第216話 天才と凡愚(4)

 周囲に居た野次馬の中から中之さんが出てきた。

 野次馬の中に居たみたいだ。


「済まない。飛騨3曹が迷惑を掛けたな」

 と言ってきた。


「いえ、問題有りません」

 と答える。


あいつ飛騨3曹は、ちょっと変わっているが、真面目で素直で良い奴だ。

 ただ、物覚えが悪くてな。

 迷惑を掛けた」

 と言う。


「いえ、飛騨3曹程物覚えが良い人は初めてですよ」

 と返すと、驚愕の表情で「え゛」と呻いた。

 周囲も「はい?」と感じで驚いている。


「本当にそうね。こんな短時間でアレの基礎を習得すると思わなかったわ」

「同意」

 と山奈さんと黒崎さんも同意する。


「ちょっと待ってくれ。訳が分からん」

 と頭を抱えてしまった。

 周囲も混乱している。


「さっき教えていたのは、高速走法時の軌道変化方法だろ?」


「違いますよ。姿ですよ」

 と言うと、山奈さんと黒崎さんも同意する。


「高速機動も姿勢制御も、聞いた事もないのだが」

 と困惑した様子に

「それは当然。まだ確立したばかりの技術」

「対外的に教導したのは、今日が初めてですね」

 と黒崎さんと山奈さんが返した。


「それなら、なぜ飛騨に教える事に?」


「それは、飛騨さんだけが、高速機動と高速走法の違いに気づき、その違和感を指摘したからです」

 と私が答えると

「アレを知っていた私達教導官と市川3曹、服部3曹以外の人間でその事に気づいたのは、飛騨3曹だけだったね」

「説明は要領を得なった。でも、核心を正確に掴んでいた」

「それに、彼女、天才かもね」

「同意」

 と山奈さんと黒崎さんが続けた。


「はぁ~?。

 チョット待ってくれ。

 飛騨が天才?」

 と中之さんはかなり混乱している様だ。

 周囲にも驚きと混乱をもたらしている。


「高速機動・姿勢制御技術の習得難度は分かりますか?」

 と私が問うと

「いや、分からん」

 と返された。


「習得難易度8」

 と黒崎さんが言うと、周りが固まった。


 それも仕方が無い。

 習得難易度は、10段階で評価される。

 難易度1~3は、訓練校で習得出来るレベル。

 難易度6までが一般的に使われる。

 それ以上の難易度は、半ば専用技術的な位置づけになる。


 火の矢ファイヤー・アローを例に上げるなら

 難易度1:ただの棒状の物が1本を単発で撃てる。

 難易度2:棒状の物を1本ずつ連射で撃てる。

 難易度3:一度に2~3本の棒状の物を撃てる。

 難易度4:矢の形状を変化。

 難易度5:曲射撃ち、同時射出数が5本以上撃てる。

 と言う具合だ。

 ちなみに、火の槍ファイヤー・ランスは、火の矢ファイヤー・アローの派生系の技能スキルで、難易度4以上を習得する事で撃てる様になる。

 あと、高速走法の習得難易度は4~6である。


 以前魔物討伐に使った爆裂土槍エクスプロージョン・スピアは、難易度7だ。

 例外的に、超難易度複合技能スキルに難易度は設定されていない。

 これは、習得方法が確立していない為だ。


 山奈さんは、呆けている面々に向かって

「私達があの娘と同じレベルまで習得するのに2ヶ月も掛かったのに、あの娘は、僅か20分で基礎レベルを習得したのよ。

 

 今ここに居る者達が習得するならば、年単位で時間が必要になりそうね」

 と強い口調で言い放った。


「なあ、なら何故、飛騨はあんなに物覚えが悪いんだ?」

 と隊員の一人が声を上げた。


「簡単。理論的に考えるのが苦手だから」

 と黒崎さんが答えた。


「それと、物覚えが悪い事と何の関係があるんだ?」

 とその隊員は怒鳴り気味で返してきた。


「彼女は、物事の核心を感覚的に理解しているからですよ。

 常に物事の核心だけを理解してきたから、理路整然とした説明はかえって核心を覆い隠す事になり、理解するのに時間を要しているだけでしょう」

「そのせいか、論理的に話す事も苦手にしている様だね。

 まあ、核心を感覚的に理解しているだけだから仕方ない事だね」

「太和教導官と同じ」

 と私達が返したが、中之さんやベテラン隊員達は、黒崎さんの言葉でストンと納得出来たようだ。


 中之さんは

「そうか。取り乱して済まない」

 と言って頭を下げた。


「太和と同じ様に躾ければ良いのか」

 と言って大きなため息をついた。


 山奈さんが小声で

「中之1尉は、太和さんが機動戦略隊時代の元上官だったのよ」

 と教えてくれた。


 その中之さんは、周囲の野次馬に解散をさせていた。

 私達もその流れに乗って解散する。


 今日の担当の隊員達と合流して訓練校の寮に戻った。

 寮に戻った後は、普段通りに田中さん達に技能スキルの訓練を行った。


 その後で、翌日の予定について聞いた。

 翌日の予定は、朝はいつも通り訓練を行う。

 その後、バスで駅まで移動し、装備品のお店に行くそうだ。

 そこで田中さん達は、戦闘靴ブーツや訓練着を買うそうだ。


 購入理由は、霜月さんからのアドバイスで

「これからの訓練を考えると、多少値が張るが購入した方が良い」

 と言われたそうだ。

 なので、思い切って買う事にしたそうだ。


 その後は、街をブラブラしたり、ウィンドウショッピングをしたりしてから、寮に戻る予定らしい。


 そして、当然の様に私もそれに参加する事になっていた。

 その理由も

「優ちゃんを一人放っておいたら、絶対に訓練をするから一人にしない事。

 ましてや、同年代の同性と遊んだ事が無いから、引っ張り回してあげなさい」

 と霜月さんからの一言からだった。

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