第98話 資源ダンジョン(9)

 太和さんは、唸りながら

「それだけじゃないぞ。

 公開演習時に会った機動戦略隊の4人以外に、どの程度、神城の情報を渡すか、まだ決まっていない。

 だから、危険を覚悟で乗り込むか、機動戦略隊の本隊を待つかの2択しかない。

 そして、先遣隊としての役目は十分果たした。

 だからこそ、進退に悩む」

 と言った。


「でも、被害が出るなら、機動戦略隊の本隊を待った方が良いのでは?」


「そこが悩みどころだ。

 今なら、神城込みの戦力計算だが、機動戦略隊の本隊が対応するなら神城抜きになる。

 そうなると、恐らく機動戦略隊の本隊の方が被害が大きいと思う」


「機動戦略隊の本隊の戦力だけなら、問題は無い。

 軍隊アーミータラテクト案件なら、全国7箇所に分散している戦略課隊員を集結する。

 ランクA5人を含む機動戦略隊400が主力、戦術課隊員1600を補助戦力として前線に投入。

 兵站等のバックアップとして、防衛課が隊員を2000投入。

 問題は時間が掛かる事。


 軍隊アーミータラテクトの群れも、時間が経つと復活するし賢くなる。

 だから、軍隊アーミータラテクトの群れの殲滅からやり直し。

 討伐までの時間も掛かるから、被害も大きくなる。

 ここは、私達で討伐した方が良い」

 と黒崎さんは、討伐を支持する。


「それに、この場所。

 この高さまで上がってくる方法が、あちら機動戦略隊にはありません。

 そうなると、工事現場で使われている足場を組むしか無いでしょう。

 機材を此処まで持ってくるとなると、相当な量の資材と人を投入する必要がある上、軍隊アーミータラテクトから防衛も必要になります。

 正直、手に負えないと思う。

 そうなると、否応なしに出動依頼が来るから同じ事だと思います」

 山奈さんは、現状から討伐を支持する。


「他の人は、土の能力アビリティで同じ作った足場を作れないの?」

 私の驚きに対して


「出来ない。

 同じものを作るら、ランクC以上の土の能力アビリティ持ちを最低20名は集める必要。

 しかも、足場作りに参加した隊員は、魔力欠乏状態になる。

 だからその後は、ただの役立たず。

 護衛と討伐隊も一緒に上がる必要があるから、最低3倍の60名で40名上がれば良い方、螺旋状の階段を作りながらなら、20名入れば時間は掛かるけど、なんとかなるかも?

 世界的に見ても、同じ事が出来る土の能力アビリティ持ちはほんの数人。

 それだけ規格外の事をしている」


 黒崎さんの説明に驚いていると、太和さんが

「これが実情だ。

 だから迷っている。

 リスクを極力下げるのが、パーティーリーダーの責務だからな。

 それに、この面子で挑むとなると、流石に無傷とはいかない。

 極力、死亡は避けたいと思うが、コレばっかりは状況次第だからな」

 そう言って、頭をガシガシと掻いている。


「貴方の感覚と実情の差が大きくて驚いた?

