第165話 戦術課 一般隊員との模擬戦(3)

 職務だから仕方ないとは言え、先輩隊員年上を叱るというのは、精神的にも肉体的に辛い。

 さて、気を取り直して色々と考え込んでしまった3人組に向き直る。


「さて、佐伯3曹。

 先程も言いましたが、貴方の魔力制御・威力共に問題は有りませんが、改善した方が良い箇所は有りました。

 それは分かりますか?」


 数瞬悩んだ後

「やはり、決め手になる攻撃が無い事でしょうか?」

 と答えた。


「いえ、決め手まで含めるなら、そこに至る過程が重要になるでしょう。

 そこまでの事ではありません」


 そう言われて、更に1分程悩むが

「分かりません」

 と答えた。


 私は、無言で20m程離れた場所に、的となる500mm✕1500mm✕100mmの石板を5枚立てる。

 その行動に、都竹3尉と平田さんと南雲さん以外は驚いていた。


 手の上に、1つの石を生成する。

「この石は、佐伯3曹が使っていた物と同じものです。

 恐らく、硬い石を想像して作られたと思います」

 私の言葉に対して

「その通りです」

 と回答が返ってきた。


 右端の石板に向かって、生成した石を撃ち出す。

 石は、石板に当たり、石板に表面を浅い穴を空けて砕けた。


 再び同じ石を生成する。

「先程と同じ石です。今度は、撃ち方を変えます」


 右端から2番目に向かって、生成した石を撃ち出す。

 違いは、射出方向に向かって右回転の回転を与えている。

 的は、1番目の的より一回り大きい穴を空けて砕けた。


「この通り、ちょっと撃ち方を変えるだけで、威力が上がります。

 更に形状を変えてみます」


 再び同じ石を生成し、弾丸状に成形して、回転を加えて撃ち出す。

 2番目の的より深い、すり鉢状の穴が空き、穴の中央から四方にひびが入った。


「この様に同じ材質の石でも、撃ち方・形状に依って威力が異なります。

 次に材質を変えてみましょう」


 私は、先程の石と同じ大きさの水晶を生成し、無回転で右端から4番目の的に撃ち出す。

 的は、2番目の的と同じ位の大きさの穴が空いていた。


「この様に、材質を石から水晶に変えるだけでも威力が上がります。

 水晶の弾丸の威力も確認してみましょう」


 水晶で弾丸を作成して、最後の的に撃ち出す。

 石板背面が爆発した。

 表面には、弾丸が空けた小さな穴がある。

 恐らく、石板に入り込んだ弾丸が砕け、石板背面を吹き飛ばした様だ。


 私が確認の為に歩いて石板に向かうと、全員が大慌てで石板に向かって走った。

 彼女達は、石板の背面を見て驚いている。


 私が石板の元にたどり着き、背面を確認する。

 ものの見事にすり鉢状の穴が空いていた。


 この威力なら、そこそこの防御力を持つ魔物相手にも十分な威力を発揮するだろう。

「この様に弾や撃ち方を変える事で、色々な効果をもたらします。

 水晶の弾丸たまなら佐伯3曹でも、巨大蠍ジャイアント・スコーピオン鎧羊アーマード・シープ相手に十分な殺傷能力を発揮するでしょう」

 巨大蠍ジャイアント・スコーピオンは、そのままさそりを大きくした様な魔物で、硬い外殻と素早い動作で鋏と毒針を持つ尾の攻撃が特徴の魔物だ。

 鎧羊アーマード・シープは、羊が硬い外殻を纏ったような魔物で、その外殻はアサルトライフルの弾も弾く。

 そして、特別な攻撃は無いが、集団で突進してくる厄介な魔物だ。


 佐伯3曹は、呆然と聞いていたが、理解が追いつくに従って表情が明るくなり

「はい、頑張ります」

 と、大きな声で返事をした。


 私は、浅野3曹の向き直り

「浅野3曹、何故水の能力アビリティを使わなかったのですか?」


 私の質問に対して、浅野3曹の悔しそうに顔を歪め

「私の水の能力アビリティは、具現化系です。

 戦闘に使うものでは有りません」

 という回答だった。


 私は、心底呆れた。

 他の隊員は何も反論しない事からも、この認識が一般的なのだろう。


「分かりました。そこで見ていなさい」

 そう言って、皆からよく見える位置で10m程離れた位置に移動し

「都竹3尉、全力で私を攻撃しなさい」

 と指示を出す。


 都竹3尉と護衛役2人以外が驚愕の声を上げる中、都竹3尉の全力の攻撃が降り注ぐ。

 私と都竹3尉との間に薄い水の膜を張り、全ての攻撃を受け止める。

 30秒にも及ぶ攻撃の中で、「コレでも突破できない」、「ならば、コレならどう」、「なら、次はコレ!」等試行錯誤しながら本気の爆炎が襲う。

 爆炎が上がる度に、田中さん達から悲鳴が上がる。


「これで、最後」

 と絶叫しながら特大の炎の槍フレイム・ランスが水の膜に襲い、特大の爆炎が吹き荒れ、一際大きな悲鳴も上がる。


 田中さん達は、爆炎が晴れ無傷の私を見て安堵した様だ。

 一方、今日戦った3人は呆然としていた。


 私が無傷な事では無く、私と都竹3尉との間に張られた薄い水の膜の前に、都竹3尉の全力の攻撃が全て無効化された事に驚いているのだ。


 護衛役の二人は、駐屯地で模擬戦を行った事のある人なので、全く驚いていない。


 私は、無言で先程と同じ石板の的を生成した。

 場所的は、訓練場の中央付近だ。


 その的に、水の膜から小指の第1関節位の大きさの水を5個分離し、弾丸を形成して連続で撃ち出した。


 私は水の膜を側に浮かべたまま、その的に向かって歩き出す。

 都竹3尉が私に続いて移動を始めると、呆けたように見ていた残りの人も移動を初めた。


 的の石板には、5個の直径10mm位の深さ3mmの窪みが出来た。

 その窪みの中央には、直径1mm程度の穴が貫通穴が開いている。


 それを見た都竹3尉が

「相変わらず、非常識な威力ね」

 とこぼすのだった。

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