第123話 病院にて

 沈黙が支配した車は、粛々と進み、病院に到着した。

 私は、三上さんに報告後から平田さんの魔力塊マナ・コアの保護に努めていた。


 病院に到着すると、待機していたスタッフによってストレッチャーに平田さんを載せて院内に入る。


 私が病院スタッフに、平田さんの頭部のCTと脳波測定を指示していると、ヒステリックな声で

「その必要性は無い。

 どうせいつもの事だから病室で点滴をうっておけばいいの。

 貴方も余計なことしないで、さっさと去りなさい」

 と言いながら女性が歩いてきた。


 周囲が戸惑っているので

「教導隊及び思金おもいかね所属の神城准尉です。

 教導隊及び思金おもいかねの特権による指示系統を私に集中します。

 以後、私への反抗は隊規違反とみなします。

 今すぐ平田曹長の検査を行い、特殊防護病室への移送を行いなさい」

 とハッキリと聞こえる様に宣言する。


 それを聞いた病院スタッフが一斉に動き出す。


 それを聞いた女性は

「私は、ここの責任者よ。

 こんなガキの言う事聞くな。

 私の言う事に従いなさい。

 このガキをここから放り出しなさい」

 と叫んでいるが誰も言う事を聞かない。


 地団駄を踏んで叫ぶ女性を、病院スタッフは一切気にする事なくテキパキと動く。

「キー、なんで言う事聞かないのよ。そもそもあんた何なのよ」

 と叫びながら迫ってくる。


 山本さんが素早く回り込み右腕を背中側にねじり上げて動きを止める。

「痛い。痛い。痛い。私を誰だと思っているの!!」

 ヒステリックな声えでうるさい。


「元総理大臣 根岸ねぎし 勝蔵しょうぞうの孫、根岸 美奈子みなこ3曹。

 ランクDの鑑定士兼治癒士。

 それだけの下級隊員」

 私は努めて低く冷淡な声で言い捨てる。


 更に喚こうとする根岸さんを山本さんがより強く関節を捻り上げる事で封じる。


 病院の奥から、50代と思われるおじさんが息を切らしながら走ってくる。

 私達の前に来ると、膝に両手を着いて息を整えてから

「遅くなりました。

 ここの医院長を勤めさせてもらっている一ツ山 健吾です。

 状況は、思金の三上主任より聞きました。

 東海支局思金おもいかねの三上主任が到着までの間、我々は神城准尉に指示に従います」


「分かりました。

 よろしくお願いします。

 既に病院スタッフに検査と検査後に特殊防護病室への移送を指示しました」


 一ツ山「分かりました。直ちに状況を確認します。

 それと、この女がご無礼を働き大変申し訳ありませんでした。


 君達、この女を隔離病棟に閉じ込めておけ」

 病院のガードマンに指示を出し、二人がかりで喚きながら引きずられて行く。


 そのままの流れで、検査室に移動しようとした時に高月さんが

「そうだ、この子の検査もしてください。

 平田との模擬戦で両腕と肋骨を折ったんです。

 自分で治癒したそうですが、確認のために」


 一ツ山「分かりました。念のためレントゲン検査をしましょう」

 レントゲン検査の結果、骨折場所も分からない程の精度で修復出来てました。

 これにはレントゲン技師も一ツ山さんも驚いていた。


 その後、平田さんの検査データを確認すると、やはり脳死状態だった。

 私や伊坂さん達は驚かなかったが、病院関係者は驚いていた。

 なので、暴走を止める際の衝撃で一時的に脳死状態になっているだけで、時間と共に回復するとだけ説明した。


 特殊防護病室に移動し、部屋の外を伊坂さん達に護衛をお願いして、私は平田さんの現状維持に努めつつ、魔力塊マナ・コアを出来るだけ詳しく調べた。


 20時を少し回った頃に、高月さんが夕飯を持ってやってきた。

 そして、平田さんの状態を尋ねて来たので

「今回は、私が居るので死ぬことはありません。

 ですが、今のまま放置は出来ません。

 恐らく、2つある魔力塊マナ・コアを一つにするか、片方の魔力塊マナ・コアを封印する必要があると思います。

 最悪、両方の魔力塊マナ・コアを封印するという選択肢もありえます。

 そこは、三上さんと相談して決めたいと思います」

 と回答すると

「そこに、南の意志は考慮されないのね」

 と返された。


 なので私は

「意識が戻る前に、処置を完了しないと次回に持越しになってしまいます。

 次が今回の様に、幸運が舞い込むとは思いません。

 最悪、狂戦士化バーサク中に魔力塊崩壊マナ・コア ブレイクダウンが発生する可能性もあります。

 その時は、その場に居た人間全員巻き込まれますよ。

 それに、死ぬよりマシだと思います。

 少なくとも死んで悲しんでくれる人が側に居る以上、たとえ能力が無くなっても生きた方が良いと思います」

 と答えた。


 それを聞いた高月さんは、深い溜息と共に天井を見上げ

「はあー、本当に15歳なの?

 私達より達観しているんですけど。

 どうしたら、こんな思考が出来るのよ」


 こればっかりは、自分でもよく分からないので素直に

「さあ、分かりません」


「即答されると、こちらも答えようが無いわね」

 と言って一頻り笑った後

「さっきは、ごめんなさい」

 と謝ってきた。


「何の事です?」


 「ほら、移動中に怒鳴ってしまった事よ。

 貴方にとっては、任務だから言えなかっただけなのに、つい感情的になってしまって、ごめんなさい」


「全く気にしていませんから、忘れてください」


 高月さんは、ちょっと拗ねた感じで

「そういうところが可愛くないのよ。

 なんで、そう真面目に答えるかな」


「すみません」


「もう、謝らなくていいの。

 軽く流してくれれば良かったの。

 これでは私がイジメているみたいじゃあない」


「そうなんですか?

 能力が発露してからは、他人との距離の取り方がよく分からなくなって、正直どう返して良いのか困っています」


「そっか、貴方の年齢で戦術課配属って事は、隔離されていたって事だもんね。

 同年代との触れ合いが少ないうえ、大人に囲まれて生活していたからコミュニケーション能力に偏りが出てるのね。

 折角、訓練校に入ったのだから、同年代の子達とのコミュニケーションを一杯取った方が良いね。

 これは、伊坂班長と相談しよう」

 そう言うと、腕を組んで一人で納得している。

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