第184話 ゴールデンウィーク(12)

 高圧縮学習装置の設定は、私は120倍で1時間行うが、田中さん達は2.2倍で1時間30分行う。

 彼女達の高圧縮映像に対する能力は、展開能力よりも維持時間の伸びの方が高かったので、この時間設定になった。

 過去の実験では、展開能力の方が維持時間より圧倒的に伸びが良かった結果が多く出ていただけに、興味深い結果だ。

 その為、南雲さんは毎回のデータを嬉々として調査している。


 ちなみに私の場合、120倍だと1時間、60倍でも1時間30分が限界だ。

 そして、2倍の場合は、2時間が限界だったりする。


 この事からも分かる様に、展開能力と維持時間の関係性はよく分かっていない。

 それぞれに関与する資質が違うのだろう。


 田中さん達4人の個別詳細は

 田中さんが圧縮率2.5倍、維持時間1時間50分

 と4人の中でトップで

 都竹さんが圧縮率2.4倍、維持時間1時間30分

 土田さんが圧縮率2.2倍、維持時間1時間40分

 鳥栖さんが圧縮率2.2倍、維持時間1時間35分

 となる。


 私が圧縮率2倍で、維持時間1時間30分に達するのに掛かった日数は3ヶ月だ。

 しかし、彼女達はわずか3週間で1時間30分を超えた。

 この分だと近い将来、田中さんに維持時間で抜かれるだろうし、他の3人にも抜かれるかも知れない。


 この様に個人差が出てきているのに学習条件を揃えているのは、学習強度の幅を調べるためだそうだ。

 常に限界値付近が良いのか、もしくはある程度の範囲に入っていれば良いのかを調べ、効率的な使用方法を模索するため


 何故と言うのは、南雲さんに理由を聞いた時、何故かしどろもどろになって答えていたからだ。

 多分、条件を揃えた経過データを見ていった方が、変化が分かりやすいから位の理由だと思うが、何も考えていなかった可能性の方が高いのかな。



 私は高圧縮学習装置を使用終了後、平田さんと一緒に1階の台所に入り昼食の準備をする。

 出来た料理を大部屋に持っていくと、高圧縮学習装置の使用を終えた田中さん達4人がソファーや椅子で思い思いの格好で伸びでいた。

 彼女達にとって、高圧縮学習装置の負荷はまだまだ重いらしく、回復するまでに30分位かかる。

 そんな彼女達も私が料理を持ってきたの見て、慌てて手伝つ為に起き上がってきた。

 無理をしない程度に、昼食の準備を手伝ってもらう。


 一方、私が高圧縮学習装置や料理をしている間、護衛役の4人は地下の訓練場で自主訓練を行っていた。

 都竹3尉が戦術課の一般隊員を率いて来て以来、ここに来る隊員は以前よりまして熱心に訓練を行うようになった。

 だから、今日の彼女達の鬼気迫る自主訓練は、その影響だと思いたい。

 決して昨日のカロリーを消費するためでは無いと…。



 ともかく、4人に声を掛けお昼ごはんにする。

 食事中に土田さんから

「神城さん。買ったプラモデルはもう作ったの?」

 と質問が来たから

「今、片方のプラモデルの作成を行っています」

 と答えると

「そうなんだ。

 うちの弟なんて、買ってきた日に一気に組み立ててしまうから、どの位進んだのかなと気になって」

 と言うので

「私の場合、1日に説明書の1~3項目位ですよ」

 と答えると、ちょっと驚いた感じで

「へぇー、随分とゆっくり作るんだね」

 と返してきた。


「私は、1日の作成時間を30分から1時間にしていますし、部品の形状や構造まで覚えながら作っていますから、どうしても時間が掛かります」

 と答えると、驚いた様で

「え、どういう事?

 プラモデルを作るのに、部品の形状や構造を覚える必要あるの?」

 と聞いてきた。


「普通なら必要ない事ですが、私には必要な事なのです」

 と言うと、皆疑問に思ったようだ。

 なので、食器を置き、右掌を上にして皆に見える様にする。


 右掌に視線が集中したのを確認してから、土の能力アビリティで1番最初に作った高さ18cm位の人形のプラモデルを再現すると、二人以外は人形の模型を驚愕の表情で注視している。

 驚愕していない二人は、南雲さんと平田さんだ。

 南雲さんは、興味深そうに見ている。

 平田さんは、不思議そうな顔をしている。

 再現した物を机の上に置くと、視線も机の上の模型に移動した。


「この様に能力アビリティで再現するために、部品形状や構造を覚えています」

 と言うと、南雲さんと平田さん以外は驚嘆の表情を浮かべたまま私を見た。


 土田さんが、恐る恐ると言った感じで

「神城さん、それ、触っても良い?」

 と聞くので

「どうぞ」

 と返したが、土田さんが座っている場所からだとちょっと遠い。

 だから、机の上に身体を乗出して手を伸ばしているが届かない。


 なので、模型を動かす。

 模型は、土田さんの前まで移動して停止した。

 全員が、固まって動く模型を注目している。


 土田さんが、驚きのためか震えた声で

「神城さん、この模型、自分で歩いてきたんだけど」

 と聞いて来た。


「ええ、歩かせましたよ」

 と言うと

「歩かせた!!」

 と大げさすぎる位に驚いている。


「大げさですよ。

 土の能力アビリティで作った物を動かしただけですよ」

 と言うと興奮して

「動きとかもアニメと一緒ですよ。

 これって、走ったり武器を振り回したり出来るの?」

 と模型を見ながら大声で喋っている。


「出来ますよ」

 と言った後、模型を走らせ、武器を振り回す。


 土田さんは、目をキラキラさせながら見入っている。

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