第81話 初戦闘(1)

 3月に入り、魔物討伐を明日に控えた夜、寮の自室に一人で居た。

 候補生の皆さんは、先週末に退寮した。

 2月中旬頃から行われた三次試験最終選抜の結果、85人中31人が最終試験である四次試験に進む事が出来た。

 そして、合格者31人中13人が女性隊員だった。

 そう、寮に居た女性隊員は全員が最終試験へ進む事が出来たのだ。


 候補生達は、自分達の部隊に戻って結果を報告、合格者は四次試験に向けて訓練に励むそうだ。


 霜月さん達は、別の場所を準備すると言ったけど、この場所に一人残った。

 候補生が退寮したので、朝夕の食事の提供はなくなったのだが、移動する気にならなかったので、そのまま居させてもらっている。


 広く静かになった部屋で、早めに就寝した。



 当日朝、普段通りに起きて、朝のルーティンを熟した後、寮の簡易台所で朝食を作って食べた。


 普段通りの時間に、霜月さんが玄関で待っていた。

 霜月さんに挨拶をして、一緒に寮を出て教導隊隊舎の備品室に移動する。


 そこで、今回の討伐対象の情報を再確認する。

 場所は、奥静岡の山中で周辺に民家等は無し。

 発見は、冬山登山をしていた一般人からの通報により、調査隊が調査した結果、魔物の群れを確認。

 規模は、亜人と思われる20体程を確認。

 移動は、最寄りの登山道まで車で移動し、登山道を徒歩での移動となる。

 調査・討伐隊は、太和さんを隊長として、戸神さん、霜月さん、山奈さん、黒崎さん、私の6人。

 山奈さんと黒崎さんも、教官でランクCの実力者だ。

 工程としては、移動を含めた5日間の予定で行われる。


 情報を確認後、前日準備した装備一式を確認してからマイクロバスに乗り込み、車で2時間以上掛けて登山道のある畑薙湖まで移動した。

 これから、山岳装備と武装と食料7日分(予備込み)を身に着けての登山と戦闘が待っている。

 登山道入り口で、サポート部隊と分かれて討伐隊は、登山道を登っていく。

 全員が身体強化を使って登山道を駆け抜ける。

 能力アビリティ身体強化を持っていない者も、技能スキル身体強化を使っている。

 

 能力アビリティ魔力塊マナ・コアに刻まれた能力であるのに対して、技能スキルは使用者が意図的に再現した能力の事である。

 その為、能力アビリティに比べ技能スキルは、出力が低く、応答速度が劣るが、訓練次第ではかなりの人が使える様になる。


 私も能力アビリティでは無く技能スキル身体強化を使っている。

 能力アビリティでは、出力が大きすぎて周りに合わせられないからだ。

 移動中も、周辺への警戒も怠っていない。

 全員、何らかの方法で周辺を警戒している。

 私は、広域探知、空間把握、魔力感知、悪意感知を使いながら走っている。

 現在の所は、魔物と思われる存在を感知出来ていない。


 1時間程、登山道を走った所で休憩する事になった。

 ここで昼食を取って、その後も走り続けて目撃情報の有った聖岳山腹に到着。

 既に日が傾きだしていたので、野営場所を探して野営準備を始める。

 野営と言ってもテントを張る事はしないので、周辺が開けて焚き火を焚いても問題が無い場所で、火を囲んで一晩を過ごす。

 寝ずの番も、一番最初に霜月さんと一緒に行いました。

 こうして、一日目を移動で終了しました。


 二日目、調査隊の報告が有った場所に行くが、もぬけの殻だった。

 そこに残っていた痕跡から、追跡を行ったが発見に至らず、見通しの良い広場の様な場所で、野営を行う。

 寝ずの番を終えて、寝入っている最中に強烈な悪寒を感じて飛び起きる。


 寝ずの番をしていた太和さんと黒崎さんが驚いた顔をして私を見ている。

 私は、探知系能力アビリティを全開に展開する。

 探索範囲内に悪意の塊が一つ、また一つと増えていく。


 太和「どうした。」


 私は、悪意を感じる方向を指差し

「あっちの方向から、悪意がこっちに向かってきます。

 7、8、9・・・増えてます。」


 黒崎さんが驚いた顔をして、慌てて集中する。

 恐らく、探知系の能力アビリティを使っていると思う。


 黒崎「感知出来ません。」

 困惑気味の回答が返ってきた。


 太和「全員起きろ。戦闘準備」

 太和さんは、大声で全員を起こした。


 黒崎「え?」


 霜月「どうした?」


 太和「神城が、悪意を感じた。

 黒崎が感知出来ていないという事は、まだ距離があると思う。

 総員戦闘準備」


 全員が立上り、

 太和さんが立ち上がり、両手につけているガントレットを打ち鳴らす。

 霜月さんが、ジャマダハルを両手に装備し構える。

 戸神さんは、ショートソードを抜き、下段に構える。

 山奈さんは、戦鎚ウォーハンマーを両手で持ち、正眼に構える。

 黒崎さんは、短槍ショートスピアを両手で構えている。


 私も、戦闘用ナイフを抜き戦闘準備をする。

 私は、まだ戦闘スタイルが決まっていないので、予備武装である刃渡り30cm程の戦闘用ナイフを装備している。

 悪意を持つ者が30体が、私達にゆっくり近づいてくる。

 緊張から、鼓動が早くなり、喉が渇く。


 黒崎「悪霊系と思われる敵性反応を検知。

 数は30,距離は、直線距離で約300m」


 霜月「優ちゃん、敵性個体に純粋な物理攻撃は通じない。

 魔力を纏った攻撃か属性攻撃を使用しなさい。」


「はい」


 周囲に悪臭が漂い始める。


 太和「嫌な奴がきたな。」


 私を始め、全員が顔をしかめている。

 敵性反応が近づくと悪臭も強くなってくる。


 息苦しい。

 喉がカラカラだ。

 目がチカチカする。

 頭がガンガンする。

 自分の鼓動がうるさい。

 誰かが、何か言っているが聞こえない。


 木々の隙間から敵性個体が見えた瞬間、恐怖に襲われた。

 どこからかガチガチと音がする。

 体が、硬直して動けない。

 思考が、「怖い、嫌だ、来るな、逃げたい」それだけに支配される。


 左頬に強い衝撃を受けて、吹き飛ばされ地面を転がる。

 衝撃を受けた方に顔を上げると、厳しい顔をした太和さんが拳を振り抜いた姿で立っていた。


 太和「恐怖に飲み込まれるな。

 彼奴等は、ランクFの下級魔物モンスターでしか無い。


 さあ、立て。」

 再び、敵に向かい構えを取る。


 私も立ち上がり、敵を見据えてナイフを構えた。

 正直、アレを正面から見るのは辛いし、近寄りたくない。

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