第221話 休日のお出かけ(5)

「お父さんが本当にごめんなさいね」

 と若菜さんが謝る

「いえ、大丈夫です」

 と若菜さんの隣を歩いていた都竹さんが答えた。


「お父さん、昔、機動戦略隊に所属していたのよ。

 魔物との戦闘で負った傷が元で、退役したんだけどね。

 そのせいか、ちょっとでも有望そうな訓練生や若い隊員が現れると、試そうとするのよ。

 本当に辞めて欲しいんだけど、何度言っても辞めなくてね。

 困っているのよ」

 と言って、ため息をついた。


「それに、未だに『俺が店主だ』と言い張っているけど、実際にお店を仕切っているのは、私と護さんだから、もうお店の経営には参加していないのよ。

 それに私達が引き継ぐ時に、護さん名義で個人事業主登記をしているから、完全に隠居なんだけどね、まだ認めたくないみないなの。

 本当に困ったものね」

 と言って苦笑いをしている。


「そう言えば、若菜さんは、どうして神奈川方面隊に居たんですか?」

 と鳥栖さんが聞くと

「希望したからよ」

 と答えが返ってきた。


 若林さんが

「入庁してすぐに行われる基本教育と基礎訓練中に、配属先の希望を取るんだよ。

 その時に、配属先と職種を希望出来る。

 定員オーバーにならなければ、そのまま希望先に配属される。

 定員オーバーの時は、希望外の配属地になる。

 

 私と若菜は、神奈川方面隊を希望し、私が戦闘職、若菜が後方支援部隊を志望したんだ」

 と言うと、土田さんが

「神奈川方面隊を選んだ理由って、やっぱり東京に憧れたからですか?」

 と聞くと

「全く無いとは言えないけど、一番は、ちょっと嫌な奴から逃げたかったんだ」

 と若菜さんが言うと、若林さんが

「あの勘違い野郎か」

 ため息交じりで、言った後

「訓練校時代に、若菜に纏わり付く奴が居てね。

 一方的に恋愛感情を持っていて、執拗に若菜に迫って来る傍迷惑な奴でね。

 若菜が何回断っても、周りがいくら注意しても、一切顧みない奴だった。

 本当に迷惑したよ。

 私も関わりたく無かったから、若菜と一緒に神奈川方面隊を希望したんだ」

 と実感の籠もった感想が返ってきた。


「随分と一途な人だったんですね」

 と田中さんが、ちょっと嫌そうな感じで言うと、若菜さんは

「あいつは、生理的に無理。

 あの蛇の様な目で、人の事を下から上まで舐めまわすよう見る姿は、今思い出しても悪寒が走る」

 と言って、自分の体を抱きしめた。


「だから、あいつと別の方面隊に配属されるのが第一で、次に後方支援部隊志望が第二なのよ。

 私は、お父さんと違って、戦闘はからっきしだからね。

 その代わり、情報処理系の能力アビリティは持っていたから、そっちを活かせる部隊に行きたかったの」

 と言った。


 郁代さんは

「じゃあ、どうして地元に戻ってきたのですか?」

 と聞くと

「お母さんが、脳梗塞で倒れたのよ。

 その介護の為ね。

 今は、完全に治って元気だよ。


 それに、結婚もしたし、訓練校を卒業して7年も経ったから、もう大丈夫かなと思ってね」

 と返ってきた。


 その後は、田中さん達と共に神奈川方面隊の後方支援部隊の仕事の内容や、神奈川に居た頃の話を聞きながらお店に向かう。


 大通りに出て少し歩くと、驚安の殿堂が見えた。

 土田さんが、後でちょっと寄りたいと言うと、他の3人も同意した。

 なので、若菜さんのお店の後に寄る事が決定したのだが、若菜さんはそのまま驚安の殿堂に入っていった。

 若菜さんのお店は、驚安の殿堂の1区画にあるテナントに入っていた。


 外から見るお店は、明るく女性向けのお店だと分かり易くなっている。

 思わず身構えると、私の後ろを歩いていた鳥栖さんに両肩を捕まれた。


 首をひねり、後ろを見ると

「どうしたの?身構えちゃって」

 と言うと、何か思いついた様な顔をして

「そうか、こういうお店が初めてなんだ。大丈夫。怖くないから」

 と言いながら、両肩を押してお店の中に入って行く。


 お店の入口の方は、ファンシーグッズが可愛らしく並べられている。

 他にも、可愛い小物やカバン等も並べられている。

 石割商店の方に並べられていた商品も多数ある。


 お店の中程に行くと、可愛い系の洋服が所狭しと並んでいる。

 その一角に、棚にEカップ、Fカップ、Gカップとラベルの着いた棚が並んでいた。

 当然、そこの棚周辺に居る人のほとんどが、お胸が大きい人ばかりだ。


 鳥栖さんが若菜さんに

「ここに並んでいる服は、他の服と何が違うのですか?」

 と質問をした。


「ん?。ああ、この商品は、胸が大きい人の悩みに対応した物よ」


「悩みに対応?」


「そうよ。胸が大きいとね。太って見えるのよ」

 と言って苦笑いをしている。

 土田さんが共感しているが、私達は分からず首を傾げていると

「普通の服だと、ウェストの所で絞ると丈が足りなくなるから、絞れないのよ。

 そうすると、胸からストーンとまっすぐになるから、太って見えるのよ。


 だからといって大きいサイズもなかなか無いし、可愛い物はもっと少ないわね。

 それに、大きいサイズが有ったとしても、胸の下側に大きな弛みが出来るから、太って見えるのよ。


 だから、これらの服は、胸の周りに余裕を持たせつつ、胸を強調しすぎない様に絞ったデザインになっているのよ」

 と教えてくれた。


「そうなんだ」

 と納得していると、奥の方を指し

「そっちには、胸の大きい人向けのブラジャーを置いているわ。

 大きいサイズだと、可愛いデザインの物が少ないし、市販品だとフロントホックの物は皆無だからね。

 だから、お店独自で製造販売しているのよ」

 と言いつつ、奥に向かう。


 奥には、多種多様な下着が置いてあった。

 一角には、背の高い体格の良い女性達が占めている場所があった。


「あそこは、スポーツブラを扱っている場所よ。

 他のお店では扱っていない様なブランドから、スポーツ選手御用達のブランドまで扱っているから、県内のスポーツ女子なんかもよく来るわよ」

 と教えて貰った。

 その一団の中に見た事がある人が混ざっている気もしたが、関係無い事なので見なかった事にする。

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