 でもね、私達にとっても貴方の能力アビリティの質と数、魔力量は驚異なのよ。

 どんなに努力しても届かない、遥か高みに貴方は居るのよ。

 だから、能力アビリティを全開にした貴方に対して、私達は何も出来ない。

 貴方の力の奔流ほんりゅうに巻き込まれれば、死にかねないから。


 この先に女王クイーンが居た場合、貴方に本気を出して貰わないといけないの。

 その結果、貴方が私達を巻き込んで、怪我を、最悪死亡させた時の事を懸念しているの。

 そして、貴方が負ってしまう心の傷を一番心配している。


 だから、ここに来て進退を迷っているのよ。

 貴方に、これ以上の重荷を背負ってほしくないから」

 山奈さんの言葉で、私は何も言えなくなった。


 暫くの沈黙の後


「よし、決めた。

 先に進もう。


 神城、先に言っておく。

 支配者階級の居るボスの間には全員で行く。


 そして、ボス戦は、能力アビリティを全開にして戦え。

 俺達を巻き込む事を恐れるな。

 いいな。


 それでは、作戦を伝える。

 まず、敵の特徴だが、将軍ジェネラルは、騎士ナイトより一回り大きく、近接特化だ。

 装甲が厚く、装甲の破壊は神城以外は、絶望的だ。


 一方、宰相チャンセラーは、体のサイズはタラテクトより少し大き程度だが、素早く、罠や支援・攻撃魔法を使う後衛型だ。


 女王クイーンだが、グレータータラテクトより少し小さいぐらいで、近接・遠距離どちらもこなせる万能型だ。

 女王クイーンの特徴的な攻撃は、口からの破壊光線だ。

 こいつに耐える方法は無い、だから避ける事。

 口に魔力を集めだしたら要注意だ。


 ボスの間は、将軍ジェネラル宰相チャンセラーの2体が同時に襲ってくる可能性高い。

 その場合、将軍ジェネラルの対応は、神城に行ってもらい。

 宰相チャンセラーの対応は、神城以外で行う。


 そして、女王クイーンも同時に居た場合、

 神城は、女王クイーンに注力しろ。

 可能なら、将軍ジェネラル宰相チャンセラーから引き離して戦って欲しい。

 将軍ジェネラルは、俺、戸神、霜月の3人で対処する。

 宰相チャンセラーは、山奈と黒崎の2人で対処しろ。


 神城、最悪、俺達を巻き込んでも良い。

 だから、何が何でも

 全員、戦闘準備は良いか?」


 太和さんの掛け声に全員が頷く。

 全員で、ボスの間に向かって歩き出す。


 私一人が突入するのが、最もリスクが少なく、最も勝率が高いはずなのに、全員で行く事を選んだのは太和さん達の心意気だと思うと、何も言えなかった。







 同時刻、機動戦略隊先遣隊は、7層ダンジョン・コアのある部屋に居た。

 此処に来るまでに、魔物の1体にも会うこと無く駆け抜ける事が出来たので、これ程の短時間でこの場所に到着した。


 周囲を確認した伊坂は

「誰も居ないな」

 と零す。


「野営した痕跡はあるから、今朝ここに居たのは間違い無いだろう。

 高月こうつき、教導官達の痕跡を追えないか?

 匂いとかで」

 副隊長の山本が同行隊員に声を掛けた。


「犬じゃ無いんです、だから追えませんよ」

 と返す。


「この階でも魔物が居ない事から、教導官達が殺られたとは思えない。

 何処に行ったんだ?」

 と伊坂が愚痴を零すと


「駐留部隊の話では、少女をサポーターとして連れて行ったというから、無理はしていないでしょう。

 ただ、教導官達の仕業と思われる大規模破壊の痕跡は、何なのでしょう。

 非常に気になります」

 と同行隊員の平田が淡々と状況を述べる。


「それは、俺もすげー気になった」

 と山本が、陽気に言うと


「やはり、到着直後に突入すべきだった」

 と伊坂が後悔の念を口にする。


 山本は、ため息をつき

「お前なー。

 何度も繰り返すな。

 救援要請から最短で駐屯基地まで来たんだぞ。

 移動だけも相当疲れるのに、その状態でダンジョンに潜るなんて自殺行為だ。

 だから、十分な休息後、朝一でダンジョンに突入したんだろ」

 と返す。


「移動で疲れたと言っても、俺達はただ車に乗っていただけだろ」

 と伊坂が更に愚痴を言う。


「そもそも隊長が急かせるから、先遣隊30名の内、私達4人が先行しているのでしょう。

 本来なら6人パーティー4チームと地上待機6名の構成でダンジョンに潜る予定だったんですよ。

 まだ、後続隊は追いついていないのです。

 焦っても意味がありません」

 と高月が宥める。


「兄貴が居れば、教導官達の痕跡を追えたかも知れないと思うと、歯痒いな」

 と伊坂が更に愚痴ると


「この場に居ない人間の事は言ってもしょうが無い。

 後続隊に、探知の得意なやつがいたな。

 そいつが到着次第、7層の本格的な調査をしよう。

 今は、待機すべきだと言っても聞かないだろう。

 だから、休憩後、7層を周って隠し通路が無いか確認してから、入り口で到着を待てば良いんじゃないか?」

 山本がこれからの方針を提案した。


「よくわかっているじゃないか。

 10分の休憩後、7層を見て回るぞ」

 と伊坂は号令を掛けた。

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