第30話 ショッピングモール

 朝、普段どおり7時に目が覚めた。

 朝のルーティンを熟してから、リビングに向かう。

 母さんが、朝食の準備をしていた。

 父さんは、TVでニュースを見ていた。

 舞は、まだ起きてきていなかった。

 挨拶をして、水を1杯貰って飲んでからダイニングテーブルに着いた。

 朝食の準備が終わる頃に、舞が起きて来た。

 服装は、昨夜のまま、私が男の時の寝巻きだった。


 みんなで朝食を食べた後、着替えのために両親の部屋に連れ込まれた。

 そこに、両手に服を入れた紙袋を抱えた舞もやって来た。


 「これ、中学に入る位の頃の服と制服ね」

 舞から制服の入った紙袋を受け取る。


 舞は、今は身長が155cmあるが、中学入学の頃は今の私と大差ない身長だった。

 この2年で急激に大きくなったため、昔の服がタンスの肥やしになっていた。


 母さんと舞は、もう一つの紙袋から服を取り出し、私と服を見比べながら今日着ていく服を選んでいた。

 服選びに30分位掛かった。

 選ばれた服を渡されたので、持って自室に戻ろうとしたら。


「あら、何処に行くの?」

 と母さんが疑問を呈する。


「え、着替えてくるんだけど?」


「ここで、着替えてよ」

 と舞が言うと

「そうね。着替えた姿みたいからここで着替えましょう」

 と母さんも同意した。


「え、でも、恥ずかしいし・・・」

 段々と小声になりがら答えると


「お姉ちゃん、女同士何だから恥ずかしがる必要はないよ」

「舞ちゃんの言う通りね。ここで着替えましょうね」

 二人して、笑顔で圧力を掛けてくる。


「分かりました」

 ガグっと頭を垂れて了解した。


 二人を意識しないようにして着替えるが、見られているので恥ずかしい。

 顔が熱い。多分、赤くなっていると思う。

 二人が、ヒソヒソ話をしているのが見える。


「お兄ちゃん かわいすぎない?」


「可愛いわよね」


「可愛すぎて、やばいよ~」


「恥ずかしがって、縮こまっている姿なんて、怯えてる子猫みたい」


「ああ、わかる~」


 着替え終わったので着付けを確認してもらった。

 そのまま、髪を梳かれ首の後ろより少し下辺りで、リボンで一纏めにされた。

 鏡で、姿を確認する。

 青っぽい長袖のブラウスに白と黄緑のチェック柄のスカート身につけた自分に、恥ずかしくなった。正直、これが自分でなかったら見惚みほれていたと思う。


 舞から譲られた服を自室に持って行って、リビングに戻ってきた。

 父さんは、私が服を自室に運ぶ姿と自室から戻ってくる姿を呆けた顔でずーと見ていた。


「父さん、どうしたの?」

 私が、首をかしげながら聞いた。


「いや、なんでも無い。なんでも無い。

 ただ、まだ、優の今の姿に慣れていないだけだ」

 父さんは、ちょっとどもりながら答えた。


 リビングで若干挙動不審な父さんと一緒に母さんと舞の支度が終わるのを待つ。

 二人の準備も出来たので、父さんの車に乗ってショッピングモールへ向かう。

 今回向かうショッピングモールは、最寄りのショッピングモールではなく、車で1時間位掛かる離れた場所のショッピングモールだ。

 この場所の選定理由が、私が知り合いに不用意に会わないためだ。

 私がまだ知り合いに会うための心の準備が出来ていないだろうから、知り合いに会うリスクを減らすことで、ゆっくり買い物をしようという事らしい。

 あと、紹介したいお店があるとか。


 ショッピングモールの駐車場に車を止め、待ち合わせ場所に向かう。

 ただ家族と一緒に歩いているだけなのに注目されている。


 大勢の人に注目されて、萎縮していると母さんが、私の手を繋いで

