第164話 戦術課 一般隊員との模擬戦(2)

「詳細な評価とアドバイスは後にしましょう」

 そう言って、訓練場の中央付近に戻る為に歩き出す。


 それを見た最後の対戦相手、佐伯さえき 由美ゆみ3曹が大慌てで対戦位置に走って行った。


 他の面々は、壁沿いの観戦場所に戻っていった。


 私が、対戦位置に立ち、都竹3尉が審判位置に着いた。

 都竹3尉の合図と同時に、石礫ストーン・バレットを放ってきた。

 大きさは5cm程度の小石だが、秒間5発で射速も威力も申し分ない。

 1mmの鉄板なら、簡単に突き破るだろう。


 私は、ナイフで全て叩き落とす。


 10秒程経過すると、石礫ストーン・バレットを維持しながら、長さ1m直径3cm程の岩槍ストーン・ランスを秒間1発撃つという攻撃に変わった。


 私は、石礫ストーン・バレットをナイフで叩き落しながら、岩槍ストーン・ランスを全長20mm、直径5mmの弾丸状の水晶を作り出し、回転を加えて初速420m/sで迎撃する。

 ほぼ両者の中央付近で、水晶の弾丸を受けた岩槍ストーン・ランスは爆散する。

 この後は、迎撃速度を徐々に上げていき、佐伯3曹に近い位置で岩槍ストーン・ランスを爆散させて行く。


 佐伯3曹は、岩槍ストーン・ランスを2m位の位置で迎撃されたのを期に、孤を描く様に横に周りながら撃ち始めた。

 岩槍ストーン・ランスを3発撃った所で、つんのめる様に動きを止めた所に、地面から生える水晶の槍が首元手前5cmの所で止まっている。


 都竹3尉が私の勝ち名乗りを上げる。

 私は、ナイフを収めると同時に、具現化した物を全て解除して霧散させる。


 佐伯3曹は、槍が無くなるとその場にへたり込んだ。


 嶋3曹と浅野3曹が、佐伯3曹の元に駆け寄り手を引いて立たせる。

 その後、3人は私の前に横一列に並ぶ。

 その後ろに田中さん達と一緒に居た2人隊員が並び、その後ろに田中さん達も並んでいる。

 君達は、なんで並んでいるの?


 私の横に都竹3尉が立ち

「これにて模擬戦を終了します。

 神城教導官、総評をお願いします」

 模擬戦の終了を告げ、総評を振ってきた。


「まず、3人共ランク相応の実力です。

 ですが、課題もかなり在ります。

 嶋3曹、初手最強技なのは良いですが、その後に続く展開が無いのと、攻撃が単調になっている点は要改善です。

 だからといって、飛び蹴りなんて安易な考えは捨ててください。

 空中で方向転換等が出来なければ、ただの動く的です」


 嶋3曹は、誰が見てもわかる程動揺している。

 これは、初手飛び蹴りを考えていたな。


「浅野3曹、貴方の薙刀捌きに問題は有りません。

 問題は、想定外の事をされた時の対応力です。

 思考停止で無防備になる事は避け、防御もしくは回避を行う事です。

 最悪攻撃を受けても、致命傷を避ける行動を取る事です」


 浅野3曹は、やや落ち込み気味に「はい。分かりました」と答えた。


「嶋3曹と浅野3曹に共通する問題は、身体強化の魔力制御方法です。

 貴方達は、全身均等に魔力を配分しています。

 それでは、非効率です」


 そう言われた2人は、顔を見合わせて不思議そうな顔をしている。


「ならば貴方達自身の魔力を、どの位力として使えたと思いますか?」


 私の問に嶋3曹と浅野3曹の反応は

「悪いと言われたから、60%位かな」

「私も50%位だと思います」

 だった。


「貴方達2人は、攻撃・防御・移動、どれを取っても20%しか使えていません」

 私が真実を告げると、二人は『え!』と驚きの声を上げ、固まってしまった。

 他の人達もそこまで低いと思っていなかったようだ。


「全身に均等に力を割り振っているので、戦闘に関係ない部位にまで力を割いています。

 無駄に使っている力が悪さをして、更に効果を落としています。

 だから、全ての力が20%位しか出せていません。

 まさに、魔力制御の悪い見本です。


 体の各部位に対して魔力制御を行ってください。

 そして、攻防にメリハリの効いた魔力制御を行うことで、倍以上強く成れます」


「「はい。わかりました」」

 二人共、何処を改善したら良いか分かったからか、希望に満ちた顔をしていた。


「佐伯3曹、貴方の魔力制御・威力共に問題は有りませんが、周囲への警戒が疎かになりがちです」

 そう指摘すると、佐伯3曹は悔しそうにうつむき気味にして「はい」と答えた。


 善戦していただけに、足を取られた事が悔やまれるのだろう。


「次は、私の仕掛けた単純な罠に引っ掛からない様にして下さい」

 それを聞いた全員が驚いていた。


「あの、罠ってなんですか?」

 佐伯3曹が、困惑気味に尋ねてきたので

「佐伯3曹の横移動に合わせて、砂を生成して撒きました。

 それに気付かずに足を載せたので、足を取られただけです。

 小手先や小技と思われていますが、状況に応じて使う事で効果的な結果を出します」


 3人の顔に不満が見て取れる。

 上位者が横綱相撲をする理由は無いのだ。

 それに私は、教導官としての立場で模擬戦を行ったのだ。

 だから勘違をしっかりと訂正しておかないと後々まで禍根になるので

「それと模擬戦は、単純な力のぶつけ合いの場ではありません。

 実戦を前提とした戦闘訓練です。

 正確な状況判断と戦術を用いる事が出来なければ、行う意味はありません。


 特に上位者と戦うなら、勝つ気で戦いなさい。

 己の力が何処まで通用するかを試すなら、全力の一撃のみや、手数の応酬のみの無意味な攻撃はしない事です。

 それに続く攻撃が無ければ、何の価値も有りません。

 様々な状況に対応する為の下準備戦術も出来ていないのに、模擬戦を行う事自体が無意味です。


 貴方達は、勝ち筋を持って戦いの場に立ちましたか?

 戦闘中に、勝ち筋を得る為に思考しましたか?

 自分が最も得意する攻撃だけに頼った攻撃をしてませんか?

 常に状況を正確に把握していましたか?


 出来ていないでしょう。

 だから想定外の事が起こると、何も出来なくなるのです。

 そんな事で、戦場という極限状態を生き抜けますか?

 どの様な状況でも生き抜く覚悟と意志が無ければ、死ぬだけです。


 何を分かるのかと言いたげですが、模擬戦の様子を見れば良く分かりますよ。

 無自覚かも知れませんが、甘えと慢心がよく見て取れます。


 模擬戦では、怪我をしても命まで失う事は滅多に有りませんからね。

 だから、攻撃のみに特化した事をしたのでしょう。

 普段からこの様な事をしているのなら、戦場でも同じ事をしたのでしょう。


 この様な特攻思想など、自身と仲間を危険に晒すだけのゴミ思想です。


 強くなりたいなら、常に考える事を止めないことです。

 常に最善の手を考え、実行する事を心掛けるのです。

 技術が未熟なら、正しい訓練を行い、習熟すれば良いだけです。


 それが貴方達3人に根本的に足りない部分です」

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