第128話 戦術課中部駐屯地(2)
高橋さんは急に考え込んだ後
「伊坂、この後の予定はどうなっている?」
「この後の予定は、駐屯地の案内だけです」
「そうか、なら神城を借りても大丈夫か?」
「大丈夫ですが、何をやらせるのですか?」
高橋さんは、凄味のある笑みを浮かべて
「ああ、ちょっと馬鹿共に神城の爪の垢を飲んでもらおうと思ってな」
伊坂さんは目を細め、こちらも凄味のある笑みを浮かべて
「分かりました」
と答え、高月さんは右手で顔を覆って居る。
その後、高橋さんの指示で隊証を外し、屋外訓練場まで連れて来られた。
高橋さんが、訓練場に居る全隊員に集合を掛ける。
少し遅れて、高月さんが衛生部隊を引き連れて合流した。
全員を前にして、
「今年度、訓練校に入学した神城だ。
当面の間、土曜の午後だけ此処に通う事になった。
待遇は隊員相当だ。
全員
反応は、不快を隠さない者、
機動戦略隊の隊証を着けているので、見事合格出来た様で良かった。
「
高橋さんの声で、不機嫌な6人が前に出てくる。
「お前達には、これから神城と模擬戦を行ってもらう。
戦術課の隊員としての力を見せてやれ。
それと、お前達には最低2回は対戦してもらうからな」
新島と呼ばれた人は、人を見下し、ふざけた態度と微笑を浮かべて
「怪我じゃ済まないですよ。2回も戦えますかね」
「それは、お前達次第だな。
双方、準備をしろ。
あと、全員で観戦する。
辞退は認めん」
高月さんから、私に合うサイズの防具と訓練用の戦闘ナイフを貰い装備を身につける。防具は、胸当て、腰当て、脛当て、籠手、ヘッドギアの5種類だ。
高月さんは、装備を装着中の私に小声で
「副司令、相当煽ってきたけど大丈夫?」
と聞かれたので
「大丈夫です。1対6でも敵ではありません」
と答えると
「確かにその通りだね」
と笑っていた。
装備を身に着けて、伊坂さんが審判とした立ち会う対戦場に立つ。
対戦場は、20m四方でその外側に隊員達が囲んでいる。
対戦相手とは5m程の距離を空けて向かい合っている。
外野の隊員達の中には、心配そうに私を見ている人もいる。
いつの間にかに、篠本さんと中之さんも観戦している。
私の初戦の相手は、下卑た笑顔を貼り付けた高野だ。
防具は同じで、武器に長剣を右手に持ち、
ハッキリ言って、今回の対戦相手の6人に敬称も敬意も必要も無い。
高橋さん曰く「自称天才の
素養はあるが自分から動かず、他人にお膳立てさせて成果だけを掠め取る。
全員が加虐嗜好を持つ事が最近発覚したそうだ。
最低な連中だ。
戦場に立ったのに、意識を変えられない時点で三流以下だ。
「双方、構え、始め」
伊坂さんの号令で、双方構えるが動かない。
私としては、先手を譲るつもりで手を出さなかったのだが、相手もそのつもりだったみたいだ。
その証拠に、顔に張り付いた歪んだ笑みが消えていない。
猪山「高野ー、ビビってんじゃあねえ」
「ちげーよ、後輩に先手を譲るのは先輩の努めだろが」
こいつら、馬鹿だ。
戦場に立って、そんな下らない事に意識を割いて、相手を思い込みで判断するなんて、しかも野次を飛ばした方に顔を向けるとか余程死にたいらしい。
私は、ナイフを下ろして高野に向かって歩みを進める。
高野の間合いに入った処で、大振りでロングソードを振り下ろしてきた。
体を時計方向に回転させながら左にステップを踏んで剣を躱し、左足を軸にして独楽の様に体を回転させ裏拳の要領でナイフを振るって高野の後頭部に叩き込んだ。
高野は顔面から地面に突っ込んで動かない。
「勝者、神城」
伊坂さんが宣言したので初期位置に戻る。
高野は宣言後にガバっと起き上がり襲おうとしたが、伊坂さんに取り押さえられ、一般隊員に指示を出して対戦場の外に連れ出された。
対戦場の外でブツブツと文句を言いながら、衛生部隊の治療を受けている。
2人目は、猪山。
身長は190cm以上はありそうな巨漢で武器は巨大なハンマー。
こいつの
こいつも下卑た笑顔を浮かべ
「高野、敵は討ってやるよ」
と軽口を叩いている。
互いに対面し、伊坂さんの合図と共に私に走り寄りながらハンマーを大振りで上段から振り下ろしてきた。
私は素早く懐に入り心臓の真上に
猪山は、私の突きなど魔力纏身の強度で防ぎ、自身と装備重量の前には微動だにしないと高を括っていたようだが、2m以上吹き飛び、驚愕を顔に貼りけて気を失った。
確かに制限状態での
霜月さんなら、超強度コンクリートで作られた1,000kg(1
それでも、1,000kgが1m位動くのだ。
猪山の装備込みの重量が400kg位だから、走り込んで来ても十分な破壊力を持つ事が出来る。
沈黙が支配する中、伊坂さんの勝利宣言が出て、ひっくり返った猪山は、伊坂さんの指示で一般隊員に引きずられて退場した。
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