「大丈夫よ。しっかり前を見て歩きなさい」

 を言われた。


 言われた通り、前を向いて歩こうとするが、大勢の人の視線が痛い。

 ついつい俯き気味になってしまう。 

 そんな私に母さんは、手を繋いで歩く事にしたようだ。


 そんな感じでしばらく歩いて、待ち合わせ場所に着くとそこには、氷室さん以外にも若桜さんと霜月さんも居た。

 どうやら二人は、氷室さんが誘った様だ。


 お互いに挨拶をすると、父さんは単独行動すると言う。なんでも、女6人に男1人でしかも私の買い物だから、居づらいとの事。


 父さんは

「ゆっくり買い物を楽しんで来て、俺は適当にぶらついて来るから」

 そう言って何処かに行ってしまった。


「お父さん、逃げちゃったよ」

 と舞が言うと

「大丈夫よ。

 お昼は合流するでしょうから、その時に荷物を預ければ良いのよ」

 と母さんが答える。


「そっか。なら大丈夫だね」

 二人共、父さんに荷物持ちやらせる気満々だったんだね・・・


 まず最初に訪れたのが、下着売り場・・・当然、逃げようとする私は、右手を母さん、左手を若桜さんに手を引かれ、背中を舞が押す。

 氷室さんが前を歩き、霜月さんが後ろから付いて来る。

 為す術もなく下着売り場に連れ込まれる。


 男性にはものすごく居づらい環境に、真っ赤になっていた。

 氷室さんが年配の女性スタッフに声を掛けていた。

 周りのスタッフや女性客達が、生暖かい目で私を見ているのが分かるけど、この状況でアップアップしている私には何が起こっているのか分からなった。


 年配の女性スタッフと一緒に試着室に入る。


「なにをするんですか?」

 緊張のため、声が掠れてしまった。


「大丈夫よ。フィッティングをするだけだから」

 しゃがんで目線を私に併せて、優しく微笑みながら答えてくれた。


「フィッティング?」


「そうよ。

 貴方の胸のサイズを正しく測るのよ。

 自分に合ったブラジャーを着けないと、形が崩れてしまったり、胸が痛くなったりするのよ。だから自分のサイズを知るための測定を行うの。

 恥ずかしいかも知れないけど、おばさんに測らせてね」

 と優しく言われた。


「はい、お願いします」

 と小さな声で答えた。


「そのままの格好だと測れないから、悪いけど上に着ている物は脱いでもらえる」

 と言われた。

 私は言われた通りブラウスを脱ぐと、女性スタッフは素早く首に掛けていたメジャーを使って、胸周りを測って手持ちの紙に書き込んでいった。


 外に居るスタッフに声を掛け、書き込んだ紙を渡した。

 外にいるスタッフは、ブラジャーを持ってきた。

 私のブラジャーを脱がして、持ってきたブラジャーを私の胸に当て、細かく調整していく。作業を続けなら、ブラジャーの付け方や調整方法を教えてくれた。


「はい、終わり。お洋服をもとに戻していいよ。

 この紙に書いてあるサイズのブラジャーなら好きな物を選んでね。

 サイズの見方が分からなければ、今日一緒に来たお姉さん達がわかるから聞いてみてね。あと、このサイズのブラジャーがきついとか合わないと感じるなら、サイズが大きくなっているかもしれないから、またフィッティングを受けてね」

 そう言って、服装を直した私に一枚の紙を渡してくれた。

 その紙を持って母さん達の元に戻った。


 その後の母さん達は、様々な下着を私の元に持ってきては品評を行いながら決めって行った。

 その中にサニタリーショーツとか有って、サニタリーショーツとか他のと何が違うが分からない?と首をかしげていると、近くに居た女性スタッフから生理用のショーツで、ナプキンで受けきれなかったものを受け止めてくれるショーツだと教えてくれた。

