 なんか様子がおかしい。

「あれ、みんな、どうしたの?」

 と聞くと、4人は顔を見合わせた後

「私達は、神城さんの友達だと胸を張って言える様になりたいの」

「だから、神城さんと足手まといにならない位に強くなりたいのです」

「そして、神城さんの持っていない能力アビリティで、神城さんを補助サポートしたい」

「だから、皆でもっと頑張ろうって決めたんだ」

 と真剣な表情で言ってきた。


 面食めんくらったが、不思議と心が温かくなり、自然と笑みが浮かんできた。

「あー、信じてないでしょう」

 と土田さんが私を指差して叫んだ。


 思わず、クスクスと笑いながら

「なら、頑張ってください。

 私は、貴方達が簡単に手が届く所にいませんよ」

 と言うと、4人を代表して田中さんが

「必ず、強くなってみせます」

 と力強く宣言した。

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