 私は真っ赤になってうつむいてしまった。

 周囲の女性陣からは、微笑ましいモノを見た表情になっていた。


 下着に続き、寝巻き・室内着・靴・ボディケア用品と購入していく。

 流石に猫や犬の着ぐるみパジャマを持ってきた時は全力で拒否したけど、私の意見は殆ど通らなかった。

 シンプルな物でいいのに・・・。


 そろそろお昼時なので、父さんと合流する。

 イタリアン系のお店に決めた後、私達は中に入って席を取り、父さんは一旦荷物を置きに車に戻った。


 父さんがお店に戻ってきたので、料理を注文した。

 お互いに雑談をしながら、食事を楽しんだ。


 午後は、若桜さんの友人のお店に向かう。

「ここが、私の友人のお店よ」

 若桜さんの友人のお店は、ショッピングモールの端の方にある小さなお店だった。


「この時間なら、居るはず」

 と言う。


 そのお店は、非常に少女らしく、華やかで、お人形のような服や小物が並び、10数人の様々な年齢層の女性が店内で商品を真剣な眼差しでみている。

 今日の買い物が後、私のアウター数点だけって事で着いてきた父さんには、非常に入りづらい空間だった。


「あの、このお店って、ロリータファッションのお店ですか?」

 と舞が確認する。


「そうよ、ここは県内でも数少ないロリータファッションの専門よ」


「ちょっと、お店見てきます」

 若桜さんの返答を聞いた舞は、お店に突撃して行った。

 あいつ、こういうの好きだったのか。


 私と父さんが呆然としていると、若桜さんに手を取られた。

「それじゃあ、私達も入ろう」

 と言って、手を引かれる。


「私は、こういう服は・・・」

 顔が赤くなっている自覚がある。


「大丈夫だ、ここの店長に用があるだけだ。

 それとも、興味があるなら一着用立ててもらうか」

 霜月さんに笑いながら言われた。


 若桜さんは、私の手を引いてお店に入っていく。


 助けを求めて、父さんと母さんを見るが、母さんは

「優ちゃんにロリータファッション、何が似合うかな」

 とか言って、父さんを呆然させてる。


 若桜さんは、お店の奥のカウンターに居るスタッフに、店長に会いに来た事を告げると、直ぐにスタッフルームに入って行った。

 店員さんも当然、ロリータファッションで身を固めていました。


「いらっしゃい、よく来たね」

 白いYシャツに黒のスラックスを履いた女性だった。


「ヤエ 久しぶりー」

 と言う若桜さんに

「久しぶりだな。八重花やえか

 と言う霜月さん。


「お邪魔してます」

 と氷室さんが言う。


「霜月先輩に氷室 お久しぶりです。

 メグの話だと、服の見立てをして欲しいと言っていたけど、誰の服を見立てるのかな?」

 と、たぶん店長さんが答える。


「この子よ。神城 優ちゃんていうのよ」

 若桜さんに、店長さんの前に押し出された。


「はじめまして」


「この子ね、はじめまして

 ロリータファッション専門店ピクシーゲートの店長 太和たいわ 八重花やえかです。

 どの様な服をお求め?

 貴方なら、甘ロリ、クラロリ、ゴスロリ、華ロリ、どれも似合いそうね。

 特に、クラロリ、ゴスロリがよく似合うよ」

 と挨拶早々に、ロリータ服を勧められる。


 え、ロリータ服買うこと決定済??


「こら、ヤエ。

 優ちゃんが困ってるでしょ。

 事前に連絡したように普段使いのアウターを数点見立てて」

 と若桜さんが、文句を言った。


「悪い、悪い。

 かわいい女の子を前にしたら、是非とも自分のデザインした服で着飾らせたいと思うのは仕方がないでしょう。

 どりあえず、移動しよう」

 そう言って、お店の外に出て行く、私達もそれに続いて行く、途中で父さんが舞に声を掛けて合流する。


 そして、そのまま隣の洋服店に入っていく。


「アパレルショップ ヤエにようこそ」

 お店に入るなり、笑顔で言われた。


「えーと、このお店も店長さんのお店?」


「その通りよ。このお店もヤエが経営しているのよ」

 と若桜さんが言う。


 そこそこの広さに明るい店内、陳列も見やすくされている。

 洋服以外にも、小物も充実している。

 そのためか、先程のお店より賑わっている。


「ここは、八重花がデザインした衣服・小物や厳選した衣服・小物をリーズナブルな値段で売っている店だ。」

 と霜月さんが説明してくれた。


「へぇー、すごいんですね」


 お店の奥に進んで、カウンターがある付近まで来ると

「ところで、モデルやってみない?」

 店長さんは、私の目線に合わせて、そう訊いてきた。


「ヤエ、どういうつもり、一応概要は教えたはずよね」

 若桜さんが、低い声で訊いていた。


「聞いたよ。

 でも、これ程の素材を放置出来ない。

 だから、デザインの資料用とかお店の店頭ポスターとかカタログのモデルもお願いしたい。

 当然、相応の対価は払うよ。色々と入用で費用がかさんでいるはずだよね。

 モデル代として、うちの衣服の上下セット6点でどう?

 氏名とかの情報は、当然伏せるから」

 と、八重花さんは、提案する。


 私は、どうしていいか分からず周りを確認する。

 父さんは、苦笑い。

 母さんは、真剣に悩んでる。

 舞は、「やったほうがいい。」と賛成

 若桜さん達は、一理あるけどどうした物か検討している。一般保護との兼合いを考えているのかな。


「秋物と冬物 3点ずつに出来ます?」

 母さんは、八重花さんにそう切り出した。


「可能だよ。冬用のコート1着もおまけに着けよう」

 と八重花さんが答える。


 母さんは

「優ちゃん、モデルの件お願いできる?」

 と言ってきた。

 やっぱり、お財布が厳しいみたいだ。


「氷室さん、モデルって受けても大丈夫ですか?」


「太和さん、お店で使う以外に写真等の管理は大丈夫ですか?」

 と氷室さんが問うと


「大丈夫。

 資料、ポスター、カタログ以外には使わないから。

 カタログも店舗用にしか載せないよ。

 それに、執拗に個人情報を訊く不埒な連中は、旦那に対応してもらうから」

 八重花さんは、軽い感じで応じた。


「まあ、大丈夫でしょう」

 氷室さんは、渋々といった感じで答える。


「彼女も、ある意味うちの関係者だしな」

 と霜月さんが、変な事を言った。


「ん? 店長さんが関係者?」

 と聞くと


「彼女の名前を聞いて分からなかったか?」

 霜月さんから、逆に問われた。


「店長さんの名前?

 確か、太和 八重花さんですよね?」

 と答えると


「そうだ。優ちゃんも会っているぞ」

 霜月さんが、ちょっと苦笑いをしている。


「私が会った太和さんって、太和教導官?」


「その太和教導官の奥さんがヤエですよ」

 と若桜さんが答えを言った。


「えーーーー」

 私は、驚いて凝視していた。


「美女と野獣カップルとして、東海支局では有名です」

 と氷室さんが言うと


 八重花さんは

「いやー、照れるな」

 と言って、後頭部に手を置いた。

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